〜断片の記憶___心菜のもう一つの悪夢〜
【最初に】
これは私小説「悪魔に、復讐の言葉を捧げる。」のサイドストーリーです。
参照程度に本編の49話後半、50話をご覧頂けると読みやすいと思います。
少し、時間は遡る。
私がまだまだ、弱い操り人形だった頃の話だ。
そう。私、椎野理香が、まだ森本心菜だった頃。
母の愛に飢え、少しでも振り向かせたいという一心で、行動していたあの頃。
何か新鮮味のある事で気が引けないか_______?そんな思いに支配されたまま。
愛情を感じたくて、目を引きたくて頑張っていた頃。
中学3年生の4月が過ぎた時、
担任となった先生に、ふとある声を掛けられた。
「森本。生徒会に所属してみないか?」
「……生徒会ですか?」
「ああ。今、今年度の生徒会役員を募集しているだろう。
お前は成績優秀で頭脳明晰だし、この機会に立候補して見たらどうだ?
勿論。強制している訳ではないよ。ただ、中学生生活で思い出作ったらどうかってね」
「………………………」
そう言えば、"生徒会役員のメンバーを募集"という広告を
廊下で見掛ける事が多くなったと思いながら、その言葉の意味を考えた。
私は部活に入った事も無かった。毎日、楽しそうに部活をこなす同級生達が、
素敵だなと思う程度だったが、自分には無理だと思い、諦めて帰宅部を貫く。
それには、明確な理由はあった。
晩御飯の支度や準備は、全て私がやらなければならない。
あの人は人に求めるだけの人。だから、私が朝と夜のご飯と作らないと
怒られ罵倒され、仕舞いには、外に放り出されて
夏は暑く、冬は寒い外で一夜を過ごす。
部活に入りたい。
そう思う事はあって、楽しそうに部活動に楽しむ人を
私はただ、遠目で見ているしかなかったけれど、そんなひょんな話。
門限に間に合えば良いな。そうしたら問題ないのだけれど……。
門限は、17時半頃。
それを破れば、晩御飯を作った後、外へと放り出されて案の定。一夜を過ごす。
母が帰って来るのは6時過ぎ頃で、それまでにはもうすぐに食べれる様にして
完璧に晩御飯の支度を終わらせて置かないと、怒られる。
__________けれど。色々考えてみても
悪くない。寧ろ、あの人に振り向いて貰える機会になるかもしれない。
褒めてくれなくて良い。ただ、その視線を向けれてくれれば……。
門限には間に合う。
夏休みや冬休みの集会だって、あの人は居ないし。
居たら早い内に朝にご飯を作り置きして、夜ご飯を作るにも支障はない。
こうして、私は生徒会に立候補することを決めた。
生徒会選挙についてのスピーチ等、
試行錯誤し、徹夜でして考えてなんとか完成した。
それを発表するのは緊張したが、ちゃんと最後まで読みこなす事も出来て。
当選するかは半信半疑で落ちてしまうかも、と思っていたけれど
__________結果。私は当選した。
半分諦めの気持ちで挑んだ結末は意外で、私も自分で驚く。
けれど内面、何処かで期待して、頑張ってやろうと思った。
けれど。
それが、家以外での悪夢の始まりだとは、ちっとも思わなかった。
私の職務は、書記。
生徒会で話合った事を記録したり、時々にして生徒会の新聞や作文を作る。
文章を書いたり、絵を描くのは私の唯一の得意だった。
早く言ってしまえば朝飯前に過ぎない。
メンバーは殆どが3年生、後輩である1年生や2年生。
生徒会メンバーとも、後輩と仲間が出来て初めての部活動が楽しく思えた。
こんなにも部活動って楽しいんだ。立候補して良かった。そう思いながら
あの時、勧めてくれた先生にも感謝するほどで、中学生最後の年は、
今までにない順調な年で良い思い出作りになった。
生徒会メンバーとの仲も良好で、仕事も慣れた頃。
もう季節は猛暑日を過ぎて季節む涼しい風が吹く、秋の季節。
「森本先輩、これどうするんです?」
「ああ、これは_______」
会計係である後輩の子が尋ねてきたので、教えようとした瞬間。
前から、ふと堂々とした声をかけられた。
「ちょっと、森本さん」
「……はい」
「そんなの私が教えるから、貴女は自分の仕事をやりなさいよ」
前に、仁王立ちして睨みがちに此方を視線を向けていたのは
先輩であり、生徒会長である、小野 千尋さんが居て____。
少しその表情とその声音が怒っている様に見えて
私は心の中で震えてしまいそれを隠しながら
「すみません、会長。出しゃばる様な真似をして。
今後は気をつけます。本当ごめんなさい」
素直に頭を下げて、謝る。
小野さんは、ふんとしたまだ不機嫌な面持ちで腕を組んでいる。
