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転移した僕と転生した私  作者: 幻想のネコヤナギ
3/11

第1話「ボーイミーツガールが基本」

 甘い味。

 例えるならチョコレートのようなとても甘い味が唇を通して口の中に広がる。

 数秒間の口付けから離れた僕は、まだ味わいたい欲求を抑えて、目の前にいる自分と同じぐらいの少女を見つめる。

 本当に、本当に白だ。

 昔出会った幼さはもうないけど、ところどこと女性として出ているところは出ていて、引き締まっている部分は引き締まっている。髪の毛もあの時と比べて長くなった。おそらく腰あたりまであるのだろうか。


「こうすけ……」

 甘美な声で彼女が呼びかけてくれる。思わず口がにやけてしまう囁きに、

「はい!?」

 と、謎のテンションで応えてしまった。

「とりあえず、こっちに来て」

 白の後についていく。後についていくというよりも、一緒に行くというのが正しいか。手をつないで右横につく。

「本当は、こっちの世界に連れていくわけじゃなかったけど……無理やりでごめんね」

「いや、そんなことはないよ。また会えて嬉しいし。それにしても」

「何?言っとくけど、こうすけだろうが変な質問は許さないからね。スリーサイズとかパンツはどんな色を履いているのかとか」

「も、もちろん。そのさ……」


「ここって、天国じゃないの?」




 全くの間違いだった。

「白がいるのでてっきり僕は死んだのかと思っていたが、まさか異世界かぁ……まるでおとぎ話ような話だ」

「全く……さっきからそんなことを考えていたの?」

 白が苦笑しながら僕の頬に触れる。

「ようやく会えたんだから、天国じゃないでしょ」

「う、ん……そうだね。白」

 ある意味では天国だ。


 歩いている間、いろいろと質問をしていく。

 とにかく知らない世界だ。自分の今の立場とか、自分の現状とかを確立しておきたい。

「この世界は……その、剣とか持っていいんだね」

「ああぁ……これ、ね。一様法律みたいなのがこの世界にもあって、特定の仕事でちゃんとした権利がないと使えないんだよね。さっきこうすけを襲った連中がいたでしょ。私の仕事はああいう連中を退治する仕事なの。傭兵、ていうんだけど。結構強いんだよ私」

 えっへんと胸をはる白。そんな彼女の頭を撫でる。うん可愛い。超可愛い。これが恋人効果なのか、少し大人ぽっく見えるせいなのかは愚問だろう。可愛いもんは可愛んだよ。

 とはいえ傭兵か……。こちらの世界では基本的には個人で傭兵というのはできないから、何かの会社に入ってというわけだが……てか国とかあるのね。まあそうじゃなければ盗賊なんかいないか。

「白は今何歳?」

「今?今は17歳になったばっかり。こうすけはどうなの?」

「僕も17」

「やった!同い年だ!タイミングいい!」

 ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ白。これぐらいで喜んでくれるなんて。

 とにかく、同い年でよかった。もしも年上だったらどう対処すればいいのか……

 次に質問したのは結構重要なこと。

「そういえばさ、僕を連れてきたのはいいけど、元の世界に帰る方法とかわかる?」

 かなり突然の移動だったので、まだあちらの世界の家族や友達なんかに挨拶し終えてない。突然いなくなったらあっちも混乱するだろう。

「もちろん。こうすけって今は学生でしょ?だったら帰らないいけないからちゃんとその辺はぬかりないよ。でてきた時の魔方陣の上に乗ればすぐに帰れるよ」

 結構簡単に、世界の行き来ってできるんだね……

 と思っていると、白が少しだけ表情を暗めにする。

「今度はまた何年後出会えるんだろうね……ちょっと寂しいな」

「白……ごめんね。すぐに帰るとかの質問しちゃって」

「ううん。大丈夫。こうすけは、まだあの世界で生きているんだから。私一人のわがままでここに来てだなんて言えないよ。でも、今よりも大人になったら……その時は一緒にここで暮らしましょ」

「もちろんだよ。その時まで待っててね、白」

 みょうに恥ずかしい話をしたような気がした。


 数分間、質問と簡単な会話をしながら歩いていると、ようやく森を抜けた。

 視界には先ほどから少しだけ見えていた、小さな村が広がっており、建物や、畑があるとかから、ここは田舎だと思う。

 実際、かなりど田舎らしく、都会には馬車で4時間ぐらいかけるらしい。

 

