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第3話 当たらなければどうということは……なんだこれ

 肩に当てていた部分が、俺を突き飛ばす。

 大きな音と共に、大量の煙が鉄砲から吹き上がる。

 その衝撃と光景に驚く……よりも、煙が目に入って来てすごく痛い。

「うっ」と呻いて、思わず鉄砲を取り落とし、しゃがみ込む。


「わっはっはっは!撃てたな!よくやった!」


 何が面白いんだ、このおっさん。

 何も面白いことなんか無かっただろ!

 と、聞こえてきた班長さんの言葉に毒づきながら、痛みを押し流すように目を瞬かせる。

 涙がポロポロと頬を伝って落ちる。

 火薬でポロポロ。

 鉄砲ってこんなに煙が出るものだったのか……。


「あ、当たりましたかね……?」


 涙を出し切ろうと、眉間にしわを寄せるほど強く目を閉じながら、班長さんに聞いてみる。


「さてなぁ。こいつはこの距離なら5発に1発……いや、船の間での撃ち合いだと10発に1発当たれば上等な部類だからな」

「えぇ……」


 そんなに当たらないものなのか。

 思っていたのと全然違うんだな。

 なんとか見えるようになった目で鉄砲を引き寄せ、再び握る。


「どちらかと言えば、敵をびびらせて戦意を挫いたり、煙幕を張る意味合いの方が強いかもしれん」

「じゃあ、このまま延々と撃ち合いをして、先に降参した方が負けということですか?時間がかかりそうですね……」

「心配すんな。本番はこれからだ。本番が始まれば、すぐに終わる」

「本番……?」


 本番ってなんだ?

 これ以上どうするんだ?

 先の展開が読めなさすぎて、鉄砲を撃った時には引っ込んでいた不安が再び頭をもたげてくる。

 と、その時、壁の向こう側でジャラジャラと金属同士がこすれ合う音が聞こえた。

 数瞬の後、木材が叩き割られる音がした。


「アンカーが刺さったな」


 班長さんは何が起きたのか見なくても分かるらしく、そう呟く。

 壁の向こう側を覗き見ると、かなりごつい鎖が何本か相手の船に伸びている。

 その鎖が再びジャラジャラと鳴り始める。


 近くの壁に弾がぶつかる音が聞こえたので、驚いて再び頭を引っ込める。


「一斉に撃ち掛けるぞ!弾込め!」


 皆が皆、個別での射撃をやめ、弾を込め、待機する。

 矢継ぎ早に様々な事が起こり、混乱の度合いがより深まっていくのが自分でも分かるが、とにかく指示通りに動く。

 再び鉄砲を持ち上げ、弾を込める作業に入るが、やはりまだ慣れていないため、手間取る。


「構え!」


 次の命令が飛んできたのは、なんとか弾を入れ終わってすぐのことだった。

 少し焦りながら立ち上がり、向こう側に目をやると、何か違和感を覚える。

 徐々に相手の船が近付いてきて……いや、こちらが近付いているのか?

 先ほどと違い、相手の白目が見えるほど近い。

 怖い怖い怖い怖い。

 でも……。


「やらなきゃやられる……やらなきゃやられる……」


 ぶつぶつと呟きながら自分に言い聞かせる。


「撃て!」


 一斉に轟く銃声。

 前回の経験を身体が覚えていたのだろうか。

 狙いを定めたあと、引き金を引く瞬間に顔を背け、目を閉じ、煙を避ける。

 すぐに屈んで目を開き、周囲を確認すると、やや濃いめの霧の中にいるような状態だった。

 先ほどは強く吹いていた風が、いつの間にかその勢いを弱めている。

 そのせいだろうか。


 滞留する煙にのどを刺激され、軽く咳き込んでしまう。


「接舷するぞ!衝撃に備えろ!」


 少し前に聞いた覚えのある命令が飛んでくる。

 同様の経験はもう済ませている。

 すっ転ばないように慌てて座り込んで身体を固定する。


 すぐさま、大きな衝撃が襲い掛かる。

 しっかりと身構えたつもりだったが、足りなかったらしい。

 後ろの壁に背を打ち付けたり、握っていた鉄砲が跳ね上がってぶつかってきたりで身体のあちこちに痛みが走る。

 もう少しこう……なんとかなりませんか……?

 なんというかその……色々と優しさが足りない。

 この世界に来てからずっとそうだから、今さらなんですが……。


「着剣!」


 不意に聞いた覚えの無い命令が発される。

 え?剣?

 そんなものないぞ。

 やたら細くて長いケーキナイフっぽいものならあるけど……。


「ショルダーバッグにぶら下がってるやつだ」


 戸惑ってる俺に班長さんが教えてくれる。

 あ、これなんだ……。

 まぁ、ナイフは短剣とも言うから、剣といえば剣か。

 魔法はないっぽいが、剣はあったな!

