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11 極悪非道エルフと猫少女 1

怒濤の一日から一朝明け、ルナリアはベッドの中で戦っていた。

そう、毎晩恒例の布団剥ぎ合戦である。


「ルナリアさん、晩御飯にゃ!皆待ってるのにゃ!起きて欲しいにゃ~」


口調こそのんびりとしているが、マシュリは凄まじい力で布団を引き剥がそうとしている。

あまり抵抗すると布団が千切れそうだ、と冷静に判断したルナリアはマシュリの引く力が最大になったところで布団を手離した。


「にゃっ!?」


バタンッと大きい音を立ててマシュリは後ろに倒れこむ。

すかさずルナリアはマシュリに覆い被さるようにして両手をつくと、マシュリの目を真っ直ぐ見詰めた。

いわゆる床ドンだ。


マシュリは何が起きたか理解が追い付かないのか、目を白黒させてルナリアを見つめ返す。


「にゃ、にゃにを……?」


「さーて、何をするんだろうな?教えてくれるか?」


ルナリアはクスクス笑いながらそう言うと、そっとマシュリの頬を撫でる。

途端にマシュリは顔を真っ赤にしてルナリアの頬をビンタしようと腕を振るった。

咄嗟にルナリアはその場から飛び退いて難を逃れると、欠伸をしてからマシュリを立たせる。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃぁぁぁぁあ!?」


「落ち着け、マシュリ。別に取って食ったりなんかしない」


「取って食う!?お、オーナーさんみたいにあんにゃ事やこんにゃ事を私にさせるのにゃ!?」


「しないって言ってるだろ。ってアイテルの奴お前に何をやらせてるんだ……」


「一緒にお風呂に入るのを強要したり、私の体を洗うと称して撫で回したりしたのにゃ。他にも色々にゃ事を…………」


「安心しろ、仇はとってやる」


俯くマシュリの頭を撫でて安心させると、ルナリアは弓と矢筒を装備して自分の部屋を飛び出した。

彼女の顔に邪悪な笑みが浮かんでいたのは言うまでもない。



$$$



エントランスに着くとルナリアは弓を構えて矢をつがえ、アイテルに狙いを定める。

突然の事にホルトは目をパチパチさせていたが、やがて顔を青くして机の下に避難した。


優雅に紅茶を飲んでいたアイテルは面倒だと言うように溜め息を吐くと、カップをそっと置いて立ち上がる。


「朝から一体何かしら?」


「黙れ、このセクハラレズ野郎!私に近付いたら殺す」


「安心して頂戴、仮にレズだったとしても貴女は襲わないから」


「ほざけ!マシュリを襲ったくせに」


ルナリアが吐き捨てるようにそう言うと、アイテルは目を丸くして驚いた。


「え?身に覚えが無いのだけれど……」


「しらばっくれるな!本人からの証言だ!」


「マシュリから!?」


アイテルはしばらく真剣に考え込んでいたが、すぐに手を打ってルナリアに笑いかけた。


「確かに覚えがあったわ。でも昔の事よ」


「よし、自白したな。それなら交渉といこう、取り敢えず家賃半額な?」


「いい加減にしなさいっ!」


ルナリアがニタリと笑って言うと、アイテルは憤慨してクロワッサンを彼女に投げつける。

両手が使えないルナリアはクロワッサンを口でキャッチすると、飛んできたそれをそのまま食べる。


深呼吸して両者ともに落ち着いた所でアイテルが話を戻した。


「人の話をきちんと聞きなさい。五年前まではマシュリは猫だったのよ」


「…………ふざけるな!」


「本当よ!昔マーシャルっていう猫飼ってたでしょ!?あの子を魔法で人間に変えて不老の魔法かけただけよ!」


そう言うと再びクロワッサンを振りかぶるアイテル。

対するルナリアは首を横に振って彼女の思い違いを否定した。


「違う!私が言ってるのは何故完璧に人間の姿にしたのかについてだ!」


「私に失敗作を作れと言うの!?」


「そうじゃない。いいかアイテル、よく聞け。マシュリは語尾に“にゃ”とつけてるんだぞ?猫耳と尻尾をつけた方が断然可愛いと思わなかったのか?」


驚きのあまりアイテルは目を見開き、手に持ったクロワッサンを取り落すと、力無く椅子に座り込んで項垂うなだれる。

因みに落としたクロワッサンは机の下に居たホルトがキャッチしてパクリと軽く平らげた。


雷に打たれたようにショックを受けていたアイテルだが、すぐに立ち直って顔を上げると力の込もった目でルナリアを見詰めた。


「ルナリア、私が間違ってたわ。私は魔法の準備をするから、貴女はマシュリを地下の実験室に連れてきて」


「分かった」


ルナリアはニヤッと笑って頷き、つがえていた矢を矢筒に戻して弓を肩に掛け直すと、自分の部屋に向かって駆け出した。


ルナリアが居なくなったのを確認してからホルトは机の下から這い出てホッと一息吐く。

その様子を見て、アイテルはクスクスと楽しげに笑った。


「良かったわね、ホルト。貴方はただのホムンクルスだから安心できるわよ?」


「腕を増やせと言われないように願っていますよ」


「そうね…………マシュリのアフターケア、よろしくお願い」


「分かりました。が、あまり彼女で遊ばないで下さい」


「分かってるわよ」


そう言うとアイテルは指をパチンッと鳴らす。

すると彼女の姿は煙の様に消えてしまった。


「また、転移魔法ですか……。それよりもご飯を食べないとですね」


残されたホルトは一人で食事を始める。

マシュリがホルトの為だけにと言って作ったサンドイッチは卵とハムを挟んだ簡単なものだ。

しかし彼にはどんな料理よりも美味しく感じた。

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