なるべく言葉を選んだつもりだけれど、私の言葉が不味いモノだったのだろう。
私は深々とそう謝ってから、戸惑いを見せ後ろにいる後輩に
「岡野さん。これは会長から教えて貰って? 私よりも会長の方が良く知ってるわ。
……すみません。私は、これで失礼します」
一礼してから、生徒会室を、学校を後にした。
気付けば、もう17時15分。
門限までの猶予がない。急ぎ足で帰ってから、晩御飯の支度をする。
同じメニューだとまたあの人の気分を害してしまうから、一旦考えた。
昨日は魚料理だったから、今日は肉料理にしよう。
けれどよく計算しないと、スタイル重視のあの人に体重が増えると言われてしまう。
料理本のレシピを見つつカロリー計算して栄養バランスの取れた食事を用意しないと。
それを考慮して、今日はヘルシーな鶏肉を使おう。
野菜炒めをメインに、味噌汁を作り、ちょうど炊き立てのご飯が仕上がる。
色々とおかずを作って居たら刻々とすぐに時間なんて過ぎてあの人が帰ってくる。
帰って来た時にはすぐにごはんが食べれられる様にしておかないと駄目だ。
でも冷めてても気に入らない。出来立てでないと。
けれど何かと文句を付けて怒られてしまうだろうから、
その怒りの言葉負けない様に、心にバリアを張っていなくちゃ。
でも。
私が生徒会役員になったところで、あの人は何も言わなかった。
なんの反応もなく、それ処か『また出しゃばって』と皮肉を言われる程で。
何処かで分かっていた筈なのに、その何処かで期待していた自分が馬鹿だった。
あの人は、振り向いてくれない。
なのに、どうして私は期待しているの……?
「先輩、ありがとうございます。失礼します」
「良いわよ。さようなら」
あの子から奪った仕事内容の解説をして終わる。
勉強にスポーツ。それ以外でも、何でもそつなく出来る存在。
品行方正の優等生と言えば自分と同い年でクラスメートだった森本心菜。
けれど彼女は優等生で誰もが一目置かれる存在でありながら
決して出しゃばったりはしなかった。
目立たない子。
けれど、彼女は友達の誘いも断って直ぐに家に帰ってしまう。
遊びも何も参加はしない。何があろうと真っ直ぐに帰っていく。
その優等生ぶりは教師達から期待を寄せられてそれにも素直に答えて。
憎かった。
何であの子ばっかり。そう思っていた。
あたしだって注目されたい。あたしもトップの成績はキープしている。
けれどあの子には勝てない。森本心菜は全てオール5の学年トップ。
その内にあの子自身が優等生であり続け注目されたいんじゃないの?
憎いと思い始める内にそう思いが募り、
なんて計算高い子なんだろうと思い始めた。
何か必要だ。
だから生徒会のトップである生徒会長に就任した。
けれど立候補しただけじゃ当選するのか分からない。だからこそ
自分の友人や後輩を自分の手柄に入れて自分に票を入れてくれる
ように仕向けた。こんな事自体は簡単だった。
あたしのパパは大企業の社長で、あたしは社長令嬢。
先生や後輩の子達を自分の手柄に入れて、自分に投票してくれるように
仕向けた。そんなあたしのお願いを断る訳がない。
学校にだって寄付したりして充分に学校には貢献してるはずでしょ。
先生は勿論。周りの生徒だってあたしを敬いの目で見てくれる。
優等生以外何もないあの子より、あたしの方が注目されるべきなのよ。
その方が本来のあるべき形なんだから、これは間違えているの。
そんな時、あの子も生徒会に当選した事を知った。
それがきっかけでやっと芽生えたのだ。
今しかない。
あの子に何か屈辱的な何かを味合わせたたかった。
ある日。あの子を除いて生徒会メンバーを集めた。
集められた周りのみんなは訳が分からない様な顔をしていたけれど
このメンバーは全てあたしの知り合いであり、手下。
あたしが生徒会に入るに辺り自分親友や知り合い。
「みんな、いつものこの日常って退屈じゃない?」
そう言ってみせる。
けれどこれだけじゃ、まだみんな呆然としているだけ。
これに被せ重ねる様に
「もう少し、楽しい学校生活を送りましょうよ_______?」
机に手を置いて、単刀直入に言った。
「森本心菜を、みんなでいじめて欲しいの。
あたしが一番に参加するわ。だいたいあの子、良く考えればムカつく子よ」
昼休み。
出来上がった生徒会新聞を、生徒会顧問の先生に提出しようと
机の中を探ってあれと思う。
クリアファイルに入れて保存して置いた生徒会の新聞がない。
今日提出しようと机の中に入れて置いた記憶は確かにある。
動かした覚えもない。肝心な物だからずっと保管していた。
なのに、どうして……?
