第2話「エロエロイベントってのは大抵理不尽」
一瞬、この世からおさらばしたのかと思った。
そう考えながら、僕は白の部屋ではなく、一階の居間で、白の父親と向かい合っていた。
白い長髪はさながら雪のようであり、誠実さの塊であるように、僕の顔を睨み付けている。顔色が妙に赤いのは、酒のせいらしい。
「つまり君は、白の髪の毛に埃がついていたからとってあげようとして、不意に顔を近づけてしまったということか」
「は、はい」
そんな彼に何をされているのかというと、裁判みたいなものである。両者ともに、右頬には湿布薬を貼り、おたふく風邪みたいな状態で話しているわけだが、相手の検察側(父親)は僕を死刑にでもするつもりで、鋭い眼光を見せている。
その隣で、あらあら。と笑っている白のお母さん。
そして、ムスッとした顔をした白。
微妙に空気が流れた瞬間、
「君は、白の何かね?」
「ぼ、僕は今日たまたま出会った____」
「嘘をつくんじゃない!!貴様みたいな旅人がどこの世界に存在する!!」
机を強く叩かれる。ひえぇぇえ!こえぇえ!
というか、この人も僕のことを旅人じゃないと思う訳か。う〜ん……どうしようか。さすがに学校の制服で旅人と言い切るのにも限界が近いな。
「王都がどれだけすごかろうがなぁ……娘は王都の人間にはくれてやらーん!!金を積んでも無駄だぞ!娘はどれだけ巨額の金塊であろうが、それすらも凌駕する美しさと可愛さなのだからなぁ!!」
「は、はぁ……」
旅人でなければ都会の人間なのか。僕が白をたぶらかしてやってきたお坊ちゃんとしているらしい。そんな僕は金持ちっぽい服装なのだろうか。どちらかというと、スーパー地味みたいな感じの……まあいいや。
「お、お父さん……恥ずかしいからやめてよ!」
白が顔を真っ赤にしてお父さんを止めようとするが、父自身は首を横に振った。
「ダメだハク。お父さんはなぁ……お前を大事だと思って、この男を確かめているんだ。これは女であるお前や、母さんにはわからん!!」
えっと、僕もわかんないんですけど……
心の中でそうつぶやいてると、彼は僕に顔を近付ける。ものすごく睨んでは、僕の腕を触ったり、額に手を触れたり。ちょっとくすぐったい。ついでにちょっと酒臭い。
「なるほど。君の全てがわかった」
「は、はぁ……」
あれで何がわかったんだろう。
「君は白にふさわしくない。だからとっととお帰り願おうガァッ!?」
父親が言い切ろうとする前に、娘の右ストレートが脇腹に突き刺さった。見事に腰の入った重い一撃に見える。
「何言ってんのお父さん。変なことはやめてよ」
「そうよ〜。娘がとられるからって大人げないわ〜。ごめんなさいねコウスケくん。この人未だ娘離れができてなくて……そんなことよりご飯にしましょうか。あなた〜、手伝わないとご飯あげないわよ〜」
白が言うのに続いて、その母親も続く。どうもここでは父親の地位は低いらしい
「ま、待ってくれよリアナ〜。俺はハクが心配で心配でしょうがないんだぁ〜……」
ふらふらと立ち上がって、白の母親、リアナさんの手伝いをし始めるお父さん。
僕もせっかくなので簡単な、皿を運んだりする仕事を手伝うことにした。見ているだけではなんか失礼だし。
数分間の作業で、夕食の準備が整った。
今日の夕食は雑炊に似た料理。鍋からおたまでそれを掬って、器に移したものを机に並べて、横には一つのパンが置かれる。
「たくさんあるからいっぱい食べてね〜」
「無論だともリアナ。俺がお前の料理を残したことがあるものか」
