第3話「剣を振り上げて剣を振り下ろしてまた剣を振りおろして……あれ?」
木と草が生い茂る森の中、一本の道路があった。
道路と言ってもアスファルトなどで舗装されているのではなく、馬車などが跳ねないように石と草が払いのけられている程度のもの。一見すると獣道に近い。
そこを走り続ける二騎の騎兵がいた。一人は老練な騎士。もう一人は若い女騎士。両者ともに着ている鎧が所々欠落してたり、異常に破損していたり、汚れたりしてる。
「頑張れ!あともう少しでラルス村だ!白い吸血鬼に剛鉄もいる!だから希望を捨てるな!」
老練な騎士がそう若い騎士に叫んだ。
披露がすでにピークに達していたその女騎士は、額をから尋常じゃないほど汗を流し、頬には泥と血がうっすらとついている。
老練な騎士もすでに一戦交えるほどスタミナがない。装備しているものはたかだか長剣が一本。後ろから追いかけてきている脅威に対しては不十分な武器だった。
「隊、長!すみません……私……もう……ダメ……ここで、囮になりますから……隊長は!!」
「うるせぇ!グダグダ言うな!ただ前に向かって走れ!!」
それは自分にも向けた言葉なのかもしれない。王都と比べてほとんど整備されていない近い凸凹道を無理やり通りつつも、ここまで逃げてこれたのはひとえに意地だけ。そのこと自体はこの老練な騎士はわかっていた。
ゆえに諦めない。諦めてはいけない。もう少しで目的地までつけるという希望を信じて。
しかし、それはあっけなく、若い女騎士の転倒で崩れ去った。たまたま空いていた穴に馬が足を突っ込んで、そこに倒れてしまう。放り投げ出される若い騎士は、地面に体を打ち付ける。
「あ、がぁ!?」
「シータ!!」
老練な騎士は馬を急停止させて素早く降りて、若い騎士に迫る脅威の攻撃を長剣でうち払った。しかし全てを打ち払う力は残っておらず、攻撃の一閃が老練な騎士の脇腹をかすめた。正確に言うならえぐり取られた。
「た、隊長!?そんな、私のために……」
「うるせぇ!!いいか、お前だけでもいい。とっととラルス村に行け!」
そう言うと隊長である騎士は、部下である女騎士を片手で引きずって、自分の馬に乗せる。
「ま、まさか……ダメです隊長!!諦めたらダメって、隊長が言ったんじゃないですか!!」
「はっ。だから諦めていないよ。行け。俺たちの分まで長生きして、いい女になれよ」
隊長が馬の尻を叩くと、馬はただただ道のりを走り始めた。若い女騎士はずっと老練な騎士に制止を叫んでいたが、その言葉が彼に届くことはなかった。
「……さて、時間稼ぎさせてもらうぞ!」
しかし、騎士の目論見とは大きく異なり、その勝負はあっけなくついた。剣が弾き飛ばされ、鎧ごと老練な騎士の心臓に脅威の攻撃が貫いた。
脅威はさらにその速度を速めて、若い女騎士が逃げていく方向へと進み始める。
つい、今朝のことであった。
朝食を取り終えた僕と白は、昨日行った傭兵ギルドで雑談をしていた。会話の内容は今朝の理不尽な攻撃について。気がつかないうちにそうなってしまったのだからこっちの言い分も聞いて欲しい。そんなことをラドックに話すと、彼は大きく笑った。
「がっははははは!!!まあ災難だったなぁコウスケ!」
「ま、まあね」
にしても昨日軽く挨拶しただけなのにここまでフレンドリーに接してくれるとなると、妙に疑ってしまうのはなぜだろう。
「でも、白のおっぱい揉めたんだろ?あいつ見た目に反して結構でかいからな」
「は、はぁ」
確かに。昨晩のお風呂の時に見たが、すごい大きかった。あれはDか?それともCかな。
そんな会話を耳にした白が、机に勢いよくお茶を置いて会話の空気を破る。
「ラドックさん。そんな下らないこと言ってないで仕事をしてください」
「へ、何ならクライアントを連れてこいってんだ。あ〜あ。何で俺こんなところに置かれちまったんだろうなぁ〜」
「たく……こうすけもお茶飲む?」
「あ、じゃあ貰おうかな」
うん。と元気よく返事をする白。さながら新婚の嫁というような感じ……仕事中なので着ているものが、出会った時のマント付き革の鎧だが、それもいい!なんか格好いいし。
「……お前ら本当に仲がいいな。どんだけ意気投合してんだよ」
うぐ。痛いところをつかれた。