 村の出入り口で、白の前に数人の子供たちがやってきた。だいたい5〜7歳ぐらいだろうか。

「お帰りなさいハク〜!」「おかえりー」「ハクぅ〜!」

「あはは。みんなただいま」

 笑顔で子供たちの頭を撫でてあげる白。なるほど、二つ名をつけられるぐらいだし。それだけ有名なんだろう。実際、相手に気づかれずに一人倒したわけだし。しかしあまりいい感じの呼ばれ方ではないな……白い吸血鬼ホワイトヴァンパイアだなんて。

 なんだか自慢したくなってくる。どうだ!この子が僕の彼女なんだ!みたいな感じ。

 そんなことを少しだけ考えていると、子供たちの興味が僕に移ったようで、僕のことをじーっと見ている。

「あなたは……誰?」「誰〜?」「誰だてめぇ〜?」

「ぼ、僕?えっと……」

 参った。子供と話すのは少しだけ苦手なんだ……昔はあまり考えずに話してしまうけど……今はなぁ〜……

 困った顔をしていると、白がクスクスと笑って間に入ってくれる。

「この人は私が見つけてきた遭難者。みんな、仲良くしてね」

「遭難者……わかった」「そうなん〜」「ふこうだったなぁ〜!」

「あ、あははは……」

 うん。やっぱり子供は苦手だよ。


 子供の相手をしていると、次から次へと人がやってくる。

 最初に声をかけてきたのは鍬を持った中年女性だ。仕事中なのか、ところどころ泥だらけでこちらにやってきた。左手には収穫したばかりのジャガイモっぽいものを引っつかんでいる。

「ハク〜!怪我はなかったかい?突然外に出てパトロールしに行くとか言い出すからおばちゃん心配だったんだよぉ〜。お、その男の子。まさかボーイフレンド?なるほどねぇ〜」

「あ、あははは〜。もうーおばさんったら。恥ずかしいよー」

「あら否定しない!?まさか本当に!?まぁおめでとう〜!ちょいとあんた!ハクはとてもいい女なんだから、男のお前が頑張らなきゃだめよ!……妙な格好しているけど、筋肉がないわね!それでハクを守れるのかしら!?」

 おばさんが僕の肩を強く叩く。妙に力が大きい。もやしである自分にはきついものがあるのですよー。

「え、えっと……」

「も、もう!おばさんったら!!」

 するともう一人、僕たちと同じぐらいの男がやってきた。麦わら帽子をかぶり、手には笛みたいなものを持っている。遠くにある牧場と彼の格好から、彼が羊飼いなのがわかった。

「マードリおばさん、飛ばしすぎだぜ。ハクみたいな暴力装置が男なんてできるわけないだろ」

「それどういう意味かしらベネット?私が暴力装置ですってぇ?」

 は、白!落ち着いて!僕もびっくりするぐらい顔ひきつってるから!

「ベネット!女の子になんてことを言うの!」

「ははは!そう簡単に怒るのが暴力装置の所以だってな!じゃあな!おまえも気をつけろよ!」

 そう言って彼は元いた牧場の方へと走っていく。

「……忘れてね。私が暴力装置だなんて」

「う、うん」

 まあ女の子にとっては不名誉なのだろうか。僕としてはとても誇らしいことだと思うのだが。


 という感じで、さらに数人ほどの村の人たちと挨拶を交わしていくうちに、なんとなくだが、とてもいい人たちなのはわかった。

 初めて見る僕に、基本的な警戒心があるものの、すぐに解いてくれた。無計画なようにも見えるが彼らは一度仲間が信用している人を、すぐに受け入れてくれるのだろう。


 そうこうしていくうちに、白が足を止めたのは、一つの家の前だった。

 石と木で作られた、言ってしまえば粗末な民家。その民家の窓が開くと、一人の女性が顔を出した。

 女性がこちらを向くと大声で手を振り始めた。

「ハクゥ〜〜っ!!おかえりなさ〜い!!!」

「ただいま〜〜っ!!……あの人が私のお母さん」


 白の母親。正直言って少しだけ不安だった。

 前の世界では白は母親とは疎遠で、最後に来たのがシルバーウィークの時。離婚を告げるためにやってきた。

 つまり、白の母親はそういう冷たい人なのだろうか?

