第4話「厨二病設定はカッコいいけどわかりにくい」
何が起こったのか?
それは自分でもよくはわかっていない。記憶にあったのは、グリズリーみたいなのに吹っ飛ばされて、致命傷を負って、もうダメかと思ったら、無意識のうちに敵を吹き飛ばさせてたぐらいだ。
いざ我に帰り周りを見ると、その誰もが僕のやった行為に驚いていた。
「嘘……そんなまさか……こうすけ、今の魔術撃ったんだよ……」
「あ、あれが、魔術?」
「ありえない……昨日お父さんに魔術書を読ませてもらった程度って聞いたのに……詠唱もなしに……それに、怪我は!?……え……血が、完全に止まっている?」
白が僕を軽く起こして背中の部分を触る。制服は破れているが肌には傷一つだってついていない。痛みも感じない。自分が倒れていたところを見ると、確かに血糊がたくさんあるが、自分でもなぜこれだけ出血したはずなのに、傷がないというのがあまりにも信じられない。
自分がわかっているのは、グリズリーもどき、もといラーゼンベーアという魔獣を吹き飛ばすほどの武器を使えた。致命傷が塞がった。その二つだ。正直今は、なんでこんなものが使えるのか理由はどうでもよかった。
胸のうちから熱い感情が湧き上がってくる。自分の愛しい人を傷つけようとした敵が目の前で、口内の火傷に苦しんでいる。右手に意識を集中、もう一度同じように魔獣へと手をかざして、
「”ファイヤーボール”!!」
今度は意識して術の名前を言い放つ。それと同時にサッカーボールぐらいの火の玉が具現化し、ラーゼンベーアに撃ち出す。
今度は鼻へと当てて、皮膚表面を焼き潰す。おそらくは尋常じゃない痛みがラーゼンベーアに伝わり、苦しそうに咆哮をあげる。
「な、なんじゃこりゃ!?」
「マジっスかぁぁっっ!?」
よろよろと立ち上がるラドックとシバ。驚きは先ほどよりも大きく、その視線の先には僕がいた。
「お前、魔術士だったのか!?いや!今は答えなくていい!あとは俺たちに任せろ!!シバ!ハク!」
「了解っス!!」
「っ!了解!」
ラドックの指示が飛ぶと、二人とも武器を再び構えて、苦しんでいるラーゼンベーアに斬りかかる。渾身の力を込められたラドックの大剣が腹部の殻を剥がし、そこにシバ持っている軍用ナイフと、白の剣が突き刺さる。
刃が突き刺さると、痛みのせいなのか、火が付いているのにおかまないなく暴れまくる。
「う、うわわわ」
「手を離せ!!」
またもやラドックの指示が飛び、二人とも同時に武器から手を離してラーゼンベーアとの距離を開ける。一見暴れていて近寄れなさそうに見えるが、両手をブンブン振り回している姿は実に隙だらけだ。そこにラドックの大剣が、頭部に向けて振り下ろされる。
「くたばれぇぇぇえっっ!!!」
肉が圧力によってちぎれる音と、中の血管が破裂する音、血がぶちまかれる音とともに、ラーゼンベーアは断末魔が村全体に伝わり、ゆっくりとその巨体は小さな地響きを立てて倒れた。
刹那な沈黙。誰もがその結果に無口となっていたが、堰を切ったようにシバが叫んだ。
「いやっったぁぁあっ!!!ランク付き魔獣撃破っスよっっ!!おまけに村も守れたっス!!」
やった、のか……やった……やった!!
