42.探り合いは苦手です。
大公閣下の態度は、最初拝見した時から変わりませんでした。
無駄にお待たせしてしまったのにも関わらず、カラスの血族らしく、穏やかで物静かな貴婦人そのままです。まあ、私が穏やかで物静かかどうかは定かではありませんが、比較的おとなしいのは確かでしょう。
客室にそつなく紅茶に菓子が出されておりましたが、ルーナの姿は見えません。さすがに相手が大公となると、爵位のない彼女では同室できないのです。近くに控えている気配はいたしますので、私はそのわずかな気配を頼りに、決死の覚悟で室内に踏み入りました。
「お待たせして申し訳ありません、公」
席を外し、待たせた非礼を詫びると、公は微笑んで咎めもしませんでした。
もうひとりの女性は無表情でしたが、気を悪くした様子はなく、ほっとします。
軽く言葉を交わしてから、公は金髪の女性を私に紹介してくれました。
「こちらはプリムローズ殿です。不定形の血族の直系であり、始祖の覚えもめでたいお方ですわ」
不定形の血族。私は驚きに息を呑みそうになりましたが、かろうじて平静を装うことが出来ました。
吸血鬼の中でも最強の血族です。プリムローズと呼ばれた女性は美しく、気配も尋常ではございませんでしたが、よもや不定形の方とはわかりませんでした。始祖の覚えもめでたいということは、相当なお年を召しているのでしょう。ローラよりも強力な吸血鬼かもしれません。
紹介された女性は恭しく、ドレスの裾を持ち上げて目を伏せ、お辞儀しました。夫人の礼です。
「はじめまして、アマデウス卿。私はプリムローズ。偉大なる始祖ヴラドの系譜であり、ご真祖の血を継ぐ者だ。よろしく頼む」
その声は先ほど聞いた通り、冷たく通って鼓膜を刺激しました。
ヴラドは不定形の始祖ですが、先ほどの物言いから考えて、彼女はその直接の眷属なのでしょう。
同じ直系の者でも、名の知れた大吸血鬼の系譜を名乗れるのは、ごくわずかです。
たとえば、真祖の眷属は六血族の始祖しかおりませんから、真祖の眷属を名乗れるのもその六柱の方のみです。
プリムローズは、その始祖のうちひとり、ブラドの系譜ということ。ほんとうに大物です。
私は脈動するはずもない心臓が、忙しなく動いている気がしてなりませんでした。
……公はまだわかります。私もカラスの血族の端くれ、ローラが言ったようにへたれた血族を心配してくれたのだと思えば、この訪問もぎりぎりうなずけます。
けれど、プリムローズはどうなのでしょう。私は不定形の血族の者に親しい者はおりませんし、今までに関わったことすらないのです。
私は震えそうになる声を必死で御して、挨拶を返しました。
「こちらこそ、はじめまして。アベル・アーサー・アマデウスと申します。ミラーカの系譜にして、同じく祖を頂く者です。よろしくお願いいたします」
丁寧に腰を折りますと、プリムローズがふと微笑みました。とはいえ、強者から感じる威圧感のせいで、へたれな私は青くなりっぱなしです。
ローラはそんな私を横目に、血菓子を平気で摘まんでおりました。血を固めたグミのようなものがお気に入りらしく、まるで苺のようなそれをぽいぽい口に放り込んでおります。
大公閣下とそれに連なる吸血鬼を前に、結構な態度です。
……まあ、どうやら彼女たちは知り合いのようですし、多少年齢は足りないとはいえ、ローラも彼女らに匹敵する吸血鬼ですから、こんなものなのでしょう。
私は戦々恐々としたままで、偉大な吸血鬼たちと相対したのでした。
……フランチェスカ公も、そしてプリムローズも、すぐに私への用件を口にしませんでした。
今夜の夜会のことや、アマデウス領内のことについて、世間話のような話題を振って来ます。私はそれに必死で作った笑顔で答えながら、彼女たちの訪問理由の糸口がどこかにないか、懸命に探っておりました。
もっとも、腹芸も得意ではありませんので、大したことも申せませんでしたが。