 そういう思考になりたつわけだが、もちろんそうではなかった。

「は〜い。確かコウスケ、くん。でしたね。娘がお世話になってますわ〜」

「い、いえ。こちらこそ」

 彼女は礼儀正しく頭を下げるので、こちらも頭を下げる。

 母親、にしてはルックスは全然崩れていない。年の差なのだが、白と比べるととても大人の女性らしい。黒色の髪をロングポニーテールにして、メイクのようなものはしていない。(そもそもメイクというものがあるかどうかすらわからないが。)白と似ているところは、瞳が赤いというところだろうか。それ以外は、なんというか、柔らかい、というべきだろうか。

「ふふふ。ハクったらねぇ……もう少しお待ちを。ハク〜!あなたもこっち来なさ〜い!」

 そんな母親の呼びかけに、

「ちょっと待って〜!!」

 と答える白。外観に似合わず、この建物2階建てで上が白の部屋らしい。

「何をしているのかしらねぇ〜。きっとボーイフレンドなんて家に入れたの初めてだから緊張しているのかしら」

「ぼ、僕がボーイフレンド、ですか。なぜそうお思いに?僕は先ほど言ったようにただの旅人ですよ」

「女の勘かしらー」

 うふふふふと笑う、白の母親の表情はまるでマシュマロみたいに笑っている。

「まあ、本気で言ってしまえば、バレやすい嘘ですからねぇ〜。あの子の考える嘘ってかなりわかりやすいのよ」

「え?」

「まず旅人というのなら、その格好はとても似合わないわ〜。第一武器の類も持たない旅人なんて、まるで殺してくださいと言っているみたいよ〜」

「は、はぁ」

 ど田舎だから、旅人と口裏合わせれば大丈夫と言っていたはずなのだが、なぜにすぐバレた!?まさかだけど……この人は……

「ごめん!お待たせ!」

 タイミングよく空気を割って、白が二階から降りてきた。服が私服なのだろうか。ロングスカートとセーターみたいな上着。どこかの民族衣装みたいだ。よく見ると先ほどのおばさんが着ていたものとよく似ていた。

「いや、全然大丈夫だよ」

「それじゃあ今度は私の職場見せてあげるからついてきて!」

「うん」

 白が先にドアを開けて外に行く。

「うふふ。娘と仲良くしてね。”旅人”さん」

 それを追いかけようと扉の前に行こうとしたら白のお母さんに声をかけられた。軽く会釈をしながら

「は、はい。ありがとうございました」

 と応答して外に出た。


 白と並んで歩く。手はつないでない。

 白は繋ぎたがっているけど、下手にラブラブしていると、また旅人?とか言われると色々面倒だし。

「ムゥ……残念。でも数ヶ月ぐらい経てば……隠さないでラブラブできるね」

「そ、それは……どう、かなぁ……なんか恥ずかしいし」

「えー……まあこうすけが嫌ならいいけど……ムゥ……」

 なんだろうか。ヲタクになってしまってから、昔みたいに積極的に行けなくなったのだろう。でもそれだと、白と過ごした時の僕じゃないし、少しずつでいいから積極的にならなくては。


 職場までの道のりで軽く、白の仕事、つまりは傭兵の話をしてくれた。

「ここはラルス村っていう村で、さっき言った通り、ど田舎な村。で、私の仕事はこの村の警護と、周辺の魔獣、魔物、盗賊なんかをやっつけるの」

「へぇ……意外だよ。白そんなアクティビティーな仕事をしているなんて」

「えへへ。この世界に生まれてからなんだか体が軽くてさ。もう走るのなんかこうすけよりもずっと早いんだから!」

 そうだろうな……高校に入ってからずっと走ってないからなぁ……

「基本的には依頼を受けて、それをこなすとお金とかもらえるの。あとは賞金首とか倒せばもらえるかなぁ……」

「なるほど……まるでモンスターバスターみたいだなぁ」

「もんすたーばすたー?」

「ああ。ゲームの名前。依頼を受けてモンスターを倒すと、お金とか素材とかもらえるやつ」

「へぇ……私がいない間ずっとゲームしてたんだね」

「ずっとではないけど……白がいなくなった……あれ?いつ頃だったけなぁ……いや、まあそれぐらいか。よくは覚えていないが、気がついていたらはまっていた程度。自覚してやりこんだのは中学後半の頃だけど」

「へぇ……へえぇ〜……」

 白が瞼を半分閉じて上目遣いで僕の目を見る。とてつもないほど責められている感覚がする。

 

 そんな感じに話していると、他の建物と比較的大きな建物の入り口に到着した。

 入り口にかかっている看板には、

傭兵マセナギルド ラルス村支部』

 と書かれてある。いや、刻まれてあるという単語が正しいか。なんせ、木の板に刀傷でそう書かれているだけなのだから。

 建物をよく見ると、他の家よりでかいだけであって、作りとしては石の壁にヒビが入っていたり、ところどころかなり汚れていたりと、よく言えば古めかしい。悪く言えばオンボロな建物。

「ここが私の職場。ボロボロでしょ」

「う、うん。大丈夫なのかこれ?」

「大丈夫大丈夫。何度か壁とか壊したけど、完全に崩壊したことはなかったから。それに__」 

 ピキーン!!

