プロローグ01「僕の場合」
あるところに、一人の女の子がいました。
女の子は難しい病気にかかっており、髪の毛は真っ白で、目は真っ赤、おまけに肌も真っ白。
その姿を見ると子供は「雪女だ〜!」と馬鹿にしたり、同じくらいの子は「吸血鬼だ!十字架つけてやろうぜ!」と囃し立て、おじいさんとおばあさんは「祟りじゃぁ〜!呪いじゃぁ〜!あっちいけぇ〜!」などと追い払いました。
女の子は泣きませんでした。慣れてしまったからでした。
しかし病院は困りました。女の子の状態と病気を聞いて、女の子のお父さんもお母さんもお金だけ渡してこなくなってしまいました。
女の子は泣きませんでした。生まれてからほとんど見ないお父さんとお母さんに、何にも感じなかったからでした。
最後にお医者さんも困りました。女の子はほとんど会話をしなくなり、多くお医者さんが女の子と色々とお話ししようとしますが、何も反応しなくなっていきました。
女の子は泣きませんでした。会話をする意味がない。もう直ぐ死んでしまうからでした。
ある日、毎日の日課だったお庭の観察をしていた女の子は、一人の男の子と出会いました。
男の子は、女の子に話しかけました。
女の子は反応しませんでした。
どうせ私を笑いに来た。なら無視しよう
女の子はそう思って、ずっと外だけを見ていました。
ところが、普通なら諦めてどこかに行ってしまうのに、男の子はずっと話しかけてくれました。
女の子は気になり、初めて反応しました。
「なんで、私にそんなに話しかけるの?」
「?話したいから。僕、誰かと話すのが大好きなんだ」
男の子はにっこりと笑いました。
女の子は意外だな。と受け取りました。
自分の肌は真っ白で、目は真っ赤。こんな姿なのに怖くないの?
怖いわけあるものか。とても綺麗だ。
男の子は曇りもない顔でそう言うと、女の子は頬を少しだけ赤くして、話しかけました。
時計の分の針が半回転するまで男の子と女の子はずっと話していました。とても楽しそうに。とても嬉しそうに。
やってきた看護婦さんが驚くほど笑顔で話していたそうです。
それから男の子はよく来るようになりました。
お医者さんから頼まれたことでもありますが、それ以前に男の子自身女の子と話したかったからでした。
何か特別なことを話しませんでした。男の子は昨日のテレビ、自分の夢、好きな食べ物。たわいも無い日常的なことを次々に話しかけてくれました。女の子はそれに答え、時々怒り、時々笑い、時々悲しみ……
でも、総じて嬉しそうでした。
ある日、男の子と話すことで積極的にしゃべるようになった女の子は、看護婦さんに好きな人ができたことを聞きました。
それを聞いてふと質問しました。
なぜ、好きになったの?
看護婦さんは女の子にわかりやすいように、その人が好きになった理由を話してくれました。
ただ特別なことはなく、ずっと隣で、無条件で一緒にいてくれる人だったから。
女の子はよくわかりませんでしたが、不意に自分もそんな人がいたと気がついて、その人の頃を考え続けてました。
その日から女の子は男の子の顔をずっと眺めることができなくなりました。
不自然な様子なので男の子が、なぜ振り向いてくれないのかを聞くと、恥ずかしいからだと答える女の子。
ずっとずっと考えました。
もしも私みたいな化け物が好きと言ったら彼はどう返答するだろう?
気持ち悪い、と正直に断られるのかな?
気持ちは嬉しいけど、と遠回りに拒否されるのかな?
そして、もしも拒否されたら、私は何を生き甲斐にして、ここに生き延びればいいのだろう?