結局、見つからなくて疑問のままに終わる。
まだ時間の期限があった事が救いだ。提出期限までに見つけないと。
その日から、
生徒会のメンバーやクラスメートがよそよそしくなった。
挨拶とかを他愛のない話をしていたクラスメートも避ける様になって。
「森本さんって人付き合いしないよねー。人嫌いなのかなー」
「放課後誘っても必ず断るし。なんか素っ気ないよね」
放課後、クラスメートの会話。
時折そう言われる事もあったけれどそれはみんな小声でこっそりと言う。
でもあからさまの様に言われるのは初めてだった。
けれどそれは事実で反論なんてこと出来ない。
どうしてかって言うのなら。
私は、クラスメートとの付き合いも出来ない。
私には家での家事がある。門限は17時半。晩御飯の支度をしないと。
そう思えば友達の付き合いともおろか、私には自由な時間なんてない。
今日も帰らないといけない。自由なんて許されないのだから。
夕焼けが差し込む場所。
下駄箱で靴を履き替えようとした時、ロファーの上に紙が置かれていた。
小さなメモ書きみたいなものは二つ折りにされて靴の上に。
何だろうか?と思いながら興味本意で何気もなく開く。
……私は驚いた。
"良い子ぶって、調子乗るのやめたら? 気持ち悪い"
メモにはそう書かれてあった。
名前は書かれていないから分からない。走り書きされた様なもの。
少し心にグサリと刺さるものがあった。誰かからはそう思われている。
私は側から見ればそう思われて、こんな風に思っている誰かが居るのだ。
けれど誰が書いたのだろうか?全く心辺りがない。
靴の中には何も入れられて無かった。
その書かれたメモ書きを取り敢えず、スカートのポケットに入れてから
ロファーを履き替え、上履きを自分のスペースに入れた時、
こつこつと此方へ来る足音が聞こえて振り向く。
その刹那。
誰かが私を強く見ている様な感覚に襲われて、ふと振り向く。
其処には下校するだろう生徒会長の先輩が距離を置いて居た。
気のせいだろうか? 振り向いた瞬間に睨まれた様な気がしたのは…。
「先輩、お疲れ様です」
「え? ああ。ありがと。貴女も今帰り?」
「はい。今から……」
「そ。貴女は寄り道しないで、すぐに帰るものね」
会長の声が刺々しく感じる。
心に刺さる様な声音で少し強い。けれどこれは私の思い込みだ。
「………はい。すみません。ではまた明日…」
時計を見てから門限が近付いている事に気付く。
少し頭を下げた後で、悪い気もしたが時間故に彼女を置いて先に。
学校を去るまでの間、またなんだか強い視線を感じるのは続いた。
「森本繭子…?」
パパのコネで、学校の生徒情報の記録を調達する。
いじめのターゲットとしている相手・森本心菜の情報を見て驚く。
保護者の欄には『森本繭子』と記載されてあって少し気になった。
森本繭子。何処かで聞いた事がある。
ネットで、森本繭子、と検索をかける。
すると検索にヒットがかかり、JYUERU MORIMOTOの
ホームページに辿り着いて社長の欄にクリックをかけるとすぐに
社長の経歴と共に彼女の顔写真も付いてあり、あたしは驚いた。
この顔写真の人。入学式で見た事ある。
森本心菜と一緒に居て話していた。ならば、森本心菜は……。
この社長の娘。
このジュエリー会社の社長令嬢。
あたしと同じ立場。
あたしと一緒のお嬢様。
そう思えば、あんなに成績トップで良い子なちやほやされている。
それが憎たらしく写った。
自分が作った生徒会新聞、心当たりがあるまで探したものの
見つかりそうにないから、一から同じ物を作り直す事にした。
自分の過失。完成出来るか不安だったが徹夜して出来て安堵する。
無事に提出し終わり肩の荷が下りた。