 白の瞳に閃光が走る!!ような気がした。

「外見だけが傭兵の全てじゃないわ!私みたいにすごい人がいるんだから!」

 さりげなく自分を自画自賛しているのだが、まあ可愛いから良しとしよう。

「まあ白が言うんだから、それだけすごいんだろうな」

 僕は期待を胸に引き戸に手をかける。白の仕事場であるすごい場所、それがどんなところなのか。一気に扉を開ける。


「いらっしゃいませお客様ぁぁぁぁぁあっっっっっっっ!!!」

「当ギルドによくぞ来てくれたっス!!歓迎するっスッッ!!」


バンッ!!!


 白が勢い良く扉を閉めた。


「な、なんでもないよ今の。多分幻覚か何か」

「にしては結構記憶に残るほどの何かが見えたような気がするんだけど……」

「な、なんでもないの!!なんでもないんだから!!」

 白は腕をブンブン振ってそう抗議するが、どう反応を取ればいいのだろうか。とりあえず白の言葉を信じよう。

「うん。わかったよ白。さっき見たのは疲労からきた謎の映像ということで僕は考えるから。それじゃあまた開けるよ」

「う、うん」

 引き戸に手をかけ、


「いらっしゃいませお客様ぁぁぁぁぁあっっっっっ!!!!!もう一度だシバ!!」

「了解っす隊長!!いらっしゃいませッスゥゥゥっっっっ!!!!!」

「よぉし!!これでハクも十分に納得する挨拶になっただろう!!!次扉が開いたら全力で声を出すぞ!!なんせ久しぶりの客だからなぁ!!!!」

「わかってますよ隊長!!!弱小支部の心意気その1!!仕事をくれる人には全力で対応っス!!」「よぉぉぉぉおし!!!それじゃあスタンバイだ!!!」

ドコドコドコ!!!ゴンガラガッシャーン!!!!

 …………

 謎の幻聴が聞こえる。


 どうしよう。彼女の仕事場なのに、全力で開けたくない。

 恐る恐る白の表情を見る。

「………」

 明らかに不機嫌そのものだ。眉間にしわを寄せて、ものすごい剣幕で扉の向こう側にいるであろう二人組に何かを発していた。

「……あのバカコンビ……後で絶対ぶっ殺す……」

 久々に見てしまった。白のものすごく怒っている顔。一度だけ僕も怒らさせてしまったことがあり、それ以来、女性が怒ると、自然反射で怖がってしまうのだ。

 

 とにかくだ!これ以上ちんたらしても先に進まない!

 勇気を振り絞って、引き戸を開く。

 すると、予想どおり、一人の男と、一人の女の子が飛び出してきた。

「「いらっしゃいませおきゃ、グホォォッッ!?」」

 飛び出すと同時に、僕の横から白の右蹴りが二人組を吹き飛ばした。倒れている二人を見下ろすかのように、白が前に出ると、

「何やってんのあんたらぁ……せっかく、せっかくいいところを見せる予定が、狂ったじゃないの!!なんでこんな時までバカやってんのよっ!!!」

 久しぶりに罵声を聞けた。


 さて、というような一息を入れて、室内に入った白と僕。

 部屋の内装は、いろいろと散らかっているように見えるが、よく見ると、ある程度は分けられている。壁には何度か補修の跡が残っており、柱にはカレンダーらしきものがかけられている。他にも賞状がかけられてあったり、グラビアアイドルのポスターが貼られてあったり、酒樽が置かれてあったりと……とにかく、いろいろなものが散乱していた。


 その部屋の中央にある木製の椅子に座って、机を挟んで白の同僚と向かい合う。

 一人は銀髪をボサボサにしている、無精髭を生やした中年男性だ。服もそれに合わせているのかどうかわからないが、黒いジャケットに濃い緑色のシャツを着ている。何よりの特徴として大きな両刃の剣を自分の隣に置いていた。あれをふるって戦えるほどの筋肉が袖の下から見える。