「――アマデウス卿。先ほどの女性について伺ってもよろしいか」
プリムローズがそう口にした時は、よもやエリたちのほうに用件があるのかとひやりといたしました。
「……はい。私の大切な人です。吸血鬼になることはできないけれど、それでも私と一緒にいてくれると言ってくれた女性です」
「卿の奥方か? 血族となるのが無理だとすると、結婚する予定が?」
「それは、まだ何とも申せませんが……」
プリムローズの挨拶に両親の名がありませんでしたので、彼女は純血種ではないはずです。
元は人間とはいえ、それを止めて久しい者に、宗教上の問題ですと伝えてもよく理解できないでしょう。
吸血鬼は、全員が残らず真祖を崇拝しております。この地に住む人にも信奉者は多いですし、宗教がないこの国にとっては、真祖が神のようなものなのです。
とはいえ、人の中にはそうでない者も多いですし、吸血鬼たちも人へ真祖への崇拝を強要したりはいたしません。むろん侮辱は死罪ですから、そう軽々しく口に出来る存在でもありませんが。
すくなくともアマデウス領では、宗教関係には比較的ぬるく、宗教神の代わりに土地神のようなものを祀る場所があるくらいです。吸血鬼にとっては真祖が一番ですが、中には面白がって一緒に崇める者もいるそうです。
ともあれ、エリたちはごくふつうの救世主教徒ですし、神から真祖へ鞍替えをしろとは軽くは言えないのです。
ですので正直、結婚式は諦めているのですが、できたら形だけでも式を挙げてたいとは思っております。いちゃつく以上のこともしたいですしね!
……ともあれ、私のほうは良くても、それはエリの心次第ですので急かすこともできません。
私には時間の限りもございませんし、気長に待つだけです。
とにかく今は、プリムローズや公の目的のほうが重要です。エリたちに何か用件があるのでしょうか。
私は生唾を呑み込んで恐々と待ち構えておりましたが、プリムローズはあっけなく話題を変えました。
「そうか。人と吸血鬼の間には、単純に好いた惚れたで片付かない問題もあると聞く。血族にならないのは残念だが、卿の好きにするがいい」
「ええ、そうですね……」
やはり、プリムローズはだいぶお年を召されているようです。人の心の機微などはすっかり失せてしまったのでしょう。
これは永い時を生きる吸血鬼には有りがちなことです。体の根本、精神の根源から変わって久しいので、自身がかつて人だったことも忘れてしまうのでしょう。
私はまだまだ忘れずにいますが、長生きできればきっといずれはそうなるのでしょうね。想像はつきませんが、それは何だか怖いことのように思えました。
プリムローズは無表情な顔を、それでも微笑の形に綻ばせているようでした。私の目を見てうなずいております。
「ところで、卿が領地に招いた人間が他にもいると聞いたが――」
来た、と思いました。フレッドたちが元ハンターであることは、編入手続きの際に報告書にして上げておりました。もちろん、彼らが追放者であり、二度と人の国へは戻れないこと、ここではハンターとしては働かせないこともきっかり記述しております。
「ええ、フレッドたちのことですね。彼らの出自が何であれ、今はアマデウス領の領民です。城の者とも上手くやっておりますし、ここでの暮らしにも慣れてきたようで、もう何も心配はないと思っておりますが」
「そうか。ならば良い。歯向かうならば容赦はしないし、それは卿も知っているだろう。上手くやっているのならば、どうこう言うつもりはないし、誰にも言わせない」
プリムローズがうなずく横で、公が紅茶のカップを手に微笑んでおります。何だか和やかな雰囲気です。
……フレッドたちもおふたりの目的ではないのでしょうか?
私は思わず拍子抜けしてしまいました。人を伴侶とすることも、元吸血鬼ハンターを領内に招いたことも、おふたりにとっては訪問の理由にならない些事のようです。
それはそれで有難いのですが、では何故わざわざいらっしゃったのでしょう?