「あなたに言ったんじゃなくて、コウスケくんに言っているのよ〜」
「んなぁ!?……このガキぃ。覚えとけぇ……」
理不尽な恨みを買いながらも、苦笑いで座ると隣には白が座り、目の前にはリアナさん。その隣に白のお父さんが座る。
「それでは今日もお疲れ様〜。大地の神ユグドラシルに感謝を……」
「「いただきます」」
「い、いただきます」
三人は手馴れた様子で食事の挨拶を行う。手を組んで一礼。なんだか難しいな。
見よう見真似でやるが、どこかぎこちない。
まあいいか。とりあえず一口目、僕はパンをちぎって口に放り込んだ。
「?あらコウスケくん。面白い食べ方をするのね」
「へ?僕何か間違えてましたか?」
リアナさんがうふふふ、と笑っているのに僕はその理由を考えるが、思い当たらない。普通この場合、パンにかじりつく方がダメだからちぎるのが正解では……
とか思っていると、白がお手本を見せてくれた。
パンは適当な大きさにちぎるまではいいが、それを雑炊の中に入れて混ぜる。その後にスプーンで掬って口に運ぶ。
なるほど、スープにつけて食べるみたいにすればいいのか。
「パンはこうして食べるの。ここでは結構常識だけど……まあパンをそのまま食べるのもいいよね!」
リアナさんに同意を求めるように言った白。それをよくわかっているのか、笑顔で頷く。
「そうね〜。お母さんもパンだけを食べるのは久しぶりに見たわ〜ていうだけで、食べ方なんて結局どうでもいいのよね〜」
「常識がなっていない。マイナス10点と」
「どうでもいいよね〜あなた〜?」
妙に冷えたトーンで話されたお父さん。顔色少しだけ青ざめる。
「ソウデスネ」
「うふふふ〜」
食事の手が進みながら、会話の方も進む。
「そういえばハク〜?あなた王都ではどうだったの?男の子見つけただけじゃないでしょ?」
少しだけ吹き出す白。
「あ、あのね……まあいいや。司令部は全然変わんない。本当になんだと思ってんのかしら」
「王都に住めばみんな冷たくなるんだよ。全くもって寂しい連中だ」
そういう白のお父さんの表情は少しだけ険しくなる。どうも都会にはいい印象を持っていなさそうだ。だから僕のことを見せあれだけ怒っていたのか。
ならば、その誤認を解かなくてはいけないなぁ……旅人ではない何か。
「ねぇコウスケくん。王都はどんな感じなのかわかる?」
「え?あ、いいえ。実は僕、行ったことがなくて」
「あらぁ意外ねぇ〜。やっぱり王都の人ではないわね〜あなた〜」
またもや鋭い視線と冷たいトーンを送る白の母親リアナさん。お父さんは一度咳払いをして弁解もとい、話の話題を無理やり通していく。
「ゲフン……着ているものが高級品すぎるからまさかだと思ったけどなぁ……お前さん、そんな格好で本当に旅をやっているのか?」
「え、ええ。その……親がそういう人でして」
「なるほど……お前___」
器を置いて、お父さんが僕の肩に手を乗せる。うつむいていたその表情が上がると、
「苦労していたなぁ……親のお人形さんになっていたのかぁ……」
同情の眼差しで見ていた。
「そういう親は本当に嫌だな。俺はわかるぞ。そんな格好をしていると盗賊なんかにはすぐに襲われやすいからなぁ」
「え、ええ。まあ」
確かに、現に襲われたし。
「なら後で俺から贈り物をしてやろう!大丈夫だ!武器の類がなくてもこの世には身を守る方法はたくさんあるぞ!!」
「あ、ありがとうございます」
なんだかよくわからないけど、信用されたのかな?
