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いつも月夜に血の宴  作者: 桂木 一砂
第一章:吸血鬼の夜
32/168

31.二度目の逃亡です。



 放り出されたのは森の中でした。

 夜空には月が見え、それを背景に黒々とした城の陰が浮かび上がっています。むしろ吸血鬼が住んでいると言われても納得できるような古城ですが、吸血鬼ハンターたちのアジトでしょうか。

 ここがどこだかはわかりませんが、早く離れた方が良いでしょう。私は無言のフレッドたちを促して、夜の森を歩きます。


 転移術で跳ぶにも、場所の把握は必須です。ひとりなら適当でも良いのですが、人をそれも複数人連れての転移は、かなり危険なのです。始点と終点、座標をしっかり意識しなければなりません。

 ですので、森の中の小高い丘にたどり着いてひと息つくと、私はフレッドたちに問いかけました。


「極夜の国までは、私が先導します。フレッド、ここがどこかわかりますか?」

「……ああ。まあ、ジジイん家からそう離れた場所じゃねえ。山ひとつと、国境を越えた先にある河の上流だ。だいたい――」


 フレッドの説明で、おおよその位置は掴めました。エリたちと同様、馬車で荒野を突っ切る方法で行くしかないでしょう。今回の追っ手は大掛かりのようですし。

 ただ、馬車も何も用意がありません。こちらで簡単に調達できるのはふつうの馬くらいでしょうから、以前よりずっと時間がかかってしまうでしょう。


「脚がないときついですね。私が転移できる距離も限りがありますから、一足飛びには無理ですし」

「そうか。まあ、すこしは伝手もあてもある。旅の準備は何とかなるさ」


 フレッドは肩をすくめてから、ヴィクターとヒューゴ、ふたりを見ました。

 彼らは眼下に見える、古城をじっと見つめています。


「おい、ジジイにガキ。いつまでもじめっとしてねえで、とっととこっちに来い!」


 ……親しい間柄というのはわかっておりますが、フレッドはもうすこしこう、相手の心情をおもんぱかった方が良いのではないでしょうか。

 吸血鬼ハンターではない私には、ハンター失格の烙印を押さたヴィクターの今の心境を測ることはできませんし、ヒューゴも同様でしょう。まだ子どもとはいえ何もわからない歳でもないのですから、追放という×についてどう考えているのか、私は推し量ることしかできません。

 ですが彼らが今、彼らの今までに別れを告げて、後悔はしないにしろ悲しんでいるのはわかります。もうすこし待っても良いでしょう。


 ヴィクターはしばらく目を閉じて何かを堪えた後、ぱっとフレッドに振りかえりました。

 そして怒鳴ります。


「ぎゃあぎゃあうるさい坊だな! 年寄りの感傷を待つこともできんほどのガキか!」

「うるせえのはどっちだよ! だいたいもう決まっちまったもんは仕方ねえだろ!? とっとと離れねえと追っ手もかかるし、ディートリンデにも迷惑だろうが!」

「これしきのことでディーが迷惑するものか! 坊と違ってやり手だからな、鼻で笑って時間を稼いでくれるわい!」

「あのなあ、そういうことじゃなくて――」


 ……しんみりとした空気が吹っ飛んでしまいました。わいわいと、だいぶ元気そうなふたりです。

 まあ、落ち込んでいないのは良いことでしょう。

 くいと袖を引かれて、私はそちらを見ました。ヒューゴがきらきらとした目で私を見上げています。


「あ、あの、アベルさんだよな? おれに薬をくれた吸血鬼の。おれはヒューゴ! ヴィクターの孫で、ルドルフとアマナの子! よろしくお願いします!」

「ええ、私はアベルと申します。こんなですが、アマデウス領の領主をやっていますよ。よろしくお願いしますね」


 屈んで挨拶を返しますと、ヒューゴはぱっと笑顔を浮かべました。淡い金髪に薄い青の瞳で、そばかすが目立つ頬を真っ赤に染めた、なかなか可愛らしい男の子です。

 以前見かけた時、彼は顔色も悪く、ベッドでこんこんと眠っておりました。その時とはまるで別人のようです。それに、追放された今もさほどは落ち込んでいないようで、何よりです。

 ですが、これだけは聞いておかねばなりません。


「……これから、ヒューゴやお爺さん、フレッドを連れて吸血鬼の国に行きます。怖くはありませんか?」


 かつて吸血鬼になることさえ決めていたようですし、フレッドとヴィクターとも話し合っておりましたので大丈夫とは思いますけれど、最終確認です。本人の口から聞いておきたいですしね。