結局、女の子はなかなか自分の心を言えずに、時間だけが過ぎて行きました。
恥ずかしがるのを我慢するのに慣れ始めて、いつも以上に男の子と暮らしていく女の子。
季節は自然と流れました。
行事やイベントなど、病室内で出来ることはたくさんやりました。
餅つきをしたり。
バレンタインデーとホワイトデーではチョコレートを渡しあったり。
画面ごしながらも花見を楽しんだり。
ゴールデンウィークではずっと男の子がいてくれてたり。
梅雨で雲がかっていた時は少しだけ外に散歩へ行ったり。
七夕には密かに想いが伝わりますようにと願ったり。
夏休みのお話を聞かせてもらったり。
シルバーウィークでは久しぶりにお母さんが来て離婚をしたと伝えに来て、男の子に慰めてもらったり。
栗ご飯を食べたり、年賀状を生まれて始めて書いたり。
とても幸せな時間でしたが、女の子は全然、心が満たされませんでした。
そして、クリスマスイブ。
女の子は、その夜。夢を見ました。
それは男の子が始めてやってきてくれた時の夢でした。
夢はまだまだ続き、それまでずっと一緒にいてくれた男の子との記憶でした。
クリスマス。
女の子は特別に、雪が降る空の下で、男の子と向き合い、大きな声で言いました。
「あなたが、好きっ!!」
「大好き!!言葉じゃ表せないぐらい大好き!!」
「ずっと我慢してたけど、ずっと怖かったけど、私は、こうすけが大好きっ!!」
「だから、お嫁さんにして!!」
そう言われた男の子は、頬を極端に真っ赤にして、返事を言いました。
「僕も、好き」
「いつも綺麗な君が好き。この世の誰よりも好き」
「あまり気づけなくてごめん。不安にさせてごめん。僕は、はくが大好きだ!」
「だから、けっこんしよう!!」
クリスマスの空は気づかないうちに、雪がポツリポツリと降ってきました。
即興で作られた、クリスマスツリーの結婚式場で、二人は見つめ合っていました。
子供なので、何を言えばいいのか、わかりません。
子供なので、どんな風にすればいいのか、わかりません。
でも二人は互いに手を取り合い、小さく口づけをしました。
女の子の夢は覚めました。
覚めた場所では、自分の体にいっぱい機械に繋げられ、お医者さんや、たくさんの看護婦さんが、今まで見たことのないほど焦っていました。
喋ろうとしても、口が動きません。
体を起こそうとしても、筋肉が動きません。
女の子は、なんとなくわかりました。
ああ、私はこれから死ぬのか。
女の子は泣きました。ようやく自分の夢が見え始めたのに。
女の子は泣きました。人生が楽しく感じ始めていたのに。
女の子は泣きました。
大粒の涙を流して、声は出ないけど、口をパクパクさせて、大泣きしました。
好きな男の子ともう出会えない。触れ合えない。
別れたくない。離したくない。
死にたくない。
男の子はずっと横にいました。
男の子は泣きませんでした。女の子にカッコ悪いところは見せられないと思ったからでした。
そっと手を触れて、
小さな約束をしました。
「もしもはくがうまれかわったら。僕はもう一度はくと一緒になる!今度は絶対に離れ離れにはならない!ずっと一緒だ!!」
女の子はニコリと、満足そうに笑って、
そのまま目をつぶりました。
「って。お前メロドラマの見過ぎじゃないのか?妄想の類じゃねぇのか?」
昨日見た夢の話をしていた僕。友人の言い草に少しだけ不満になる。
「そうは言ってもなぁ。僕は昔そういうことを経験した覚えがあるんだよ。白いイメージが強い女の子。年は10歳ぐらいの小学生で、俺が小学生の時に出会ったんだよ」
ふーん。と答えて友人はこの話題に興味をなくしたのか、最近発売されるゲームの話題へと移った。
僕の名前は暁虹助。年齢17歳。職業高校生。趣味という趣味は、まああるといえばあるが、人前ではあまり誇れるものではないだろう。自称するなら、いわゆる普通の高校生だ。
どの辺が普通?よく見なさいよ〜。
この規律のみに順次した髪型!!
折り目もちゃんと付いて、校則を違反している改造なんて一切していない制服の着こなし!!
アクセサリーの類もつけずに、ベルトも元からあったブラック!!
これほど学校の決めた規則に準じている生徒はいない!!断じていない!!校内でもただ一人のキングオブジミーDAZE!!
クラスの女子も全員僕に大注目だぁぁぁあッッッ!!!