まあ確かに、表向きには僕と白は出会ったばっかりの人間なのだが……感覚的にはもうこう、カップルというべきか……久しぶりに出会えて恋心が爆発しているような感じ。
これからは少しだけ自重しないと……
「ま、まあ……仲良くなるには別に早さとか関係ないだろうし。それに言うなら昨日挨拶程度しかしていない僕らがこうやって距離感を開けることなく話し合えているのも……早くないかな?」
「ふーん……まあ俺距離感とか大っ嫌いだからな。そういうの考えずに話していくタイプなんだが……ん?なんか外が騒がしいな?」
ふとラドックが外の方を見るのに釣られると、窓越しに村の入り口に、昨日と同じぐらい、もしくはそれ以上の人だかりができていた。
と同時に、ギルドの扉が勢いよく開かれる。確か、ベネットだったか。泥だらけの服を着た青年が息を荒くしてやってきている。
「おいおいどうした?あの人だかりはなんだよ?」
「た、大変だ……はあ……はあ……はあ……」
一呼吸、置かれる。その瞬間、わずかにだが僕は嫌な緊張感を肌で感じる。
「ポール村の、騎士が、ボロボロな状態でやってきた!!」
ベネットから聞いた話だと、
仕事を始めようとしたら、一人の女騎士が変な体勢で馬に乗ってきて、村の入り口を通ると否や、そこに転がりおちた。そして自分が隣村であるポール村の騎士で、この村の傭兵たちに用がある。らしい。
実際に現場に着くと、ラドックと白の二人が人混みを分けて通り、やってきた若い女騎士と対峙する。女騎士は見るからに疲れ切っていて、今にも意識が飛びそうなのを我慢していた。
「おら、御望みきたぜ。俺はラドック。こっちはハクにコウスケ。一体何があった?」
ラドックが女騎士に話しかけると、彼女は安堵の表情を浮かべる。
「あなたと……あなたが……剛鉄と……白い吸血鬼……やった……やっと会えた……はあ……緊急……自体……魔獣が……村を……襲って……全滅……」
「そうか。魔獣はどこにいるか覚えているか?」
「ずっと……私と……隊長を……追って……はぁ……」
「お前の隊長は?どうした?」
「……たい……ちょう……ごめ……さい……ふぇ……」
「泣いてるんじゃねぇ。死んだのか?それとも生きてんのか?はっきり答えろ!!」
先ほどから力強く聞くラドック。先ほどまでの雑破なものいいとは違い、非常に真面目に聞いている。白も同じく、引き締めた表情で女騎士の言葉に耳を傾けている。
「隊長……囮に……最後……わかんない……」
「……わかった。とりあえずゆっくり休め。泣くのはその後でいっぱい泣け」
「りょう……か……い………すぅ……」
死んだように眠り始める騎士。それほど疲れていたのだろうか。
ともかく情報を聞いた二人は少しだけ考えて、作戦を立てる。
「とりあえず魔獣がやってくることはわかったんだ。村全体に避難指示を出せ!緊急用の村中央だ!ハク!お前はコウスケを連れて避難させろ!」
「了解。こうすけ、ついてきて」
「え、もう、か?それほど素早くきているのか魔獣ってのは?」
現実では体験したことがないが、基本的にこう言う魔獣とかだと、大抵群れで来るから遅くやってくるイメージはある。
「おそらくな。村を襲って全滅状態に至るってのは、魔獣の個体が強いのか、もしくは大規模な群れで行動しているかのどちらかだ。もしも後者ならば結構手遅れに近い。なぜなら____」
ラドックが言いかけた瞬間、まるで雪崩が起きているかのような音が聞こえてきた。方向は村の入り口。
それに気がついたラドックと白の両名が剣を鞘から抜く。
白は持っているのは片刃の長剣。ラドックは大剣を両手で持ち上げる。
入り口の向こう側から遠目で見える土埃が、徐々にこちらへやってきて、それを発生させている原因が見える。
数十匹にもなる、狼のような獣の群れだ。
「あれが……魔獣……」
「ちぃ……面倒な方が当たっちまった!行くぞハク!奴らに白い吸血鬼としての異名を教えてやれ!」
「了解!こうすけ、お願いだけどこの人を連れて村中央の建物に逃げて。そこは一様シェルターみたいなものだから」
と、倒れていた女騎士を一度抱きかかえて僕に手渡した。
村の中央……確か白の家の近くだったはずだ。
「わかった。その、白……気をつけて」
「もちろん……私は、強いからね」