 ヒューゴはすこしだけしゅんとしたように肩を落としましたが、未だに元気に騒いでいるフレッドとヴィクターをちらりと見て、その口元を綻ばせました。


「……うん。ちょっとは怖いけど、おれはもうハンターにはなれないし。吸血鬼になりたいって思ったら、もう駄目なんだよな。裏切り者だから……死ぬのが怖かったし、爺ちゃんともお別れしたくなかった。それが駄目だって言うなら、もう逃げるしかないじゃん」

「……そうですね。ハンターたちの掟は厳しいようですし。ですが、吸血鬼にだって掟があります。それを守らなければ、たとえ領主の私でも……いえ、だからこそ、ヒューゴたちを守りきれません。そういう国に行くのだと、それだけは理解しておいてください」


 私がじっと彼の瞳を覗き込みますと、ヒューゴはごくりと唾を飲み込んでから、うなずきました。

 詳しい話はおいおいしなければならないでしょう。ですが、今はとにかく、この場を早く離れた方が良いです。

 私はヒートアップしつつあるフレッドとヴィクターの間に割り込んで、その襟首をひっつかむと、ヒューゴに私に掴まるように告げて、転移術を発動したのでした。




 道中はなかなかかまびすしく、楽しいものになりました。

 流刑ですとか追放ですとか、逃亡中であることを、うっかり忘れてしまいそうです。


 転移術である程度の距離を稼いだ後は、こっそりと町に立ち寄って馬を借りての逃避行です。人通りの少ない街道や、荒野をひたすら進みます。

 ヒューゴは明るく良い子ですし、我に返ったヴィクターは紳士でした。フレッドは今はいつも通りですが、まあ、ハンターの資格を剥奪されて多少落ち込んではいたものの、その後は案外からっとしたようすです。肩の重荷を下ろした、といった体でしょうか。


「俺はそもそも掟破りだからな。吸血鬼になった仲間を殺せなかった。その汚点を拭うために必死で吸血鬼を狩っていたんだが、それって何だかおかしいよな」


 フレッドは自嘲気味に笑いましたが、そうおかしいことでは無いでしょう。


「人が大事にできる人、守れる人の数には限りがあります。そして、人の立場だって変わって行くものです。神様ではないのですから、完璧に臨機応変に出来る人なんていませんよ。割り切れないのがふつうです」

「……そして吸血鬼に慰められるんだから、何だかなあ」


 鼻で笑うフレッドですが、満更でもなさそうです。憑き物が落ちたという感じではありませんが、何だかだいぶ雰囲気が変わりました。それはヴィクターも同様のようです。


「きちんと挨拶してもおらんかったな。わしはヴィクター。吸血鬼ハンターとしての一線を引いた後は、仲間の指南役をやっとった。それが今はこのザマだが、まあ悔いはない。こうして孫と一緒にいられるからな」


 がしがしとヒューゴの頭を撫でて、ヴィクターは笑いました。彼もこの流刑について、それなりに受け入れられているようです。

 ヒューゴはお爺さんやフレッドと一緒に居られて嬉しそうですし、何より健康になったことを心より喜んでおりました。吸血鬼の国に多少の不安はあっても、子どもの無邪気さで好奇心のほうが勝っているようです。


 私は彼らに、簡単に極夜の国について説明をします。私の権限で守れること、私ですらどうしようも出来ないこと、最低限のことは伝えました。

 エリたちとは違って、彼らは極夜の国への追放ですから、それを彼らが受け入れた以上、私もそう対処するだけです。もう二度と人の国へは戻れませんし、戻ろうとしたら私が罰を与えねばなりません。


「……極夜の国では、吸血鬼の権利が人間のものより上に来ます。人の命より、吸血鬼の命のほうが優先されます。呑み込むのは難しいとは思いますが、それを理解してください。でなければ、たとえアマデウス領でも生きて行くことは難しいでしょう」

「うむむ……」


 ヴィクターもフレッドも、そしてヒューゴも難しい顔です。

 人の間でもそういった格差は起こり得ますが、極夜の国ではより顕著です。吸血鬼が必ず人よりも上位にいて、その権利が守られているのですから、元とはいえそれに反抗してきたハンターには受け入れ難いでしょう。

 それが気に入らないのであれば出て行けば良いのですが、フレッドたちはそうもいきません。ハンターとして生きて来た彼らは、吸血鬼への対処法にも詳しいのです。ですが、それはもういっさいできないことを理解しておいてもらわねばなりません。

