13 極悪非道エルフと猫少女 3
自分の部屋に戻ったルナリアはベルトと矢筒を外し、弓を壁に立て掛ける。
そして服を脱ぎ捨てて風呂に直行した。
魔女の安息所には一部屋に一つ風呂が付いており、シャワーや湯船が自由に使える。
開業当時は風呂目当てに泊まる客もいたらしい。
それもその筈、昔の地下街には風呂と呼べるものが存在していなかった。
今では二番街三区に湯屋が立ち並んでいる為、そんなことも無くなったが。
体と髪を手早く洗い終え、ルナリアは湯船に体を浸して溜め息を吐く。
「ったく、街中走り回って探した挙げ句、リリの情報網を活用したっていうのに、落ちがこれかよ……」
そう言って伸びをするとルナリアは目を閉じ、湯船に全身を沈めた。
すると体がジワーッと暖められ、体の疲労が取れていく。
三分程潜り続けるとルナリアは湯から顔を出して再び伸びをする。
「さて、出るか」
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風呂から上がり、髪と体の水気を飛ばすとタンスから新しい服を出した。
「……全く同じように作られてるな」
アイテルがスペアを作ると置き手紙で言っていたが、まさかここまで同じものを作るとは思わなかった。
驚いたことに服の痛み具合まで再現されている。
アイテルの技術に感嘆しながらルナリアは服を着て、ナイフと矢筒を着け直す。
だが、新しいナイフが見当たらない。
おかしいと思って首を捻っていると足元に落ちていた杖がカタカタと震えた。
「そう言えばマシュリに投げつけてそのままにしてたのか」
ルナリアは杖を拾い上げると軽く上に投げる。
「ナイフ」
杖は空中でナイフに姿を変え、ルナリアにキャッチされた。
満足気に頷くと彼女はナイフを仕舞って弓を肩に掛ける。
「……暖まったら眠くなってきたな」
「にゃぁぁぁぁあ!?」
欠伸をして寝ようかどうか悩んでいた矢先、耳をつんざくような叫び声が屋敷中に響き渡った。
恐らくエントランスからだ。
ルナリアは弓を構えて部屋を駆け出す。
敵襲の可能性は低いが無いとは言えない。
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「ホルト君!目を開けてにゃ!死んじゃ嫌にゃ!」
「酷い……誰がこんなことを……!」
エントランスに行ったルナリアを待っていたのは、泣きながらホルトを揺すり続けているマシュリと、口元を押さえて目を見開いているアイテルだ。
後者は確実に笑いを堪えてるだけだな。
因みにマシュリの頭にはピョコピョコ動く猫耳が、腰には忙しなく動く尻尾が新しく生えている。
やはり私の見立ては間違っていなかったらしい、格段に可愛くなった。
マシュリはルナリアに気が付くと泣きながら彼女の胸ぐらを掴んだ。
「ルナリアさん!ホルト君に何をしたのにゃ!」
「待て、何故私が何かしたのが前提なんだ?まぁ、確かに頭を蹴り飛ばしたが……」
「にゃぁぁぁぁあ!?」
ルナリアが悪びれずに言うと、マシュリは叫びながら彼女を前後左右に揺さぶる。
ルナリアは自分を揺さぶる手を無理矢理引き剥がすと、マシュリを叩いて落ち着かせた。
「煩い、喚くな。ホルトを起こしたければ鼠を三匹生け捕りにして持ってこい」
「にゃ?それでホルト君は助かるのにゃ?」
「あぁ、そうだ」
「分かったにゃ。すぐに捕ってくるにゃ!」
マシュリは力強く頷き、屋敷の地下に向かった。
私がいない間にここは鼠が出るようになったのか……。
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マシュリの足音が聞こえなくなるとルナリアはアイテルを睨み付けた。
そんな事はどこ吹く風というようにアイテルはクスクス笑い続けている。
「アイテル、ホルトは死んでないだろ?」
「フフッ、そうね。あの子はホムンクルスだから別に呼吸とか拍動をしなくても生きられるのよ。だから寝てるときは無呼吸、無拍動なのよね」
面白くて仕方無いというように口元を押さえて笑い続けるアイテル。
そんな彼女を見てルナリアは呆れたように首を傾げる。
「何でそれをマシュリに教えてやらないんだ?」
「マシュリの愛がどれ程か見たかったのよ」
アイテルがそう言うと、ルナリアはつまらないと言いたげに首を横に振った。
「何だ、そんな理由か。てっきり泣いてるマシュリを見るのが楽しいからかと思ったぞ?」
「貴女と一緒にしないでくれるかしら?」
アイテルは心外だと言いたげに肩をすくめると、その場を立ち去った。
後に残されたルナリアは手近の椅子に座り、溜め息を吐く。
「愛、か……あの二人は一体どういう関係なんだ?」
「友人以上、嫁未満ですよ」
「世間じゃそれを恋人って言うんだよ。って起きたのか!?」
ルナリアが驚いてホルトを見ると、彼は弱々しく笑いながら起き上がろうとしていた。
ルナリアは彼に駆け寄ると、肩を押さえて起き上がるのを阻止する。
「無理するな、本調子に戻るまで安静にしてろ」
「怪我させた本人が言うことではないですよ?」
「煩い、怪我人は喋るな」
つっけんどんにそう言うと、ルナリアはホルトに背を向ける様にして椅子に座った。
マシュリが来るまで待つしかない。