ローラの言うとおり、ただ珍しい主催者の夜会だからというだけなのでしょうか。
プリムローズはなおも、エリやフレッドたちのことを私に聞いてきました。公も興味深げに耳を傾け、微笑んでおられます。
エリたちが目的ではないのならと、私もつい口が軽くなりました。もりもり食べては飲んでいるローラを尻目に、エリやフレッドたちのことを話します。
公も時折口を挟んで来られ、とくにフレッドの恋話には興味津々のようでした。きっと世話を焼くことが好きなのでしょう。
「あらあら、随分と楽しげな人たちなのですね。若いって素晴らしいわ」
「ふむ、興味深いな。卿は人狼をも傘下に入れておられるのか」
「いえ、傘下というわけでは……」
「プリムローズよ、こやつは家族ごっこがしたいだけじゃ。甘ったれの癖に血族を増やすことには消極的じゃからの」
ふふと笑うローラですが、確かに彼女の言うことは的を射ています。
何だかんだ言って、私とビアンカは十年近い付き合いです。そのほとんどは顔を合わせていなかったのに、口の聞けない彼女の言いたいことが妙に良くわかります。吸血鬼となってからはじめてできた友人だからでしょうか。
今ではもう家族のようなものですし、エリたちと仲良くしているのを見ると微笑ましくあります。
仲間に傷つけられ、居場所が無かった彼女が穏やかな表情を浮かべているのを見ると、エリたちを連れて来てほんとうに良かったと思うのです。
……フレッド? ああ、まあいい奴ではないでしょうか? いや、ほんとうにいい奴だとは思うので、ビアンカとの仲も応援してはいるのですが、姉妹を取られてしまうような、すこし複雑な思いもあるのです。
吸血鬼にとって、血族以外の存在は本来軽いものですが、私にはそんな風には思えません。
ビアンカもスーも、エリたちもフレッドたちも、もう懐の中に入っているのです。ただの同居人とは思えません。
そんな風に考えているのが表情に出ていたのか、プリムローズが小さく首を傾けました。
「……ふむ。変わり者とは聞いていたが、やはり卿はどこかふつうの吸血鬼とは違うようだな。ご真祖もそのようなお方であられるのだろうか」
自分でこぼした言葉にうなずくようにしてから、彼女は私をひたりと見据えます。
冷たい印象を受けるプリムローズですが、今までの会話から感じるに、吸血鬼にしてはだいぶ穏健派であるようです。カラスの血族の筆頭である、フランチェスカ公と一緒にいるのが納得できました。違う血族であるのに、どこか似通った雰囲気を醸し出しているのです。
さきほどはすっかり震えあがっておりましたが、私も彼女の雰囲気にだいぶ慣れて来たようでした。
「確かに私は、変わり者とは良く言われますけれど、プリムローズ殿もそうお思いになられますか。ですが私には、あなたもごくふつうの吸血鬼とは違って見えます。一見冷たい印象も受けるのですが、だいぶ落ち着いておられると申しますか、無闇矢鱈に周囲を威嚇するような方には見えません」
ええ、それはもう吸血鬼には高慢ですとか、威圧的な者が多いのです。地位が高くなればなるほど、それは顕著ですね。
比較的親しみやすく、へたれた私などと友好関係を築くことができる、ローラやクリスでさえもそうなのですから、大公やそれに近しい者であるおふたりが、こうもおっとりとした性質であるのは意外でした。
やや不遜とも取れる私の言葉に、しかしプリムローズは口元を隠して笑います。
「ふふ、ありがとう。氷の女と言われる私だが、そんな風に評したのは卿がはじめてだ」
その笑顔は思わずどきりとするような、美しいものでした。……心臓は動いていませんけれど。
吸血鬼は笑うとその牙が剥き出しになって周囲を威嚇しますので、それを隠す彼女の仕草も好ましく思いました。
エリやフレッドが目的でないとわかったせいか、私は肩がすこしばかり軽くなります。公もプリムローズも、比較的親しみやすいせいもあるでしょう。