にこりと笑顔を見せる白。一度地面さしていた剣を手に取り、戦闘態勢に入る。それの印象としては、純粋な恐怖を少しだけ感じるものの、絶対に守るという意思の硬さが表面上に現れたという感じだった。
二人にその場を任せた僕は、女騎士を抱きかかえたまま村中央へと走り出す。周りにいた村の人々も村中央の建物に集まっていた。農作業中だったのか、誰もかれもが泥だらけな格好をしている。村人たちは何も持っていないのですぐに建物の方へと行けるが、こちらは女騎士の分重いので少し遅れている。
「早くしろ!旅人!!」
扉を閉めようとしているベネットが急かしてくる。
これでも一様早くしているつもりなんだ……その、重くて……
そう思っていると、後ろから何かの気配を感じた。
「ヤベェ!逃げろ!!」
後ろを振り返ると、白とラドックが取りこぼしたであろう狼の魔獣がこちら向かって全力で走ってきている。
「ひ、ひえぇ!!」
情けない叫び声を出しながら、この世界に来て二回目になる全力疾走を行うも……ダメだ!スピードが違いすぎる!と、RPGのように、もう一匹に先回りされた。
飛びかかってくるであろう、その瞬間。数発の銃声に近い音が鳴り響いて、狼の魔獣の頭部が破裂する。
「危機一髪っス。大丈夫っスか?」
「し、シバ……」
シバが短機関銃らしき武器を構えていた。すかさず次の狼の魔獣に狙いを定めて発砲。薬莢などが飛び出してくるわけではないもので、どういう原理で弾丸が発射されているのだろうか?
「何してるんっスか!!コウスケさんがここにいると、アタシ隊長のところへ行けないっス!!早く立って下さいっス!!」
「へ……あ、ああ!!シバも気をつけて!!」
思いもしなかったものを見た衝撃と死んだかもしれないという事態から我を取り戻すと、女騎士を再び担いで村中央の建物に入り込む。と同時に、ベネットが扉を閉めて鍵とかんぬきをかけた。
「たく……危なかったなぁ……シバが来なかったらお前死んでたぞ」
「あぁ、全くだよ……それよりも、先シバが持っていたあの武器って、銃かい?」
「は?銃以外のなんだって言うんだよ」
ベネットは当然のことを聞かれたようで、こちら残念そうなやつを見るような目でいう。
なるほど……。この世界には銃があるとは思わなかった。でもそれなら剣なんて廃れていて当然だと思うけど……。
一心地ついて、女騎士を用意されたベットに寝かせる。彼女は戦闘の際に着いた汚れなどが付いていた程度で、特に重症はないというらしい。
中央の建物は、周りの家より少し大きい程度のドーム状に似た建物だ。内部もそれと同じく、円型をしており、地下室があった。ちょうど地下がシェルターらしく、そこには老人や女性、子供などが隠れている。
1階、2階には男たちがそれぞれ弓矢などの武器を持って魔獣たちと応戦しており、その中にはベネットも慣れない手つきで弓を魔獣に撃っている。
僕も何かできないかと弓矢などを触らせてもらうが、全然当たらない。というか飛ばない。
窓から数メートル程度飛翔して、地面に刺さり落ちてしまう。
「ええい!素人以下じゃないか!後ろに下がってくれ!」
他の村人からそう言われては仕方ない。おとなしくシェルター前でじっとしている。
ふと、自分の手を眺めて、腕の筋肉に目を移す。
_______僕は、彼女に守られているだけの彼氏なのか?
そんなことを思い始めては、自分の非弱さに苛立っていた。
さっきから、逃げて、助けてもらい、そして役立たず。最初の日でさえ白に助けてもらわなければ死んでいた。
僕はいつだってそうだ。負けそうなものからすぐに逃げ出し、絶望にすら抗おうとせず、誰かに助けを請う。だから中学の時だって……逃げていたんじゃないか。
「白ばっかり……辛いじゃないか……」
そうだ。前にも、こんなことがあった。別に戦闘をしていたわけじゃないが、こんな風に、自分が無力で不甲斐ないと感じたことがあった……
_______ぼくは、はくが苦しんでいるのを、ただみているしかできなかった……
_______ぼくに、もっと力があれば……はくを……はくをぉ……
懐かしいビジョン。それが脳に走った束の間、窓から槍を投げつけた男が大きく叫ぶ。
「やばいぞ!!傭兵たちが!!」
傭兵?ということは、白たちがやばい!?