 これは道中でしっかりと言い含んでおかねばなりません。アマデウス領に到着するまで数日かかりますから、道々話すことにいたします。


 途中、町の宿に泊ったりもしましたが、ほとんどは野営で済ませました。魔物の脅威が少ないのであれば、ヒューゴのような小さな子どもがいても何とかなります。

 どこで追っ手がかかるかわかりませんし、フレッドたちも元の仲間と相対したくないでしょう。私だって、ハンターと遭遇するのはごめんこうむりますからね。


 途中、魔法でアマデウス領宛てに知らせも飛ばしました。捕まってからここまで来るのに数日経っておりましたし、そもそも一両日中に帰るつもりで出てきましたので、帰宅が遅れて心配しているかもしれません。

 まあ、それまでしょっちゅうほっつき歩いていたので、そう心配されないとは思いますが。


 けれど、エリたちは不安かもしれません。彼女たちはまだ、ずっとあの国にいると答えてくれたわけではありませんし、嫌ならば元の国にちゃんと返すと言った私がいないのは心配でしょう。早く帰って、帰宅が遅れたことを謝らねばなりません。




 馬を駆って、荒野を掛け抜けます。魔物が出ないことに、フレッドたちはだいぶ驚いていたようです。

 吸血鬼も夜の魔物ですが、まあ単純に強いので、彼らには幅を利かせることができるのです。人の言葉を解すような高い知能を持った魔物は少ないですが、吸血鬼を厄介な相手だと判断することは、どんな小さな魔物だってできます。ゆえに私が居れば、そうそう襲われることはないのです。

 もっとも、知能らしき知能を全く持たない、暴風のように暴れる魔物もいたりするので、油断はなりませんが。


「いやしかし、おまえさんがよもやデイウォーカーだったとは。わしも目がくらんでおったかな」

「まあこいつは外見に寄らずいろいろと規格外みてえだから。ジジイじゃなくても見誤るだろ」

「かっけー! おれ、やっぱり吸血鬼になってもいいかも!」


 日中にけろりと馬を駆る私を見て、ヴィクターが唸り、フレッドが何気に失礼な言葉を吐き、ヒューゴがとんでもないことを言っています。


「いや、病気は治ったのですから、わざわざ吸血鬼に身を落とす必要はもうないでしょう!?」

「そうかもしれないけどさ。吸血鬼になってでも死にたくないって思ったけど、でも弱点のない吸血鬼ならすげえじゃん! ニンニクが駄目で吐いちゃうような奴にはなりたくないし」


 私は馬上で頭を抱えました。

 ……何でしょう。ほんの少し前まで、幼いうちから重い病にかかり、余命も幾ばくか、吸血鬼ハンター一族であるのに吸血鬼になってでも生き永らえたいと言う、相当な悲痛な覚悟であったはずなのに、何か軽いです。

 いえ、病が治って苦痛と死の恐怖から逃れ、あらゆる束縛から解放されて、舞い上がらないほうがおかしいのかもしれません。ですが、それにしたって追放されて、かつて……いえ、今も人の天敵である吸血鬼の国になど行かねばならないのです。もうすこし、こう、悲惨な空気が漂っても良いはずです。


 フレッドがつつと馬を寄せて、ヒューゴにげんこつを落とす動きをしました。ヒューゴは狭い鞍の上で器用にそれを避けます。


「おまえな、元とはいえハンター一族の出なんだから、ちったあ考えろや」

「だって、もうハンターは名乗れないじゃん。それにこれから吸血鬼の国に行くんだろ? だったら吸血鬼になるのもありじゃんか。おれも爺ちゃんも、“素質”ってのを持ってるんだろ?」


 とんでもないことをさらりと言う子です。もしかして、ハンターとはそう堅苦しくない職業だったのでしょうか。

 ヒューゴは鞍の前に座って、相乗りしているヴィクターを見上げます。ヴィクターは孫可愛さににこやかでしたが、その言葉には複雑な表情も浮かべておりました。それはそうでしょう。


「……まあ、わしらは吸血鬼にはなれるようだが、それも最後の最後、緊急避難というか何とかな……健康になったんだから、もう具合も良いのだし、むしろ吸血鬼になったらいろいろと弱くなるぞ?」

「吸血鬼になるなんざ考えたこともねえけど、あらためて考えると不便だよなあ。まあ、俺たちはそこを突いておまんまを食ってた訳だから、何だか不思議だな」

「デイウォーカーなら弱点なんてないだろ? アベルから血を貰って飲めば、そういう吸血鬼になるんだろ?」

「いや、なりませんよ?」

「まじで!?」


 ヒューゴはだいぶ驚いたようで、目を丸くしています。フレッドやヴィクターは苦笑を浮かべておりますから、知っているのでしょう。

 馬に揺られながら、私はヒューゴに説明してやりました。


「吸血鬼の血を飲んでも吸血鬼にはなりませんし、血は関係ありません。吸血鬼になるためには、必ず一度死んで、蘇る必要があります。それには様々なパターンがありますが、特に吸血鬼に吸血されて死ぬと、その確率は跳ね上がります。本人が望んでいればさらに上がりますけれど、それでも確実ではありません」

