プロローグ
山奥に佇むひっそりとした神社、桜が密かに名所の神社に私は生まれた。田舎の山奥、都市部とは一切関係のないところに私は生きた。
ふわぁ、と大きな欠伸を一つこぼす。実家の桜には程遠いけれど、イメージしていたのとは違って綺麗だと思う。薄い淡い桃色の桜。
がらがらと修学旅行以来のキャリーバックを引摺り、都市部とは思えない田舎を歩く。“東京”は何処もかもビルばかりで、昼も夜も騒がしくて、ずっと明るい光の耐えない日本の首都、
(と思ったけれど…)
こんなところもあったのだ、と驚く。流石に山ばかりとは言えないが、自然が豊かだ。田んぼもあれば畑もある、ここが本当に首都とは思えなかった。
……まぁここは本当は“東京”ではないのだが。“東京”とは彼女の通い始める大学があるところだ。
ここのところ、何処もかしこも入居場所が埋まっていた。だがこの、圏外に一つのシェアハウスを見つけたのだ。木でできた、大きくてのびのびとしたシェアハウスだった。
申し込みをしたところ部屋が空いていたらしく、すぐに承諾してくれた。あの時彼女は無我夢中で半泣きで探していたので確認もせずに電話してしまったようだ。後悔するのはいつになるのか。
「うわっ」
目の前に立つシェアハウスに思わず声を漏らしてしまった。写真と同じシェアハウス、大きさのイメージは違ったけれど。
「結構大きいんだ……」
とりあえずチャイムを鳴らさなければ始まらないため、チャイムを探す。
「どれだろう…」
うろうろと彼女は彷徨う、チャイムが見当たらない。
と、突如上から響く声があった。楽しそうに跳ね回る、明るい声。
「やってきたな!新たな戦力よ!」
「へ?」
思わず間抜けな声が出てしまった。ばっと上を向く。太陽の日が眩しい、上に立つ姿が見えない。ばさばさ、何かがはためいている。
「待っていたぞ…!これでまた、赦しがたき偽りの王__ミッシェルを倒す戦力が増えた!」
「はい?」
とうっ、とこれまた軽やかに飛び降りてくる。目の前に降り立つ白いマフラー、艶のある黒髪が靡いた。
整った顔立、マフラーを巻いて何故かスーツを着ている。得意気に口元に笑みを浮かべている。
「ようこそ、新たな戦士よ。導かれし我が仲間よ!我らの魔王討伐連合軍本部へ!」
「__へ?」
ぶわっと、桜吹雪が舞い上がった。