 もう一人は柴色の短髪の少女。一見少年にも見える中性的な顔立ちだ。服装はこの中では異質を感じる軍服っぽいもので、その腰には軍用ナイフらしきものが吊られていた。軍帽をつければ一端の軍曹というところか。なお、イメージとしては第二次世界大戦のドイツ軍の士官を思ってくれればいい。


 彼ら二人は、僕の顔をじーっと、まるで獣が獲物を見つけたかのような目で見ていると、白が咳払いをして話し始める。

「二人とも、残念ながらこの人はお客さんじゃないわ。さっき帰ってくる途中で盗賊に襲われていたのを助けてあげたの」

「なるほど……お客様じゃないのか。せっかくの金づるがなぁ……」

 おいおい……そんなど直球に言うのか。

「本当っスね。客じゃないなら失せろっス」

「あ、あはははは」

 妙に不名誉な気がしなくもないけど、彼らなりに、警戒しているのだろう。

 そこに白が机を叩いた。

「私が、助けたの。この意味わかるよね?」

「もちろんでごぜぇますぅ!!!」

「どうぞ心行くまでこの支部にてお休み下さいっス!!!」

 二人は席をバッ!!と立って、敬礼までつける。心なしか額には尋常じゃないほどの汗が流れているようにも見える。日頃どんな風に扱われているのだろうか……なんとなくだがわかる。