「うふふ。あなた〜。遊びは後にしましょうね〜。まずはご飯を食べて欲しいわ〜」
「おう!さあコウスケくん!もっと食べたまえ!!」
信用というよりも、仲間だと思われているようだ。嬉しいような嬉しくないような……
ともかく、出された料理を食べなくてはいけないので、僕らは器を持って料理を口にかきこみ、パンを大きめにちぎって食べた。
食事が終わると、白とリアナさんは後片付け。僕と白のお父さんは外に出た。すでに時間帯は夜で、満天の星空が綺麗だ。
「さて、これを君に渡すぞ」
と、白のお父さんから手渡されたのは、一冊の本だ。かなり古めかしいもので、開くと……何が書かれているのかわからない。この世界の文字と、何かの魔方陣みたいなのが、びっしりと書かれてある。
「あの、これって……」
「魔術書だ。一番簡単なものだから読めばすぐに覚えられるぞ」
そう言われても、読めないんだよな……
しかしせっかく僕のことを思って渡してくれたものを無下にはできない。
「ありがとうございます。大事にしますね」
「そうか!ならば一番簡単な魔術を教えてやろう!」
しまった、このまま文字を知らないことがバレれば、いろいろとやばい。
「で、でももう夜遅いですし」
「心配するな!俺が許可する!」
お父さんは笑顔でそういう。仲間に対する期待感で溢れているのだろうか。
仕方ない。ここは腹をくくるしかないようだ。
「わかりました。では何ページ目を開けば?」
「最初のページだ。最初は魔術というよりは、それの適性を調べるようなもの。気軽にやれ!」
やれやれ、どうせ読めないからその適性も出ないんだよな。
仕方なく魔術書の表紙をめくって、1ページに目を通す。
「ええっと……まずは大気のマナを感じて……あれ?」
あれ?なぜか読める。読めるぞ。さっきまでわからなかった文字が。
理由はわからないが、このまま行こう!
「体内の魔術刻印回路を繋げる。表すなら……世界の全てを見ようとするような感覚……世界に溶けるような感覚……」
目をつぶって、全神経を肌の表面に集中させる。少しずつ、少しずつだが、体に妙な暖かさを感じ始めた。
「こ、これは!?」
お父さんが何かに驚いているが、気にならない。もう一度イメージを、さらに固める。
僕は風、水、火、自然……生命の循環の中に、僕は立っている。
それが理。それが法。この世界における魔術という公式の基礎であり、真理である。
しかして____
「ま、待て!コウスケくん!!」
突然、意識が戻った。視界が光り輝いた世界から離されたと思ったら目の前には、白のお父さんがいた。額に汗を浮かばせて、とても慌てている。
「あれ?僕、何を……」
「……すまない。その魔術書、あげることを少しだけ考えさせてくれ」
「?あ、はい」
どうしたのだろうか?
疑問を少しだけ残して、魔術書をお父さんに返す。
何かブツブツ言っているが、僕にはあまり聞こえなかった。
あれ?そういえば僕は何をしていたんだ?
家に入ると、片付けを終えた白が僕の今夜の寝床を教えてくれた。
「こ、ここでいいの?」
「う、うん。ほら家てさ、狭いから、客間なんてないんだよ。大丈夫気にしないで!」
と言われても、白の隣と言われると、こう、ドキドキするような感覚が……
「それに……こうすけがしたいって言うなら……私、いいよ」
「う。そ、それは……」
両者ともに頬を赤く染める。
「コウスケく〜ん!寝る前にお風呂に入ったらどうかしら〜!タオルとかも置いておくわ〜!」
唐突に聞こえてきたリアナさんの声にビクッ!となってしまう。
ま、まあ普通に考えて、民家でそんな行為を至ってしまえば、音が聞こえてしまうし。
こうやって話し声も聞こえるしね。
「はーい!ありがとうございます!それじゃ……また後で……」
「うん……待ってるから」
白の口付けを額に受けてから、1階へと降りていく。
階段の下では、リアナさんがニコニコしながらタオルを渡してくれる。
「うふふふ。もう中が良くなってよかったわ」
「そ、そうですか……あははは」
「私と夫はもう寝るけれど、寝室にはあまり2階の音が聞こえないから。あの子に何しても、私たちにはわからないからね〜」
ぶふぉ!?