まあ、それほど目立たないし、地味なんだけどね。
そう。暁虹助という男は大変地味であった。
この地味さ、いつからなのかはわからない。けれど、記憶にあるのは中学でのみんなの変化についていけていないあの感覚。みんな大人になって自分だけは子供のような感じ。
あの中学の日々はもう思い出したくない。
そして高校に上がった僕はとにかく地味になろうとした。なんというか、目立たないことを考えた。
それで必要と感じたのが、ヲタクになることだった。
趣味として僕はゲームを、特にファンタジーものが大好きだ。
有名所、例えばフェンナルファンタジー(略してFF)から、英雄伝統戦の軌跡まで。
もっと言えばフリーゲームでさえ、放課後の暇な時間をずっとそれに費やした。
そしてこの身に残ったのはヲタク知識と、なんとなく気が合うヲタク仲間。
さらには女子からのたまにやってくる視線。
とにかく僕はヲタクになった。すごい地味なヲタクになったのだ!
嬉しくはないけどね。
女の子には侮蔑的なものを感じるし、同性の一部からは明らかに下に見られているし。
一番許せないのはあれだ!ヲタクの趣味を持っているくせに、女の子から見た目だけでキャーキャー言われている奴!
あれは許せん。一体君の愛は何に向けているんだ。
そんなことを仲間内とかで話していたり、ゲームしたり、アニメを見たりと。
僕は人生を、自分で思う限りでは比較的幸せに暮らしていた。
それは、つい昨日。あの夢を見るまでは。
あの夢というのは、先ほど言った夢のことなのだが、なぜかあれを見た後から何かが変だ。
朝から心が何か上がらない。
身体的に疲れているわけではないし、何か痛いということもない。
とても、足らない。何かが足らないような気がして仕方がない。
おまけにゲームを学校に持ってき忘れた。それに悔やむのではなく、別にどうでもいいやと思い始める。
この胸のざわめきはなぜか治らない。
例えるなら、ずっと探していたゲームソフトをたまたま発見したあの瞬間だ。
苦しい状態からようやく抜け出せたあの心境というべきか。
ようやく宝物を見つけた疲労感からくるものなのか。
そんな状態なので友人がどうしたのか?と聞いてきたので理由をできる限り事細かに説明したのに、彼はそこまで興味がないのか、すぐに次の話題へと移った。
新しいファンタジーRPG。僕も欲しいと考えていたタイトルだったけど。
なぜか、欲しいと言う気持ちが浮かばない。
友人との会話を終えて、一人電車に乗り、地元に帰ってきた頃にはもう夜だった。
結局あの後一度だって気分は上がらなかったし、それどころか早く終わらないかなぁとか思っていた。
本当に今日の僕は変だ。帰って寝よう。
きっと寝ればこんなよく分からない感覚も_____
_______見つけた。
「!?」
唐突に、その言葉を認知した。
今いる場所はただの通学路。どこにでもあるコンクリートによって包まれた道。
友人は近くにいない。数分前に別れたきり、人どころか、生命体とすれ違っていないことに気がついたのは、ゲームで鍛えた第六感とも言える危機感知能力とも言えよう。
_______我は界を裂くもの。
言葉は続く。
どこからそれが聞こえているのか周囲を見渡すがそのように声を拡張するものや、音声を発するようなものはない。
いや、そもそも、聴覚による認識ではない。
これは、知覚だ。脳がすでにそのことを知っているかのような感覚。
_______我は路を除するもの。
_______願うこと3回。思い続けることに3回。
_______この時、この心を持って、我はこの世の理に異を唱えるもの。
一見聞いてみると、ものすごい恥ずかしい上に厨二くさい言葉なのに、なぜか懐かしさと、嬉しさがこみ上げてくるその言葉。
僕はただそこで聞き惚れていたのかもしれない。
一歩だけ踏み出す。体の感覚がねじ曲がる。
一歩だけ踏み出す。思考が正しくできなくなる。
一歩だけ踏み出す。心の中が、まるで燃え上がったかのように熱くなる。
_______開かれよ、この世界の境界よ!
その言葉の次の瞬間、僕の視界は眩い光に包まれた。
そして、その世界から暁虹助の存在が消え去った。
始めても転生、転移物です。ちょっと緊張。面白くかけるように頑張ります。