 白がにっこりとして頷くと、二人は安堵な表情で椅子に座った。


「とりあえず自己紹介と行こうか旅人の兄ちゃん」

 男はそう言うと、口元をにやけさせてこちらを見る。

「俺はラドック。ラドック=ビルジレット。一様だがここの支部に置いては隊長として活動している。まあ仕事抜きでよろしくな」

 手が差し出された。一様は信じてくれるそうだ。

 僕はその手を握り、軽く振る。

「よ、よろしく」

 うん。声がなぜかブレるな……なれないんだよなぁ……こういうの。

「へへ。よく見るとなかなかおもしれぇ顔してんな。そんな怯えんなよ。取って食おうとはしないからよ」

「あ、あぁ……」

「う〜ん……妙に俺は初対面のやつには警戒されやすいんだよな。なぜだと思うハク?」

「簡単よ。姿形が怖いから」

「ひ、ひでぇ……ああぁんまりだぁぁ」

 気を落すラドック。どうも歳相応に厳格というわけではないそうだ。

「次は自分っすね」

 と、中性的な女の子が立ち上がって、敬礼を行う。先ほどとは違い、妙に形式ばったものに近い、硬そうな敬礼だ。

「シバ=シャイル。シバと呼んでほしいっス。よろしくっス……え〜と……」

「あ、ああ。僕は暁虹助。よろしくシバ。それにラドックも」

「アカツキ=コウスケ……なんだか変な名前っスね」

「ああ。あまり聞かない名前だな」

 あ、しまった。この読み方だと、名前が暁になってしまう。

「えっと、結構特殊な名前のつけ方をする親でね。僕のことはコウスケと呼んでほしい」

「……個助?」

「……子助?」

 わざとだろお前ら。

 そうつっ込もうとしたら、白が先に出ていたらしく、黒いオーラが少しだけ見えた二人は震えだして、よろしくコウスケ!!と言ってくれた。

「そ、そういやハク。お前自己紹介は?したらどうだよ」

「……そうね。それじゃあ改めて」

 そう言って白が自分の胸に手を当てて、この世界の自身の名前を再度伝えてくれる。

「ハク=アストリアよ。よろしくねコウスケ」

「ああ。こちらこそよろしくハク」

 と、握手をする僕たち。それを見ていたシバの目の色が変わる。

「ハクの姉さん、妙に嬉しそうっすね。もしかして本当はお二人とも、実は知り合いだったりして……さらにはまさかまさかの恋人同士っすか!?」

「まさか……彼とは、さっき会ったばかりよ。そこまで早くならないわ」

 そういう白は小さく舌を出した。誰にも見せないよう、僕だけに見せた。

「まあいいじゃねぇか。そんなことよりハクよぉ。あとで聞こうと思ってたんだが、人員増員の件はどうだった?本部の連中何か救援でも出してくれるのか?」

 ラドックの問いに、白は少し表情を暗くして首を横に振った。

「ダメね。連中はこんなど田舎がどうなってもどうでもいいらしいわ」

「たく……なんのためのマセナだよ」

「ませな?」

「傭兵っていう意味」

「ああ……」

「たくなぁ……最近妙に騒がしくなったのは仕方ないとしてもよ。こう物騒だとガキどもが心配だぜ」

 そういう彼の表情が少しずつ深刻度を増していくように見えた。金金と言っていた割には子供のことを考えているところを見ると、実のところ結構いい人なのかもしれない。

「そういうわけだコウスケ!実は頼みがある!」

「へ?」

「なんでもいい!!なんでもいいんだ。俺たちに、仕事をくれないか?もしくは金を恵んでくれないか?よろしく頼むよぉ〜。仲間だろぉ〜」

 前言撤回。やはり金の亡者か。


 ラドックが白から右アッパーを食らってダウンをもらったのち、僕たちは再び白の家の帰途に着いた。もうあたりは夕暮れで、家々からは煙と光が見え、笑い声が聞こえたり、はしゃぎ声が聞こえたりする。

 それを二人で並んで聞きながら歩いていく。今度は手をつないでいる。

 家に帰ると、白のお母さんが夕飯の準備をしている。鍋を二つほどコトコトと煮たてつつ、美味しそうな匂いが漂い出している。

「あら、おかえりなさいハク、コウスケさん」

「ただいまお母さん」

「た、ただいま……でいいんですか?」

「?だって帰ってきたらただいまというのが挨拶でしょう?おかしなコウスケさん」

 うふふふ。と笑う白のお母さん。自然とこちらも笑ってしまう。

「お母さん私たち2階にいるから。そういえばお父さんは?」

「お父さんは少しだけお買い物〜。ご飯になったら呼ぶわねぇ〜」

「はーい。行こうコウスケ」

「ああ」

 2階へと上がる僕と白。数秒後には白の部屋が若干暗く見える。

「ちょっと待ってね」

 白が部屋の天井に吊り下げられているランプをいじると、周囲に光がもたらされる。

 光源であるランプを見ると、予想していたものとは若干違った。

「あれ?油でついているわけじゃないのか。じゃあなんだろうこれ?」

魔導機まどうきっていう機械なようなやつ。原理はよくわかんないけど……結構便利なの。それよりも____」

 と、彼女は突然、僕を抱きしめた。

「え、あ……」

「ようやく説明というか、なんというか……私の今の大体を教えられたわ。こうすけ……私ね。本当は後悔しているの」

「……何を?」

「こうすけを呼んだこと。ほら、こうすけにも家族はいるでしょ。だったら帰らなきゃいけないし、いつもここに来れるわけじゃないし……なんというか、突っ走りすぎたような気がするの。それに私、ちょっと怖くてさ」

「……何が怖かったの?」

「こうすけが……私のこと忘れちゃったのかなって。そう思うと怖くて怖くて。もし出会えたとしても、君のこと知らないなんて言われたら……私、私さ……」

 言葉の一言一言に、少しずつ涙が流れていた。彼女の涙の雫が僕の胸に落ちて、小さなシミになる。

「怖かったんだからね!本当に……本当に……だから、強く抱きしめて。もっとキスして。もっと私を見て。もっと私を好きになって」

「……白」

 顔を上げた彼女に光が映し出され、とても愛おしく見えた。

 例えるなら、すぐにでも泣いてしまいそうな赤ん坊のようなそんな感じ。そういう風に見えたんだ。

 気がついたら僕は彼女の涙を優しくぬぐい取り、軽く口付けをする。

「好きだよ白。この世界の全てよりも、何よりも白が大好きだ」

「……こうすけ……うん。私もこうすけが好き。大好き」

 そう言って、お返しのキスをされる。妙に気分が高揚する。

 もしかしたら……いや、もしかしなくても……

「こうすけ……お願いがあるんだけど……」

「う、うん」

「私を……」

「は、白を……」

「だい____」


「てめぇこの野郎ぉぉっ!!!うちのハクに何してくれとんじゃぁい!!!」

 へ?という疑問を口にする前に横からの衝撃が来た。

 おそらく空中で伝説の3回転宙返りをやっていたのかもしれない。けれど僕が認識できたのは、背後に立つ、顔を赤くした中年男性の姿だけだった。


「ちょ!?お父さん!?」

「ハク!何もされなかったか!?」

「……お父さん……」

「何だ!?まさか口では言えないようなことを……」

「ば……」

「ば?」

「お父さんのバカァァっっ!!!」

 白の拳が、父親に向かって放たれると、同じく3回転宙返りを横向きではなく縦向きで起きて、そのまま一階へと叩き落されていったのを最後に、僕の意識は途絶えた。






ーBAD ENDー






 いや、死んでないけどね。

毎日投稿が目標。頑張ろう

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