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10 極悪非道エルフの交渉術

一通りの忠告を終え、ルナリアは魔女の安息所に戻った。

ルナリアがエントランスを歩いているのを見つけ、マシュリは嬉しそうに笑って彼女に駆け寄る。


「ただいま、腹減ったから何か作ってくれ」


ルナリアが頭を撫でると、マシュリはふにゃ~、と幸せそうな声を漏らす。


「お帰りにゃ~、まだ朝御飯の時間には早いにゃよ?」


頭を撫でるのを止めるとマシュリは残念そうに目を伏せる。


「違う、深夜に何も食べてないんだよ」


「それにゃら、お客様と一緒にお食事にゃね」


「お客様?」


「カイザナス様にゃ」


ニパーッと笑って言うマシュリに対して、ルナリアは冷たい笑みを浮かべている。


「……そいつ今何処にいる?」


「あそこの席に座ってるにゃ」


そう言ってマシュリが指差した先にナイフを口に咥えて左右に首を振っている老人がいた。

妙な遊びがあったものだ。


ルナリアはツカツカと老人に近付くと、スパンッと後頭部を叩く。

叩かれた衝撃で口を少し切った老人は何も言わずに目だけで彼女に抗議した。

しかし、そんな事はお構い無しにルナリアは彼を睨み付ける。


「人のナイフを咥えるとはいい度胸だな?そんなにナイフが食べたいなら手伝ってやろうか?」


ナイフを老人の服で拭うと、ルナリアはそれを老人の口に突き付ける。

老人は目を丸くしてそれを退けると頭を下げた。


「わ、悪かったわい。お前さんの胸はタユンタユンじゃ」


「マシュリ、こいつ壊れてるから捨てといてくれ。多分生ゴミだ」


「にゃ!?」


「悪かった!本当に反省しとる!ボケてもおらん」


老人は捲し立てるように言うと、顔を上げてルナリアの顔色を窺う。

ルナリアはフンッと鼻で笑うとナイフをベルトに戻した。


「で?何でボケた振りをしてたんだ?」


ルナリアが適当な椅子に座って老人と向かい合うと、彼は忌々しそうに事の顛末を話し始めた。


「先代の区長が死んでな、次期区長に儂が推薦されそうなのじゃ」


「良かったな、名誉なことだぞ?」


退屈そうにルナリアがそう言うと、老人は憤慨して顔を真っ赤にした。


「何が名誉な事だ!街長の仕事を丸投げされるだけなのだぞ?怠慢な奴の尻拭いなど誰がやるか!」


「まぁ、そうだな」


身を乗り出して叫び散らす老人をデコピンで撃退すると、ルナリアは欠伸をして足を組んだ。

それでも懲りずに老人はぶつぶつと何かを言い続ける。


「儂は断固としてやらん。推薦など糞喰らえじゃ」


うんうんと適当に頷くと、ルナリアは立ち上がって老人の肩を叩いた。


「成る程な……。んじゃ、街長として命令する。お前、区長やれ」


「…………は?」


「聞こえなかったか?お前、区長や―――」


「それは聞こえたわい!それよりもお前さんが街長じゃと!?」


狼狽する老人を他所に、ルナリアはナイフでジャグリングを始める。


「言っとくが地下街は私が昔、私財を注ぎ込んで造った町だからな?私が街長で何が悪い?」


「それなら問題無いが……。だが、儂は断固としてやらん!」


相変わらず頑固な老人を見て、ルナリアはやれやれと首を振った。


「そうか、残念だ。もしやってくれたなら、さっきの発言を忘れてやっても良かったんだがな?」


「いっ!?」


老人は先程の発言を思い出して身を硬くする。

一度言った言葉は消えない…………金を積まない限り。


「怠慢な奴の尻拭いなど誰がやるか、だっけか?街長に対してその発言は万死に値するよな?」


そう言ってルナリアはジャグリングを止めて、二本のナイフを仕舞う。


「なぁ、カイザナス。どう思う?」


ルナリアは嗜虐的な笑みを浮かべてそう言った。

その上、彼女は新しいナイフを老人の鼻先でちらつかせて圧力を掛ける。

はっきり言って断らせる積もりはない。


流石に観念したのか彼はギリギリと歯を鳴らしてルナリアを見上げた。


「ぐっ!分かった……引き受けよう」


「快く引き受けてくれて何よりだ」


わざとらしくニッコリ笑うとルナリアはナイフを仕舞って席に着いた。

対する老人はうなだれて己の発言を悔いている。

ざまみろ。


それから十五分程するとマシュリが料理を持ってきて机に並べた。


「お待たせにゃ、グラタンにゃ」


「中々旨そうだな!」


「ホルト君が手伝ってくれたのにゃ」


「あいつも料理できるのか!」


「オーナーさんが味見をしにゃいように見張ってくれたにゃ」


「あぁ、アイテルは昔から味見と称して料理を全部食ってたからな。そう言えば、あの頃はノッグルが止めてくれてたな」


「にゃ?」


「いや、何でもない。頂きます」


手を合わせると、ルナリアはグラタンを一口食べる。

眉一つ動かさずにもう一口食べると、ルナリアは微笑を浮かべた。


黙々と味わっているルナリアを見て、マシュリは恐る恐る彼女の顔を覗きこむ。


「ど、どうかにゃ?」


静にスプーンを置くと、ルナリアはポツリと一言呟く。


「……旨い」


「それなら、よかったのにゃ!」


マシュリはホッとして胸を撫で下ろすと厨房に戻って行った。

彼女の姿が見えなくなったのを確認してルナリアは溜め息を吐いた。


「なんじゃ溜め息なんか吐きおって、旨いじゃろ?」


「旨いのは当たり前だ。恐らくマシュリは私が書いたレシピ本を使ってる」


「…………お主、多芸よな」


「1800年生きてれば多芸にもなる」


そう言うとルナリアは掻き込むようにしてグラタンを食べ終えると、自分の部屋に戻って行く。

後に残された老人は呆然と彼女の後ろ姿を見送る事しかできなかった。



$$$



【最終リザルト】


報酬

試し切り(済)

三区の区長選出


備考

マフィアの青年はベジタリアンになった。

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