少しの間、自分がやった行為と、その場の急激な動きに呆気を取られて、それがどんどん妙な高揚感へと変わっていき、叫びたくなるほどの喜びに変わった。
「やった。やったよ!僕、白を守ることができた!!」
「こうすけ……こうすけ!!」
周囲の目なんて気にならない。ただ近くに来た白を勢いよく、力いっぱいに抱きしめる。
「白……無事でよかった……」
「もう……それはこっちのセリフだって……でもよかった……こうすけ……」
ずっとこのまま抱きしめてあげて、キスだって何度も何度もしてあげようという気分になるが、それを止めるかのように、ラドックの咳払いが聞こえた。
「たくよ……まるでおとぎ話の勇者と姫だな。だが現実にはそれでは済まされねぇぞ」
ラドックに続くように先ほどまで喜んでいたシバも入ってくる。
「そうっスね。魔術の話……じっくり聞かせてもらうっスよ」
「それに、お前が、本当に何者なのかをな」
戦闘の後処理を行い終えた僕らは、傭兵ギルドに集まった。そこには傭兵ではない村の代表者と、白のお父さんが座って、僕と白はその対面に座る形になる。シバとラドックはその間に座った。
最初に口を開いたのはラドックだ。妙に重苦しい雰囲気が漂う中、彼はとても冷静な声で喋る。
「コウスケ。お前は何者だ?どこから来て、今まで何をやっていた?」
「……」
答えることはできない。何より答えても信じてもらえないし、さらには魔術に関しては全然自分でもわからないんだから。
「そうか。答えたくないか……んじゃあ白のお父さん……トーラスに聞こう。お前は昨日の夜、こいつに何をやったんだ?」
「ラドック。ここでは俺の名前はトーラスじゃない。属性士と呼べ。そうだな……俺は長年魔術に携わってきたが、昨日やった行為ほど、俺は自分を称したいと思っている。コウスケに魔術の適性を調べるために魔術書を渡した。何難しいものじゃない。マナの反動が来ないはずの安全なものだ」
そういう白の父、トーラスの言葉に僕は疑問を思う。はっきり言って昨晩覚えているのは、何故だかこの父親に認められたと言うもの。それ以外はあまり記憶にはない。魔術書と言うのは……ゲームのイメージになるが本的なものでも渡されたのだろうか……だがそんな記憶は……
「それがな……こいつは反動を起こしやがった。どういうわけかわかんないぜ。ありゃもうそんじょそこらの連中が束になっても比較にできないほどのマナ反応。魔術適性は”円卓の騎士団”メンバーとどっこいどっこい。それが旅人をやっているわけだからな……騒ぎが起こらなかったら今頃村の外へと追放していたところだ」
反動……なるほど、おそらくはマナの反動を直で受けて記憶が吹き飛んだのか……って、なんでそんなこと僕はわかるんだ!?
「そんな!追放だなんて……コウスケは私たちを、村を守ってくれたわ!その恩を仇で返すつもり!!?そんなの許せない!絶対にっ!!」
白が机を思いっきり叩き、古い机にはヒビが多少入る。その瞳は怒りと困惑といったところだろうか。
少しは予測していたものだ。例えるなら羊の群れの中に、狼がいるようなものなのだろう。用心棒である番犬がいても、群れの中にいるという事態が嫌なんだし、恐怖も感じる。
トーラスはとても冷静に、されども非常に重く口を開ける。
「ハク。魔術適性が高すぎたらどうなるかわからないお前じゃないだろ。おそらく今回の魔獣の件は反動によって刺激されたものだろう。コウスケには悪いが……ここでは君を見きれない。村民200人の願いだ」
「そんな……だったら私がいっぱい頑張る!!白い吸血鬼の名に誓ってみせる!!」
「ダメだ。どれだけお前とラドック、シバが強くても、今回のような数の猛襲が来た後に質の一撃が来たら抑えきれない。さらに言うなら……たった一人。しかも余所者を助けてやるためにそんな労力を払うわけにはいかない」
「嫌!!絶対に嫌!!私絶対に賛成しない!!こうすけ一人を犠牲にしろだなんて、絶対に嫌だ!!」
「白……」