こういう吸血鬼ばかりだったら、私ももっと怖気づくことなく、吸血鬼との社交に励めるのですけれどね。
夜会前の挨拶地獄を思い出して、私がややげっそりとしておりますと、フランチェスカ大公が不意に口を開きました。
「時にアマデウス卿。あなたは以前、ハンターたちに襲われたとか」
見ると、貴婦人然とした公の目つきが、すこし鋭くなったように思えました。
もしかしたら、そちらが本命なのでしょうか。とはいえ、ほとんど遭遇して一瞬で逃げ出したか、あるいはお情けで逃がされたかのどちらかですので、そう充実した報告はできません。
……そうすると、あの“真銀”で作られたという弾丸が目的でしょうか。
クリスも欲しがっておりましたし、ローラも気にかけておりました。私はまだあれを持て余して、ヘルシングに送り返すこともせずに保有したままです。
ちらりとローラに視線を送りましたが、素知らぬ顔で今度は血のゼリーに手を伸ばしています。
……食べ過ぎですよ、ローラ。
「ええ。情けなくも逃げ出すのにせいいっぱいで、何ともお恥ずかしい限りですが」
「ご謙遜を。あのヘルシングの息のかかった者と聞きましたよ。真銀が使われたとも」
「やはり、それが公の目的ですか?」
公はただ微笑んでうなずきます。どうやら公の目的はそれのようです。
真銀についても良くわかっておりませんが、強力な呪具であるようですし、元老院でも関心を寄せているのでしょう。
正直持て余し気味ですし、ヘルシングには悪いですが、ここは公に預けるのが筋のようです。
私はルーナに弾丸を持ってきてもらおうと、彼女を呼んでそれを頼みました。
すぐに運ばれてきたそれは、黒い小箱に納まっております。何やらいわくありげな呪具なので、強力な封印が施された箱にしまっていたのです。
念のため、蓋を開けて中身を確認しました。
拳銃から発射され、仮にも強靭な肉体を持つ吸血鬼の脇腹に食い込んだというのに、それは弾丸の形を崩してはおりませんでした。綺麗な筒状で、先端がやや尖ったままです。旋条痕のような傷痕や、弾頭が潰れているようすもありません。
真銀とはいえ銀なのですから、こうまで形が崩れないのは、どうも不思議な気がいたしました。
それを見て取ってから蓋を戻して顔をあげますと、何故か公とプリムローズが眩しそうな表情をされていました。ローラはそっぽを向いておりますし、ルーナに至っては目を瞑って思い切り顔を背けています。公たちの御前ですのに、それはまずいでしょう。
何事かと思っておりますと、プリムローズが眇めた目を激しく瞬いて、感心したような声をこぼしました。
「……さすが、ご真祖の血を色濃く継ぐお方だ。それを目にしても平然としておられるとは」
「ほんとうに。カラスの者として鼻が高いことですわ」
公にまで、私はどうやらお褒めに預かっているようですが、何が何だかいまいち良くわかりません。
……もしかすると真銀というものは、吸血鬼にとっては目にすることもつらいものなのでしょうか? 私はこっそりと他の者には見えないように、箱をずらして中身を見ましたが、表面が銀に鈍く輝く以外は、ふつうの弾丸のようにしか見えません。
「歳若い吸血鬼が見ると、それだけで目が潰れてしまうと言いますよ。それほど強力な呪具なのです」
公が手を延べましたので、私はその手に蓋を戻した箱を乗せました。一度それを押し抱いてから、公はそれをしまい込みます。
「確かに預かりました。このままよしなにしますから、アマデウス卿はどうぞお気になさらず。しばらくは領地を離れないほうが良いでしょう」
「……フレッドたちと、クリス……いえ、ドラッケンフォール卿のことでしょうか。彼もずいぶん、その弾丸を気にしておりましたが」
私は悪友の顔を思い出して、眉を顰めました。クリスが弾丸のこと、ひいては吸血鬼ハンターのことを気にしていたのは事実です。
