9 極悪非道エルフの試し切り
ルナリアは逃げ去っていく老人を眺めがら笑った。
後で何て言ってやろう?
「は、護衛に逃げられたんじゃ、嬢ちゃんもここまでだな!」
状況を理解していないリーダーは笑ってルナリアに歩み寄ってくる。
彼女の腕を掴もうと手を伸ばした瞬間、彼の手首から先がポトリと地面に落ちた。
「は?」
相変わらず状況が理解できないリーダーは自分の腕を見て目を白黒させる。
そうこうしている内に今度は肘から先がズルリと落ちた。
「ヒッ!?」
今度はルナリアと腕を交互に見て悲鳴を上げる。
一方、ルナリアは予想以上の切れ味に頬を綻ばせていた。
「さすが軍神の剣なだけあるな。刃零れしないし、血も勝手に流れ落ちる」
「う、腕がぁぁぁぁあ!!」
「煩い、黙ってろ」
冷たくそう言い放つと、ルナリアはリーダーにナイフを投げつける。
ナイフはリーダーの眉間に深々と刺さり、彼女の望み通りに彼を静かにさせた。
ルナリアが手を翳すと、ナイフは独りでに動き出し、男の眉間から脱出してルナリアの手に戻る。
「中々使い勝手がいいな、これがあればドラゴンの相手も楽だ。人間何て取るに足らないだろうなぁ?」
そう言うとルナリアは邪悪な笑みを浮かべてマフィア達を見る。
「に、逃げろっ!」
「「ぎゃぁぁぁぁあ!!」」
一人が叫んだのを起点に彼等は一目散に逃げ出そうとする。
だが、それを許すほどルナリアは甘くない。
「逃がすかよ」
目にも止まらぬ速さで弓を構えるとルナリアは立て続けに三本の矢を放つ。
彼女の弓から放たれた三本の矢は、正確に先頭を走る三人の心臓を射抜いた。
「ガッ!」
「ヒッ!?」
「っ!」
倒れた仲間を見て恐れを成したのか、後ろを走っていたマフィアは思わず足を止めて後ろを振り返った。
恐らく彼らの目には五本の矢をつがえている死神が映ったことだろう。
「振り向いてる暇があるなら逃げたらどうだ?ま、もう手遅れだけどな」
同時に放たれた五本の矢は吸い込まれるように彼等の心臓を貫く。
ただ一人殺されずに済んだ青年はその場に膝をつき、怯えた目でルナリアを見た。
ルナリアは青年に歩み寄ると何も言わず彼を指差す。
するとルナリアの指先から水が現れ、彼の口から体内に侵入した。
「なっ!?」
何をされたのか理解ができない青年を他所に、ルナリアは一方的に話し始める。
「今すぐ三番街四区に居る、悪食ロッツィにこう伝えろ。久々に上物の餌が入った、好きなだけ食え、ってな」
「ひっ、は、はい!」
「良い返事だ。もし、伝えられなかったらお前は死ぬからな?心して仕事に挑め」
「はいっ!」
震える足を必死に抑えながら青年はその場を走り去った。
恐らく彼は言われたことの恐ろしさを理解していないのだろう。
理解していたなら戸惑ったり、泣き喚いたりする筈だ。
「ま、なるようになるだろ?」
これから起こる惨状を想像してルナリアはニヤリと笑い、歩き出した。
「ロッツィが来るぞ!一番通りにある家は窓とカーテンを閉めておけ!」
ルナリアは一番通りを歩きながら、そう叫び続ける。
その声を聞くたびに家々は忠実に窓とカーテンを閉めていった。
彼女が親切に忠告して回るのにも理由がある。
悪食ロッツィは人の生肉を好んで食べる狂人だからだ。
彼の食事を見たものは一生肉が食べられなくなると言われている。
もっとも、ルナリアは一日食欲が失せただけで済んだが。