僕は慌てて窓を覗くと、そこには周囲を狼の魔獣で囲まれた白たちが見えた。
「!!白っっ!!」
無我夢中に近くにあった槍を手に取り、窓から抜け出す。
「ちょっ、待て!死ぬ気か!!」
誰かから制止をかけられるが、そんなもの聞いていられない。
抜け出す時、足を引っ掛けてその場に倒れるが、すぐに立ち上がって白たちの元へ走っていく。
数十メートル走って、戦闘域に入り込むと白たちの表情まで確認できるところまで来た。
「白ぅっっ!!」
白が飛びかかってくる狼たちをなぎ払っていると、ようやく僕のことに気がついた。
「え!?こ、こうすけ!?ダメ!!来ちゃダメ!!」
「うおぉぉぉぉお!!!!」
両手で握りしめた槍で、白に飛びかかろうとしていた狼の魔獣に一突きを浴びせる。槍の一撃が魔獣の口の中に入り込んで、内臓ごと突き通した。
肉がぶちぶちという音をして、その感触が伝わる。血で固まってしまう前に、槍を引っこ抜いて、自然と白と背中あわせになって魔獣たちと対峙する。
「コウスケさん!?こりゃ無茶なことをするっスね!」
先ほどまで使っていた銃を、鈍器として使うシバ。意外な奴が救援に来てくれたというような表情で僕を見ると、後ろにいた魔獣にナイフを投げつけて仕留める。
「全くだ!!そこまで白のことが心配ということは、何か秘密がありそうだな!後でたっぷり聴かせてもらうぜ!!特にベッドの上で起きた惨劇をもう少し具体的になぁ!!」
大剣を振り回して魔獣たちを薙ぎ払ったラドック。ニヤニヤと白を見ると、白は顔を真っ赤にさせて腕を振り回す。
「だから変なことはないってば!!……そのこうすけ。あまりさ……こういうのもなんだけどこうすけは戦闘したことないでしょ……だから____」
「だから、後ろにずっと隠れてろ?そんなの……そんなの嫌だね」
僕の言葉に、少しだけ白は顔を厳しくする。怒りというわけではないが、少し声のトーンが激しくなる。
「そんな、だって死んじゃうかもしれないんだよ!!私は訓練してるから大丈夫だけど、こうすけが死んだら私……」
「それなら……僕だって同じだ」
「え?」
不意を受けたかのように顔をこちらに向ける白。目を合わせて僕はいう。
「僕だって、白に死なれたくない。もう、あんな悲しい思いは味わいたくない」
「こうすけ……」
自分の持っている武器に視線が移ると、震えていることがわかった。右手の震えが、全く止まらない。
「ははは。わがままだなこれじゃあ……だけど……そのわがままを、通して欲しいんだ!僕は白に悲しい思いはもうさせたくないし、白のことで悲しい思い出を作るのは嫌なんだ!」
「っ……」
「ちくしょう……震えが……止まらない……くそ、くそぉ……僕は、もう、臆病じゃない!白のために戦う!!」
そうだろ?だって今まで逃げてきたのはこのためだと思うから。
あの時振るい続けられなかった勇気を、もう一度、もう一度だけでいいからふるって、白をこの手で守るんだ。この手を伸ばせば掴めるはずだ……あの時逃した幸福というものを!!!
