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12 極悪非道エルフと猫少女 2

【本日の依頼内容】


仕事内容

マシュリの連行


依頼人

アイテル


報酬

不明



$$$



「さーて、御仕事の時間だ」


そう呟くとルナリアはそっとドアを開けて自分の部屋に入る。

そしてドアを開けた事を後悔した。


「ふにゃ~。良い香りにゃ~」


ベッドの上にはルナリアの枕を抱いて臭いを嗅いでいるマシュリの姿があった。

成る程、変人に飼われた猫は変態になるのか。


ルナリアは心を落ち着けてからナイフを取り出し、それを手の上に載せる。


「杖」


ナイフはカタカタと小刻みに震えていたが、すぐにガタンッと大きく揺れ、杖に姿を変えた。

軽く振って重さを確かめると、ルナリアはマシュリに向かって杖を投げつける。


「にゃっ!?」


ゴンッという鈍い音を立てて杖はマシュリの頭に当たり、そのまま床に落ちた。

ルナリアはベッドに近付くと、涙目で頭を押さえるマシュリの顔を上げさせる。

必然的にルナリアと目が合うことになったマシュリは顔を引き吊らせ、ピシッと身を硬くした。


「何か言うことはあるか?」


無表情のままルナリアがそう聞くと、マシュリはベッドの上に正座して彼女の目を真っ直ぐ見詰め返す。


「良い香りがしたから不可抗力にゃ、できれば直接臭いを嗅ぎたいにゃ」


「よし、反省してないな。知り合いの女衒に紹介してやる」


そう言ってルナリアが部屋を出ていこうとすると、マシュリは歩き去る彼女を引き留めようと足にしがみついた。


「嘘にゃ!申し訳にゃいと思ってるにゃ!でも抗えにゃかったのにゃ!」


必死に謝るマシュリを他所に、ルナリアは彼女を引き摺りながら平然と歩いていく。


「安心しろ、SM専門の所に紹介するように言ってやるから」


「聞いてないのにゃ!?謝ってるのに聞いてにゃいのにゃ!?」


「SMは良いぞ?男を虐めて罵声を浴びせるだけで金が入るからな。他の仕事をするのが馬鹿みたい思えてくる」


「もうしにゃいにゃ!お詫びに、にゃんでもするにゃ!」


マシュリが涙目で懇願したのが効いたのか、ルナリアは足を止め、冷たい笑みを浮かべて彼女を見下ろした。


「よし、よく言った。早速地下の実験室に行くぞ」


「にゃ?ルナリアさん今にゃんて?」


「今何でもするって言ったよな?地下の実験室に行くぞ?」


ルナリアがそう言い直すと、マシュリは顔を真っ青にして飛び起きる。


「にゃぁぁぁぁあ!!」


そして、そのまま叫びながらエントランスに向かって走り去った。

あまりの早業にルナリアは唖然としていたが、すぐに状況を把握し、己の愚鈍さに歯噛みした。


「クソッ!逃げられた!」



慌てて後を追うが、ルナリアがエントランスに着いたときには既にマシュリの姿はなく、ホルトが一人寂しく朝食を摂っているだけだった。

ルナリアはホルトの前に立つと、彼の目をしっかりと見詰める。


「ホルト、マシュリを見なかったか?」


真剣な雰囲気を感じ取ったのかホルトはサンドイッチを慌てて飲み込むとルナリアに笑い掛けた。


「マシュリさんなら外に走っていきましたよ」


「そうか、情報ありがとな」


ルナリアはそう言うと外に出ていった。

逃がさないからな?



$$$



入口のドアが閉まったのを確認するとホルトは隠れているマシュリに合図した。


「もう大丈夫ですよ、マシュリさん」


恐る恐る受付のカウンターから頭を出したマシュリはルナリアが居ないことを確認するとホッと息を吐いた。


「にゃ~助かったのにゃ。ホルト君、ありがとうなのにゃ」


「いえいえ、当然の事をしただけです。所で何故ルナリア様に追われているのですか?」


「地下の実験室に連れていかれそうになったからにゃ……」


「あぁ、成る程。確かマシュリさんは、あの部屋が嫌いでしたね」


ホルトが笑って頷くと、マシュリはプーッと頬を膨らませて怒りを露にする。


「あの部屋に入る度に記憶がにゃくにゃったり、背丈が変わってたり、胸の大きさが変わってたりするのにゃ!不気味にゃ!」


ブンブン腕を振って興奮するマシュリを宥めながら、ホルトはふとアイテルとルナリアの会話を思い出した。


「そう言えば先程、マシュリさんに猫耳と尻尾を付ける計画が発足していましたね」


「にゃ!?」


「何でも、その方が可愛くなるそうですよ?」


「か、可愛く……!」


マシュリは目を輝かせながらホルトの手を握る。


「私に猫耳が付いたら、ホルト君も可愛いと思うのにゃ!?」


「そうですね……」


ホルトは目を瞑って想像し始める。

五分程想像し続け、現実に戻ってきたホルトは爽やかな笑みをマシュリに向けた。


「最高に可愛いと思います!」


嬉しさと恥ずかしさが混じり合った不思議な感情に耐えきれず、マシュリは顔をほんのり赤く染めてホルトから目を逸らした。


「そ、そうなのにゃ?それにゃら猫耳着けて貰おうかにゃ……」


「是非お願いします!」


「わ、分かったにゃ。でも怖いから一緒に来てほしいにゃ……」


そう言うとマシュリは潤んだ目でホルトを見上げた。


「えぇ、分かりました。それでは行きましょうか」


目の前の娘を抱き締めたい衝動を抑えながらホルトは笑顔を崩さずにエスコートし始める。



$$$



「さて、ホルト。私が怒っている理由は分かっているな?」


あの後すぐにマシュリを地下に連れて行き、彼女をアイテルに預けたホルトはエントランスに戻ってきた。

そこで彼を待っていたのは殺気に満ち溢れたルナリアだ。

蛇に睨まれた蛙の様にホルトは動けなくなり、ルナリアに正座させられ、洗いざらい情報を吐いて今に至る。


「はい、貴女に嘘を吐いたからです」


「分かってるなら良い。取り敢えず歯を食いしばれ」


ルナリアがそう言った直後、彼女の蹴りがホルトの側頭部に炸裂する。

彼の体はそのまま吹っ飛び、バゴンッという音を立てて壁に激突した。


「痛ててて。中々身体に来ますね、これは」


「これでチャラにしてやるんだから感謝して欲しいくらいだ」


「それはそれは、ありがとうございます」


そう言って笑うとホルトは痛む体をなんとか起こした。

対するルナリアは不機嫌そうに鼻をならして自分の部屋に戻っていく。


一人になったのを確かめると、ホルトは手近の椅子に体を預け、フーッと息を吐いて天井を見上げた。


「どうにか生き延びました……」


そう言って自嘲気味に笑うとホルトは目を閉じる。

途端に体から力が抜け、彼は早々に意識を手離した。


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