そんなことを言われて吹き出し、何度か咳き込んでしまう。
「うふふ。おやすみ〜」
そう言って寝室へと帰っていくリアナさん。
どうしよう。言われてはもうやらなくてはいけないのか?大人の階段を2段とびしなくてはいけないのか?
【やっちまえよ!どうせこの後の人生に相手なんていないだろ?】
お前は悪魔の僕!
『そんなことはないよ。もしもやってしまって子供でもできたらどうする?』
君は天使の僕!
【このDTにそんなことを考えられるほど余裕があるかよ!さあ風呂に入れ!そしていけ!!大人の階段を2段どころか3段飛んでしまえ!!】
『こういうのにはまず順序があるんだよ!確かに好きと言ったけど、それだけで人生のパートナーにしてしまうのはどうかと思うよ!!それに僕!君は彼女を満足させてあげられるほどの戦闘力があると思うかい!?』
い、言われてみれば確かに。経験なんてないし、はっきり言って一人の時でもすごく下手くそだし……
【はっ!女なんてやってしまえばそのまま押し通せるって!臆病になるなよ!!この世界に来たのは白に会うだけか!?違うだろ!!白との思いを遂げるためでもある!!きっとそうだっての!!】
『焦った結果どうなるかは自分が一番わかっているだろ?どれだけ失敗するか。今まで生きてきた17年間経験したはずだ』
【慎重論で遅すぎんだよお前はぁ!!】
『極論で急ぎすぎなんだよ君はぁ!!』
ま、待て僕たち!!風呂の中に入っていてもこんなバカみたいなことを考えているんだぞ!!今まさに自分の武器を見ているが、はっきり言ってそこまですごいものではない!これでは白を満足させられないよ!!
いや、落ち着け僕!こういう時はクールダウンだ!こういうのはお風呂で疲れを流しながら冷静に作戦を____
「こ、こうすけ?まだ入ってる、よね?」
風呂場と脱衣場を仕切る扉のごしから声が聞こえる。白の声だ。
「は、白!?ごめん今でて____」
木製のお風呂の中で、いた僕は、慌てて立ち上がる。
「あ、そうじゃないの!その……ね」
扉が突然開かれると、そこにはタオルを巻いた白がいた。自然と胸に視線がいってしまうのだが、それは男としての性なのです。
いや、そうじゃなくて。
「な、どうしたの?」
「背中、洗ってもいい?」
彼女は両手で巻いたタオルが落ちないようにしっかりと持って風呂場に入る。
ていうか、マジで!?
断る理由も(その気も)なかったので頼むことにして、風呂桶から出た僕は、白に背中を向けて洗ってもらってる。
ちょうどいい力で、タオルを使って背中を擦っては、桶に入っているお湯で背中を流してくれるのは、とても気持ちい。おまけに白がやっていると考えると、なぜか気持ち良さが二倍ぐらい跳ね上がったような気がする。
「痛くない?」
「ううん。ちょうどいいよ。すごい気持ちいい」
「え、えへへ。なんだかえっちなことしている感じね」
確かに、何かいけないことをしている気がする。
それは置いといて、時折胸が当たるのは、わざとなのだろうか、それとも間違えてなのだろうか。それを口にするには惜しいので、そのまま洗ってもらうことにする。エロいとかそういうの抜きにして、とても気持ちがいいし。
そのまま無言に流れる。音がするのはタオルと僕の肌が擦れる音と、白の息遣いだけだ。
こういうの、何だかいいな……昔は白の肌を擦りすぎて痛くしてしまったことを思い出す。あの時はすごい怒られたっけ。
その仕返しで僕も背中を洗われたんだっけなぁ……あれは痛かった。
ふとそんなことを思い出しつつ、改めて白の表情を見る。
とても一生懸命にタオルを上下に動かしている彼女。その表情はなぜか笑みに溢れてる。
不意に目があう。
「どうしたの?」
「いや、楽しそうだなぁって。こういうの夢だった?」
「夢……そうかも。確かに夢だったね」
白の声のトーンが少し落ちる。
「私さ、生まれ変わる前はずっとお風呂とか入れなかったんだ。だから憧れだったの。誰かと一緒に入ってさ。背中を洗いっこするの。まさか生まれ変わってそれが叶うなんて思わなかった」
「ああ……そうだね。僕も、もう一度白と会えるなんてちょっと思ってなかったよ。それに僕は_____」
「僕、は?どうしたの?」
「僕は……あれ?」
あれ?どうしたんだ?なぜか、この先に言おうとしたものが出ない。
忘れてしまったのか?クゥ……早すぎるぞ老化には!