そんな生徒会室に寄った時、ゴミ箱に視線を向ける。
素通りには出来なかった。何故なら、見覚えのある物があったから。
ふとゴミ箱を漁る。見覚えのある紙の破片。
破片を繋げて見れば分かった。
……私の作った生徒会の新聞。
跡形もない程、ビリビリに破られていた。
私が探していた物は無残になって。……誰がやったんだろう。
思わず呆然としていた時、後ろから声をかけられた。
「あーら、森本さん?」
「………………」
「どうしたの? そんなゴミから紙切れを漁って?」
何時もと違う。見下す様な声。
恐る恐る視線を向けると、彼女___先輩が居た。
彼女は手を組み、私を見ている。それは母と同じ形相に見えた。
「……私の作った新聞、捨てられたみたいで…」
「ああ。それ? 捨てたわよ? あまりに地味でダサいから、あたしがね」
「………え……どうして……?」
その瞬間。強い衝撃に襲われた。
突き飛ばされて、制服のスカーフごと胸倉を掴まれた。
私は唖然とする。其処には鬼の形相をした小野さんが居たからだ。
「________ムカつくのよ」
「………え」
何を言っているのか分からない。
けれど。
「あんた、あのJYUERU MORIMOTOの令嬢なんだって?
良い所のお嬢様なのに、なんでそんな苦労した顔してんの? ムカつく。
悠悠自適の生活を送ってるんでしょ。なのにそんな不幸面して!!」
「成績優秀、運動神経抜群ね。なに、其処までして構って
自分を良く見せていたいの? 腹が立つわ。本当は何も出来ない癖に」
「………………っ」
どうして誰も知らない私の素性を、JYUERU MORIMOTOの令嬢だと知ってるの?
そんな事を思いながらも一つだけ、脳裏に確定的な事を理解する。
嗚呼。この人、私の事が、嫌いだったんだ。
「あんまりムカつくから、あたしが工夫してやったの。どう?」
「……まさか、あのメモ書きも…?」
「そうよ!」
自信満々で答える先輩に、私は怯える事しか出来ない。
ただ、ごめんなさいと謝り続けた。
これは、いじめだったのだ。
私がそれに気付いた時にはもう既に遅く、エスカレートしていく。
廊下に貼られた、修学旅行の写真を見て居れば
「あらー? 其処に貴女は居ないわよ?」
「自分を探してるの? 写っても居ないのにぃー」
「馬鹿じゃないの?」
先輩とその取り巻き。
クスクスと彼女達は笑い続けるのを振り切り、去る。
誰にも何も言わない。言ったところで何も変わらないだろうし。
彼女の取り巻きは生徒会メンバー。
生徒会は私にとっては既に居心地に悪い場所。
けれど今更辞める訳にも行かない。受験も控えている。
……もう少しの辛抱だと思いながら、私は耐えた。耐えて耐えて。
「キモい」
放課後、一人でいる時に怒った形相でそう言い去られた事もあった。
……私は凜然とした態度を取り続けて、何も無かった様にする。
そんな日々が続いた。
高校は違う学校だった為に、ようやくいじめと別れが来て。
それっきりで特に接点も無くなり、良かったと思っていた。
最初こそは酷く続くいじめの日々を引き摺って過ごしていたが
今ではあれも偶然的な家外での災いの試練だったのだと思う事にしている。
一番辛かった時期と言われれば否定出来ないが
理香は理香なりに考えてそれらの現実を乗り越えられた。
もう大丈夫だ。自分は弱い殻を脱ぎ捨て強くなったのだから。
けれど。
小野千尋と喜ばしくない再会した今。
何も知らずに自分を慕っている彼女の姿に、理香は冷めた目で見る。
そして思うのだ。
お前が嫌って、いじめていた人間は、此処に居ると。
end
理香 (心菜)の過去の面を書きました。
相変わらず拙く内容の薄い小説ですみません。
最後までお読み頂きありがとうございました。