何か、彼のほうでハンターたちと衝突があるのではないかと心配していたのですが、ローラが暴れた見舞いの手紙を出して以来、音沙汰がございません。
それに返信をくれたのですが、その書面にはいつもどおりのクリスの筆跡で、いつもどおりの飄々としたことしか書かれていませんでした。フレッドたちとのこともあり、気になっていたのです。
ですが公は微笑んで、首を横に振ります。
「気になさらずとも良いのです。元ハンターといえど、今はアマデウス卿の領民であれば、あなたにすべてお任せします。また、ドラッケンフォール卿がどうであれ、わたくしたちとハンターは衝突せざるをえません。これは有史以来の宿命のようなもの。彼らは如何に吸血鬼を陥れるか、我らは如何にハンターを欺くか、その争いの歴史しかないのですから」
「それは、そうかもしれませんが……」
私は何と言ったらいいものなのか、言い淀んでしまいました。
……確かに、フレッドたちとクリスとの間を取り持ったところで、星の数ほどある人と吸血鬼の諍いの、ほんのひとつを無くすことしかできません。ハンターと吸血鬼との間で仲立ちすることもできませんし、ましてや私以外の吸血鬼にそれを強いることもできません。
こうして真銀の弾丸を、大公たる彼女が回収しに来られたのだって、そのほんの一旦でしかないでしょう。
ただ、公たちも積極的に、吸血鬼ハンターたちと激しく対立するつもりはないようです。
エリやフレッドたちの編入手続きの報告を上げてそれなりに経ちますし、今回こうして来られたのも、話を聞く限り、呪具の回収が半分で、残りは不良領主が珍しく開催した夜会に出席するのが目的のようでした。
正直、クリスほどの強力な吸血鬼を、ヘルシングを筆頭としたハンターたちは討ちとることが出来ていません。公やプリムローズのような最上位に近い者たちには、とてもその刃は届かないでしょう。
それを知っているためか、彼女たちにとってハンターは取るに足らないもの、襲われても小指の一本であしらってしまうような存在でしかないようです。
ですからこうして、ハンターよりも若輩者の吸血鬼のようすばかり、気にしておられるのでしょう。
私が言いよどんでおりますと、ふとプリムローズが微笑みました。
「卿はまだ若いから、そうして元ハンターやドラッケンフォール卿のことを気にかけているのだろう。だが、貴殿の権限が届くのはこのアマデウス領内だけ。それ以外のいかなる場所でも、たとえ真血の持ち主であっても好き勝手には出来ない」
「……ええ、それはわかっています」
プリムローズに釘を刺されて、私は思わずうなだれました。
私はともかく、吸血鬼と人間との間を取り持つことはできません。フレッドとクリスとだって、恐らくはこのままでしょう。吸血鬼にとって、生き血の供給源として以外の人間のことについては、気にする程のものではないのですから。
ただそれは、私には寂しいことに思えてならないのです。
もっともこれも、お気楽な上の立場だからこそ言えるのでしょうね。人を殺さずとも生きていけるカラスの血族故の、甘い理想なのはわかっているのです。
そう思っていると、ふとプリムローズが微笑みました。
美しいその姿を見ていると、勝手に氷のバラのようなイメージが湧いてきます。
「だが、私はアマデウス領が好きだよ。人々も健康で、のびのびとしている。我が血族の治める領地は、中枢に近いというのに辛気臭くていけない」
「ふふ、それは始祖ヴラドのご意向の賜物でしょう。ですがわたくしも、アマデウスが好きですわ。他はどうも騒がしくて。ここは人も静かで穏やかで、落ち着くのです」
「まあ確かに、人がみな血色が良いのは素晴らしいことじゃ。見るからに美味そうな人間が、これほどそろう地も珍しい」
私の甘い考えを笑い飛ばすこともなく、栄えある女性吸血鬼たちが慰めてくれます。
……もっともローラはすこしばかり、食欲に指針が振れ過ぎているようですが。




