(不思議系)融合人間
あわただしく朝を迎えた。
工場に遅刻しそうだ。
しかも、こんなときに限って原付が動かない。
原因はエンジンのようだ。
さいわい、僕の心臓が代用に使えそうだ。
僕は自分の胸にずぷずぷと腕を沈めると、どくどく脈打つ心臓をつかみ出す。手のひらに収まる心臓は、ゴムのようにかたくてやわらかかった。
原付のエンジンを取り外し、赤黒い心臓をセットする。
シートに座りエンジンをスタートさせると、ぽこぽこと空気を排出する連続音。
僕は原付を発進させた。
この、体の一部を機械の代用にできるというのは、僕の特技だった。
ただ、問題もないわけじゃない。
ぜえぜえ。
原付を走らせていると、まるで全力疾走をしているときみたいに、超重量の疲労感が襲ってくる。
ちょっと飛ばしすぎたみたいだ。
あわててアクセルを緩めて徐行する。
だいぶ視界が歪みかけてきた頃、工場に到着した。
僕はふらふらしながら心臓を体に戻すと、作業場に急いだ。
作業服に着がえて現場にいくと、先輩たちはもう作業に取りかかっていた。
この工場はオンボロで、使っている機械はどれも年代ものだ。
当然、故障も多く、だましだまし使っているものが多い。
新人なのもあるんだろう。僕はまだ、簡単な仕事しかさせてもらえず、しかも廃棄されていてもおかしくない機械を押し付けられていた。
もちろん、このままでは普通じゃ動かない。
僕はこっそり、自分の足の筋肉線維をゴムベルトの代わりにし、いつもどおりに心臓とモーターを取りかえる。それから束ねた血管を電源コードに代用し、コンセントを差し込んで緑色の起動スイッチを入れる。
ブルルとモーターが回転し、動力ベルトを通じて機械が動き出す。
こうして僕は作業に取りかかる。
定時になった。
僕は工場の小さな事務室で、これまた年代もののパソコンに向かって一人、入力作業をしていた。
パソコンを触るのは好きなので、残業も苦にならない。
ふと、パソコンの画面が真っ暗になった。
再起動を試したりスイッチを入れなおしたりしたけど直らない。どうやらいつもの故障らしい。
僕は、ジャンクパーツのカゴの中からマイクロチップをいくつか取り出す。それからいつものように自分の頭の中から脳みそを取り出すと、瞬時に入れかえた。
すでに僕の脳みその大部分は、このパソコンの内蔵部品と入れかわっている。
ふふんと鼻歌をさえずろうとした。
ところが。
入れかえた途端、急に意識が揺らいで視界が暗転し、歪んで意識を失った。
「……」
僕は気がついた。
でも、なぜか体が動かない。
「!」
僕は驚いた。
なぜなら僕の目の前に「僕」が立っていたからだ。
(そうか)
僕は自分になにが起こったか理解した。
体の大部分をパソコンに移してしまった僕は、どうやらパソコンになってしまったらしい。
ということは、目の前の「僕」は誰なんだろうか。
「僕」は入力作業を終えると、電気を消して工場を出ていった。
(ああ、行っちゃった。でもまあ、パソコンも悪くないか)
僕は、入力されたデータを整理すると、電源を落とした。