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『お前の瞳は、お前自体が邪悪だな。二人の間に生まれた、その為だけに生まれたような、哀れな人間だ』
--あれはいつの事だったろうか、片付けを終えた自室のベットで考える。あれは幼い頃だった。
今も夢に出てくる、忌まわしい美しい天女様。
夕焼けが沈んでいる、ずっと此処で考え耽っていたのかとぼうっ、とした頭で思う。夕焼けが綺麗だ。
(本当に私は……私の目は邪悪なのね)
あれが天女なのかは分からない。あの時は年端もいかぬ子供であったし、私には恐怖を植え付けられただけであって、きちんとした姿は覚えていない。
神社の奥の森、泉がある。そこに行くのが私のお気に入りで、何時ものように向かった。そして、それは、いた。
太陽の光に照らされた美しい白髪、長く緩やかな髪。熱さによって染まる白い肌、熱を帯びた瞳。
--嗚呼、あれが天女様!
コンコンッ、と軽い木の音が響く。うっすらと目を開ける、眼に写るのは天井だった。そして柔らかな感触が伝わる。
「寝てた……?」
「ごめん、寝てたよね。でもそろそろ、夕飯でさぁ、住人《皆》も帰ってきててね。だから……」
「いえ、すいません。ありがとうございます」
ドアを開けるとエプロンをつけた叶人がいた。
「……料理するんですね」
「意外かな?」
「かなり、です」
二言交わして黙ってしまった、先程のようなかいわがあったのだ。深く突っ込めないし、お互いが嫌っている。また、桜花は叶人が嫌いだった。
(まぁ、嫌いって訳ではないけれど。まだ何者か分からないだけ、それだけ。落ち着いた今なら分かる、決めつけるのは早かったかも。だけど、邪悪があるのは分かっている。……まぁ、人間。邪悪なんて沢山抱えているけれど)
--一見は普通の男の人なんだけど。
ふぅ、と自分の過ちに溜め息をついた。決めつける、とは相も変わらず私の性格は変わっていないようだ。
そんな桜花を横目に、何処か射止めるように見ためていた。桜花同様、叶人も桜花が何処か苦手だった。程よく距離を置かなければ、見抜かれてしまう。ナイフで切り取られてしまう、そんな何かを感じていた。
--一見は普通の女の子、なんだけどなぁ。
お互いがお互いを、警戒していた。
お互いがお互いを、苦手としていた。
お互いがお互いを、嫌っている。
ルールはとっくに、守られていなかったのだ。