「……わかった。そこまで言うなら、私も、こうすけを守るだけじゃなくて、一緒に戦う!だから死んじゃ駄目だよ。絶対に無理しちゃ駄目だからね!!」
「ああ。解っている。さあ来い狼ども!とっとと蹴散らして、白と一緒に過ごさせてもらう!!」
我ながら恥ずかしいことを叫びながら、魔獣たちに槍を突き出しいく。
その隣には、白が猛スピードで、槍の刺突によって生まれた隙をついて、魔獣たちを切り刻んでいく。
「どきなさいこのアホ狼ども!!お婿様が来た白い吸血鬼の本気を見せつけて、その矮小な脳みそに刻み込んであげるわ!!」
数十匹の魔獣の死体が散乱し、その群れもあとは片手で数えられる数まで減少させる。
「さあ。これで終いだ。死にたくないなら二度と人里に紛れ込むのはやめとくんだな!」
ラドックが大剣を地面に突き刺して魔獣を脅すと、魔獣たちはキャンキャン!!と吠えながら逃げ出していく。
「ふぅ……ようやく終わった……」
白がそういいつつ、剣にこびりついた血を払って、布切れで拭い、鞘に収める。それを見た僕もなぜか、足腰に入っていた力が突然抜けて、その場に座り込んでしまった。
「は、はははは。腰、抜けちゃった」
「……ふふふ。全く」
僕の姿を見た白が笑みを浮かべて手を伸ばす。
「ありがとう。こうすけのおかげで助かった。本当に格好よかったよ」
「そ、そうかな……」
「うん!やっぱり私……こうすけの事___」
「大好きなのぉ〜。すごい愛してるのぉ〜」
とても可愛い声の後に、ピッチを上げてしまったことにより、気持ち悪くなった野太い声が聞こえる。その声の主が大剣を鞘に収めて腰をクネクネとさせていた。
「……あぁ?」
くだらんことを口にしたラドックに、白がその赤い瞳を、まるで中世に出てくる吸血鬼のような目で睨みつけていた。あ、やばい。本気で切れている。
「あ……あの、すみません。茶化してすみません」
全力で土下座をしだす大人。それの頭を踏みつける女子(白)。
「そうですか。なら結構です」
なんだか見ていて、とても微笑ましいような感じ。先ほどまであった緊張感が一気に吹っ飛んだ感じだ。
しかしここから色々と言わなくてはならなくなっただろうか。僕がどうして白と仲がいいのか
を。それを話すには自分の告白を受けた話をしなくてならないからとても恥ずかしく_____
「コウスケさん後ろっス!!!避けてっっ!!!」
「へ?」
一瞬だった。何かが僕の体を吹き飛ばした。その何かというのは、感触的には思いっきりボクサーから右ストレートを背中から打ち込まれたような感じ。トンカチで力いっぱいぶん殴ったようなもんである。
それを認識するのが限界だった。僕は体を宙に舞うと、そのまま地面に打ち付けた。
「こう、すけ?こうすけっっっ!?いやぁあ!!!」
白が叫んで僕のところにやってきてくれる。なぜだろうか。全然痛くない。むしろ、気持ちいというかなんというか。妙な浮遊感を感じる。
「こいつは!?」
「ランク付きの魔獣っス!!」
二人の目線の先にいるもの。それは、クマと云うべきか、なんというべきか。大きな体をしたグリズリーのような魔獣が立っていた。頭と腕には岩石のごとく硬そうな殻。異常に発達した犬歯が特徴で、毛並みは緑。
「ランクDのラーゼンベーアか。くそ、首領の御登場ってわけかよ。白!コウスケは大丈夫か!?」
大丈夫かか……大丈夫なんじゃないかな?全然痛くないし。まあ腕も足も動かそうとしても動かせないんだけどね。
「血が、血がこんなに……いや、いやぁぁあああっ!!!!こうすけ!!こうすけぇ!!!死んじゃいやぁっ!!!!」
あは、あはははは。なんということだろうか。ぼくは、また、だめなのか?
?またってなんだよ?いみが、ふめいだ。
らどっくとしばが、ふっとばされた。だめだ。こっちにくる。
「にげ……ろ……は……く……」
「嫌ぁ……死ぬなら、どうせ死ぬならこうすけと一緒に死ぬ!!」
「だめ……だよ……それ……じゃあ……ぁぁ……」
くそ……もう……こえ……だせない……
やつが、くる……はく……だけ……も……
に………げ…………
“全く。しょうがないなぁ。”
?
“ここで死なれるのと後々のシナリオに困るんだよ。”
だれだ……誰だ?
“まあここまではテンプレート通り。悲劇のヒロインと、喜劇のヒーローのとても倫理と論理、人理すらも超えた再会。”
何を言っている?僕は、どうなっているんだ!?
“だから、早めだけど君にあるリミッター。外させてもらうよ。せいぜい今度は死なないでね。暁虹助君。君はとっても面白いおもちゃなんだから……”
目が、覚めた。
ラーゼンベーアと言う魔獣の親玉が、大きな口を開けて白にかぶりつこうとしている。
嫌にスローモーションで動くその相手に、僕は手のひらを差し向けた。
同時に身体中の神経。それと同じような全く違うものを集中させる。
脳内に、言葉が、響く。
『第一神霊システム、解放。制御装置、臨界。基礎系魔術公式、データーベースよりダウンロード。魔術回路緊急展開。外部とのマナとの接続、完了』
瞳は先にいる、僕の愛しい人を襲おうとしている、憎い獣畜生を見定めて、一言だけ無意識に口が動く。
「”ファイヤーボール”」
かざした右手に暖かい何かが集い、それは次の瞬間、サッカーボールぐらいの火の玉となって、魔獣の口の中に叩き込まれた。