「……なんでもない。とにかく、僕は今が幸せなら文句はないよ」
「……そう。そうだね。昔のこととか、ずっと引きずったら今が楽しめないもんね!よぉし!」
そう言って彼女は手を止めて僕と背中合わせになる。
「今度はこうすけの番だよ。前みたいに力強くしても大丈夫だから」
「う、うん」
僕はタオルを手に取り、彼女の背中と対峙すると、巻かれていたタオルは前だけを隠して、背中は大きく開ける。なんというかこう、絶景というか、少しだけ指触ってみる。
「ん……」
あ、柔らかい。よく見るとわかるが、白は結構しなやかな筋肉なのだが、その見た目と反して、触感としてはとても柔らかいものだ。力強く擦ったらすぐ赤くなってしまいそうにも見える。
「……どうしたの?」
「ああぁいや。とても柔らかくて、その変かもしれないけど、可愛かったから……」
「!」
唐突に、白の白い頬が、わかりやすく朱色へ染まっていく。
「そ、あの……卑怯だよ。そんなこと言われたら……」
「あ、あはは……それじゃあ、行くよ」
お湯につけたタオルをそのまま白の背中につけて、
「ん……あ……」
それを加減よく力を入れて背中に擦る。
「あ……あん……んぁ……」
少しずつ力を入れて、
「い……あっ……ん……」
……背中を満遍なく洗う。
「いぃ……あっ、そこ……」
言っとくが、いかがわしいことをやっているんじゃない!タオルで背中を洗っているだけだ!!断じてえっちなことはしていない!!
「あ、あのさ白」
「はぁ……はぁ……な、何ぃ?」
「少し、喘がないでくれると嬉しい。なんかすごい恥ずかしいんだ……」
「あ……ご、ごめん。すごい気持ち良くて……」
とはいえ、喘ぐほどではないと思うが……
結局、喘ぎ声は出さなかったんだが、妙に我慢しているのがエロくて、やっぱり恥ずかしいというのは抜けなかった。
「はい終わり」
「んっ!!ああぁあっっ!!んはぁ……はあ……と、とってもひもひよかっふぁ……」
そんなにいいものなのだろうか……もしかしたら、白は背中フェチ!?いや、そんなわけないか。
「それじゃあ僕は上がるよ。先に布団に入っているから」
「う、うん!あ、あとでね……」
顔をさらに真っ赤にして言う白。それだけ意識されると僕も妙に考えてしまう。
脱衣場で、用意されていた寝巻きと下着を着て2階に行くと、寝床が白のベッドの一つだけになって、枕が二つある。
これは明らかに行けというものですね。わかります。もういいです。
僕はベッドに腰掛けて、今日会ったことを一通り思い出す。
異世界に転移したと思ったら、白と再開して、その世界で白は結構有名で、生まれかわる前の両親よりいい両親と出会えて……結構幸せに暮らしてた。
もしかした僕なんかいなくても良かったんじゃないかと思う。だって自分がどれだけ地味で目立てないし。実際に白とは釣り合わないのかもしれない。
そう思うとなんだが不安になってくる。もし白が僕なんかよりもいい人と出会えたら……どうしよう……
ならば、その時まで、彼女を幸せにし続けなくてはならない。
仮に自分よりもいい人が現れるというのなら、僕が白にできることはそれまでにすごく幸せに生きてもらうことぐらいだ。
その幸せの1ピースでもいい。それのために全力を通せばいいと思う。うん!そうだな!