 どう見ても何かを斬れそうにはないが……。

 それで、これを……どうするんだ?

 よく見れば持ち手らしい部分が見当たらない。

 尖っているのとは逆側に、親指より少し直径の大きな穴が空いている。

 ゆ、指1本で持つ……というよりは、支えるの?


「貸してみろ」


 班長さんが俺の腰からナイフを抜き取り、俺が持っている鉄砲の銃口に取り付ける。

 お、おお、なんか槍みたいになったな。

 あ、斬るんじゃなくて突くのか。

 剣じゃねぇじゃねぇか!


「橋を渡せ!」


 橋?

 不思議に思って壁から頭を覗かせると、向こうの船に倒れるように小さな橋が何本か架かっていく。


「本番だ。行って来い」


 え?あれを渡って……向こうの船に乗り込むのか?

 あっちには鉄砲構えてる人もいるんだけど……。


「吶喊!」


 その声を合図に皆が立ち上がり、大きな声を張り上げながら一斉に走り出す。

 あ、トッカンって、突撃ってこと?

 多くの人たちが先を争うように橋に群がっていく。


 えぇ……?

 これが本番ってやつ……?

 銃で撃ち合うだけじゃダメなのかよ。

 こえぇよ。

 いや、撃ち合うだけでも怖いんだけど。


 その彼らを援護しているのだろう、一部の人たちは撃ち続けている。

 しかし、その甲斐虚しく、橋の途中で撃たれたり、バランスを崩して落ちていく人もいる。

 う、うわ、やばい。

 あれはダメだ。


 落ちて行った人を、怖いもの見たさに駆られてか目で追う。

 白いキノコが下に落ちていくのが見えた。

 あ、パラシュートか。

 このバックパックの中に入っているのか。

 そう思いながら背中の重みを確かめる。


「パラシュートを開く時はこのヒモを引っ張るんだ」


 下を覗き込んで、青い顔をしていたかもしれない。

 頭の中を読むように……いや、かなり分かりやすい反応を見せたであろう俺に、班長さんが教えてくれる。

 その手には、おそらく背負っているバックパックから伸びているであろう太く、割と頑丈そうなヒモが乗っている。

 先の方には円筒状の木が結わえられている。

 班長さんがヒモを手放したので、実際にどのあたりにヒモがぶら下がっているのか探してみる。

 軽く手を振ってみると、右の腰の高さあたりで先ほどの円筒状の木片に手が当たる。

 ここか。


「右のポケットに入れておけ。その方が分かりやすい」


 確かに。

 言われたとおり、上着の右のポケットにしまい込む。


 あ、あれ?パラシュートの引き出し方を教えられたってことは……。


 唐突に背中を強く叩かれる。


「ほら、お前も行け」

「で、ですよね……」


 右のポケットの中に手を入れ、パラシュートのヒモの存在を確認する。

 い、いざという時は頼むぞ……。

 頼んだからな!


「班長さんはどうするんです?」

「俺は……この通りの腕だ。この段階になったら、もう役に立たねぇ」

「で、ですよね……」

「ほら、お前の班のやつらに置いていかれるぞ」


 コワモテさん、二等さんの方を向くと、今まさに橋を渡ろうとしていた。

 すげぇメンタルだな……。

 とても真似できない……が、しかし、そこは悲しきかな日本人。

 少しの逡巡の後、右に倣えの習性で班長さんに渋々ながらという心持ちで頷き返し、立ち上がる。


「おい!落ちても銃は離すなよ!下でも降りた者同士で撃ち合いになるからな!」


 駆け出そうと一歩を踏み出した時、後からそう声をかけられる。

 もう振り返る余裕もなかったが、しっかりとその言葉を頭に入れる。

 ああ、もう、やんなっちゃう。

 ちくしょうめ。

 他の人たちと同じように、せめて威勢の良い掛け声で自らを奮い立たせようとするが……。


「う、うおぉ~……」


 我ながらなんとも気の抜けた声であることか。

 先ほどから心がくじけそうになる事ばかりで、胸焼けを起こしている感じだ。

 もういいよ……もう十分堪能したよ……。


 幾人かが、弾を受けてだろうか、呻きながら通路に倒れていたりする。

 ごめんなさい、ごめんなさいと謝りながらその身体を乗り越えていく。

 そうしながら何とか前に進み続け、橋に乗り上げ、渡り始める。

 申し訳程度に備え付けられている膝より若干低い高さの欄干があった。

 非常に心もとないが、今はその程度のものでもありがたみを感じる。

 橋の向こう側では既に大勢が鉄砲を振り回している。

 あの中に飛び込むのか。

 嫌だなぁ……。

 なんでこんなことに……。

 いや、もうここまで来てしまったんだ。

 覚悟を決めろ!

 ええい!ナムサーン!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

ご意見等お待ちしております。

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