目頭に涙を溜めながら白は叫ぶ。確かに、僕だって嫌だ。せっかく出会えた彼女とこれからいろんな恋をしていくんだろうか。とか妄想とかできるぐらいに未来が見えていたのを、突然起きたものにまた奪われるんだから。でも____
「どうしてもこうすけを追放するならお父さんでも容赦しない!!ラドックもシバもそっちにつくんだろうけど私は一人で十分!!徹底抗戦するわ!!」
「白。いい加減にしなさい」
「絶対に追放を撤回しない限り暴れ続けてやるから!!みんなの作物だってめちゃくちゃに____」
「いい加減にしろっっ!!!!」
白の睨み顔に負けないほど、トーラスは怒鳴った。白は、久しぶり見た自分の父親の怒りに触れて少し後ろに下がる。額には汗を浮かばせていた。
「お前がどれだけコウスケを気に入っていようが、これは集団のためなんだ!お前一人の我儘が通る思っているのか!!俺はお前をそんなわからずやに育てた覚えはないぞ!!」
「わ……わからずやは……お父さんと……みんなの……方……」
怒られたことにより感情が爆発したのか、声が上ずる白。こんな時に勢いに負けて何も言えない自分が悔しく感じる。だって、相手のことが全部正しいと思うからだ。
「お前が言っているのは、この村の人間を全員危険にさらしてもいいということだ。お前はコウスケのためなら村人全員、生贄に捧げるつもりか?」
「っ!!……ぅ……うるさい……うるさいうるさいうるさぁい!!!みんな私のことわかんないくせに!!勝手なこと言わないでよ!!」
「まるで子供の逆ギレだな。それで傭兵としてよくやってこれたものだ。ラドック、娘の契約書を持ってきてくれ。確か親が破り捨てれば、当人の意思と関係なく傭兵資格を剥奪できるんだったな」
「う、あぁ……」
言葉がついに詰まる白。それを見ていたラドックは無言で奥の部屋へと行き、紙っぺらを一枚トーラスの前に出した。ラドックは白の味方にはならないつもりらしい。
シバは不安そうな顔で白とラドックの双方を見ているが、ラドックの選択した方に行くらしい。でもな……白に味方がいないわけじゃない。
「さて。聞き分けのない娘が、傭兵という気高い職業を汚してしまったな。公共のための戦士が、自己のために公共を捨てるだなんて認められんことだ」
「ぁ……くぅ……」
「待ってください」
席を立ち上がって、契約書を持ってそのまま破ろうとするトーラスを止める。先ほどと変わらない冷たい視線で僕を睨みつけながら止まった。
「なんだい?これは家族同士のことだ。君が入る余地はない」
「もともと僕の扱いによって生じた問題です。その問題の副産物に、白がやりたい仕事を無理やり辞めさせられることはおかしい。しかも強引な誘導で」
「こ、こうすけ……」
「僕は……この村を出て行きます。1日だけでしたが、ありがとうございました」
そう言って無理やりながらも、話の元を戻した。そうだ。僕がここからいなくなれば全ては問題がない。というか、それを狙ってやったんだな。
トーラスはしばらく考える(フリだろうか?)静かに頷いた。
「そうか。ならこの話はなかったことになる。ラドックすまないね」
「いいや。これも腐れ縁だ。よかったなハク。これでお前は職を失わなくて済むし、村は平和になる」
「……卑怯者」
「ああ。そうだな。でも名誉ある卑怯者だ。大勢の命を救った」
白の睨みつける視線を避けるかのように、目をつぶってその場を立つ。
「すまなかったな。あんたもなぁ……」
奥の部屋へと行こうとするラドックは、ドアノブに手をかけながら、振り返らずに僕へ言った。
「いや、気にしてないよ」
「そうか。ま、生きてたらまたどこかでな」
ドアを開けて部屋の奥へと消えていく。シバも慌てながらそれについていく。部屋から出ようとする前に振り返り、
「失礼します皆さん!それと、コウスケさん。ハクさんや隊長、アタシも助けて下さりありがとうっス!それだけは感謝してますのでどうか、ご壮健なれっス!!では!」
一礼を深々としてシバも奥の部屋へと行き、扉が静かに閉められた。
一気に静かになった部屋で、村長がようやくと言わんばかりに動き出して、僕の前に小さな風呂敷袋を出した。
「これはほんのすこしのお礼じゃ。すまんのぉ……」