チンケな悩みを結構簡単に解決してしまうと、なんだか突然眠たくなってきた。
そういえば結構いろんなことあったから疲れてたのかもしれない……
まだ、起きてなきゃ……白を……待たなきゃ……
意識が……切れ_____
柔らかい……。ただただ暖かくて柔らかく、そして、いい匂いが僕を包んだ。
「いだいよぉぉぉお!!!、びぇええーん!!!」
女の子が泣いていた。ものすごく痛くて、泣いていた。
「ごめんねはく!!ごめんね……う、うわああぁああん!!!」
男の子が泣いていた。ものすごく後悔して、泣いていた。
子供が二人も泣けば、それはヘビーメタルも顔負けな大きな音で鳴り響き、感情を詩人以上に爆発させる。
そんな二人を見て、白衣を着た大人は男の子を叱るのを忘れて、二人をなだめていた。
医者は、仕方ないので、二人のお気に入りの場所に行かせてあげた。
その場所は裸ん坊にならないと入れないけど、とても暖かくて、とても気持ちいい場所。
二人はすぐに笑顔になって、軽い仲直りをした。
それ以来、男の子が来た時は、女の子はその温かい場所に行けるようになった。
女の子は男の子を待つ楽しみが一つ増えたのだ。
懐かしい思い出を見たような気がした。
例えるならそう、朝靄にかかっていたものが晴れたようなそんな感じ。
そんな風に目を覚ました僕は首を動かして、窓からは太陽がさしていたのを見る。
と同時に、自分の隣、いや半身以上を上に乗っかているものに気がつく。
「すぅ……すぅ……すぅ……」
白がとても気持ちよさそうに寝ていた。寝巻きが少しだけ脱げかかって、よだれを垂らしながら、幸せそうに眠っていた。
やばい、ものすごく可愛いです。こんな子を彼女にできているということは、僕は結構幸運なのかもしれない。
つまりはそれ以外に自分が自信を持っているものがないのだけど。
少々軽く鬱。
「ん……こう……すけぇ……」
彼女が寝言で僕を呼ぶ。どんな夢を見ているのだろうか?とても気になるが、その前に解決しなくてはいけないことがある。それは……
「コ〜ウ〜ス〜ケェ〜……キサマァァ、確かに認めてやったのは認めたけどなぁ……だからと言ってお前が白と関係を持つことは許してねぇぞぉぉ」
この父親だ。どうやら僕がいるので心配になってやってきたのだろう。僕は何もしてないし、何もされていない……と言っても信じてもらえる体制ではない。
「は、白!」
慌てて白を揺さぶり起こそうとする。
「……むにゃ、ん〜?」
まだ眠たそうに、赤い瞳を半分開けた白はこの状況を分かり得ているのか?とりあえず弁明をしなくては。
「その、僕らは別に変な、えっちなことはしてませんよ!!」
「きのーは、きもちよかったねぇ〜……またいっぱいしてね……むにゃ……」
…………
えっと、白さん?あなた何を言って……
「ほほう……昨日は気持ちいいことをいっぱいしたのか」
うわぁぁぁあ!!予想通り誤解されたぁぁあ!!!
「ち、違いますお父さん!!別に僕はそんな行為は____」
「言い訳は結構だ。状況証拠はもう全部揃ってんだよ。第一に、お前の右手はどこにある?」
「み、右手?」
右手を動かそうとすると、なんだか柔らかい感触が、パフパフと。ん?パフパフ?
「ああぁん……ダメだよぉ〜……えっちいなぁ〜……グゥ……」
僕の右手は、幸運なのか、不幸なのか、白の胸を掴んで、そのまま白に押さえつけられていた。
あ、オワタ。
「死ねぇい!!」
「ンギャァァアアア!!」
僕は再び、空中三回転を披露することになり、この世界での二日目を迎えることになる。
本作品の目指すところは健全な青少年を育てることにあります。