「いえ。ありがとうございます」
それに続けとばかりに、トーラスが一枚のフードを取り出す。
「こいつは一様対魔加工がされている。来ている服もすこしボロボロにしてしまったしな。これを着てくれ。心配しないでくれ、呪われているわけではないからな」
「そんな……ありがとうございます。大切に使います」
そうか。とつぶやくトーラス。白に視線を移し、一息いれて立ち上がる。
「それでは期限を夕方までにさせてもらう。それまでに出てもらわないなら、こちらも力づくでということになるからな」
「はい。何から何までありがとうござました!」
互いに軽く一礼をすると、トーラスと村長の二人が外へと出て行くと、しん……と静まった部屋で残されたのは僕と白だけになった。
「……結構早く帰ることになったけど……白との思い出絶対に忘れないよ」
「………」
「心配しないでよ。そりゃあ寂しいけどさ、それで白のことを苦しく感じることがないだろう。僕が知っている白は_____」
そう言いかけてた僕に強く抱きしめてくれる白。肩を震わせて、しゃっくりをしている彼女は、顔を見せてくれない。
「顔見ないで……ものすごい……ぐじゃぐじゃだから……」
「……うん」
「愛してるから……今度出会う時は、私、ちゃんと独立するからさ」
「ああ……頑張って。僕も頑張って、白のことを迎えに来るから」
旅立ち、にしては偉く軽装備だ。破れた制服の代わりにはトーラスから受け取った明るい茶色のローブを着て、学校指定のカバンには、風呂敷包の中にあった食料や医療品をできるだけ詰め込んで、残りはシバからもらった、腰に巻いてつけるタイプの軍用ポーチのあまりに入れて装備している。軽い装備品で済ませているのは、どうせ数キロ先にある魔方陣までの旅だからだ。
入り口付近には、多くの村人たちから見送りに来てくれていた。なんというか、恥ずかしいな……
「頑張れよ!」「ありがとう!」「また来いよ!」
悪意を持ったものではない追放。それは村人たち全員わかっているようで、侮蔑みたいなものは感じなかった。それぞれの挨拶に頭を下げていきつつ、入り口へと進む。入り口門の前につくと、シバとラドック、そして白が待っていてくれた。
「ありがとう。シバ、このポーチ大切に使わせてもらうよ」
「いえ……どうせあまりもんっスから。また言いますがお元気でっス」
敬礼をするシバ。とても硬そうなものではなく、どこか柔らかみがあるような敬礼。見よう見まねで僕も敬礼を送る。
「生きていればまた会える。死んじまったら会えないからな。それを忘れるな」
「ああ。また会おうラドック」
ラドックと固い握手を交わして、最後に白と向き合う。
「……こうすけ……また、会えるよね?」
「もちろんだよ。今度は、僕の原因をどうにかして、もう一度一緒に過ごそう」
「うん……大好きだよ……」
ああ……なんだか恥ずかしい……けれど、それと同時に胸が苦しくも感じる。僕はまた、彼女と別れなくてはいけないなんて。
でも、今度は永久の別れではない。いや、別れなんてものは永久的なものはないのかもしれない。
それでも、今は彼女を愛おしく思う。
頭を数回撫でてあげて、名残惜しそうに後ろへ下がって、入り口へと振り向く。
「どうもありがとうございました。また、出会えることが叶うのならば」
僕は歩き出す。多くの人の別れの声を聞きながら、僕は歩き出した。
振り向くことはしなかった。今振り向いたら、やっぱり離れたくないと、思ってしまうからだ。
時間は一時間もかからなかった。数キロ先の地点。昨晩のうちにもらっておいた魔方陣の場所までの地図をもとに、歩いていくと、すぐにその場所へと到着する。
しかし、違和感があった。妙な感覚、何かが残ったかのように、まるで重苦しい空気。
そしてそれは、目の前に起こっていることに気がついたのは、そう長くはかからなかった。
「魔方陣が……ない?」
何度も地図と自分がいる場所とを見合わせるが、間違ったものはない。自分の記憶の中でも、ここの近くは見覚えがある。なのに、なぜか魔方陣がない。
すでに空は、夕暮れを迎えようとしていた。