「人が吸血鬼の血を飲むとか、輸血するとかすると吸血鬼になりやすいなんて話もあるけど、そっちは眉唾もんだな。あくまでも、人が吸血鬼になるには本人の資質が重要で、死因はそのきっかけ、意思はおまけみたいなもんだ。確実性なんてねえよ」

「ついでに、直系でない半端な吸血鬼に噛まれると、噛んだ吸血鬼以外の血族になることさえあるそうだな。たとえ真祖に噛まれようと、そこらの野良吸血鬼に噛まれようと、必ずしも噛んだ吸血鬼の性質や強さを継承できるという訳ではないようだ。まあ、多少の差はあるみたいだがな」


 吸血鬼と吸血鬼ハンターに説明されて、ヒューゴはがっくりとしております。

 まだそこまで、吸血鬼について学んでいなかったのでしょう。まあ、ハンターは吸血鬼の殲滅が第一で、吸血鬼や吸血鬼になる人について学ぶのはその後でも良いでしょうし。


 ヒューゴには吸血鬼となる素質があるのはわかっていますから、私が彼に噛みついて失血死させれば、ほぼ吸血鬼となるのは確実です。私は元をたどればカラスの始祖の直系ですから、カラスの血族として蘇るのだけは確かです。強さは本人の素質と、そして加齢によって決まります。

 ちなみに傍系は、始祖からではなく、自然発生した吸血鬼のことを指します。真祖によって生み出された始祖とその系譜は、吸血鬼にとっても特別なようです。位の高い貴族はほとんどが直系ですしね。


「うーん。じゃあおれ、もしかして弱い吸血鬼になるかもしれないってこと? アベルは強いんだろ?」

「弱いです。強いのは吸血鬼の弱点に対してだけです」

「いやおまえ、ガートナー兄弟の弾丸受けてぴんぴんしてるじゃねえか。それで弱いって、そりゃねえだろ」


 フレッドがぶつぶつと呟いておりますし、それを聞いてヴィクターも驚いています。

 銃で撃たれてぴんぴんしてはおりませんでしたが、まあ、あっさりと銃創を治せたのには違いありません。撃たれて軽く手当てしただけで、馬車の旅も出来ましたし。

 ですがそれは、軟弱なカラスとはいえそもそもが強靭で頑健な吸血鬼の肉体だったおかげと、あとは魔法と極夜の国の医療技術が高いためです。


 そう、吸血鬼の体はかなり頑丈なのです。あり得ないほどの筋力を発揮できるのですから、頑丈でないと自らの力で自分の体を壊してしまいます。ふつうの武器では傷つけるのも無理ですし、強い吸血鬼の中には、撃たれてもかすり傷すら負わない、とんでもない化け物だっているのですから。

 そういう点から見ても、私は強くありません。そもそもカラスの血族が、筋力がなくて体が頑丈でないということもあるのですが、それは真血を持ってしても変わらないのです。

 ……それでも人と比べればはるかに力強く、頑丈なのですから理不尽なものです。


「うーん。弱っちい吸血鬼になるのは嫌だなあ。吸血鬼になれるかどうか調べる方法って、そこまではわからないの?」

「もしかしたらあるのかもしれませんけれど、私は知りません。今度知り合いに聞いてみますね」


 私の言葉に、ヒューゴはぱっと笑います。強い吸血鬼になりたいって、倫理的に良いのでしょうかね。

 しかしそれにしても、笑顔の似合う男の子です。ヴィクターがどうしても死なせたくないと、吸血鬼になってでも生きていて欲しいと願ったことが、十分理解できますね。


 ヒューゴは明るく、他にも次々に私に質問を投げてきました。

 吸血鬼の国に美味しい食べ物はあるのかとか、珍しい魔物はいるのかとか、好奇心がいっぱいです。不安などないように見えますけれど、ほんとうに大丈夫なのでしょうか。

 とはいえ、ヒューゴはもちろんフレッドとヴィクターも、正式ではないものの極夜の国への流刑という罰が下っています。ここで逃げ出しても、いずれハンター仲間に追い詰められてしまうでしょう。

 死ぬことはどこでだってできます。ならば、一度吸血鬼の国を覗いてみるのも、消して悪くないでしょう。


 そう思って、私はヒューゴの疑問に答えました。

 アマデウス領では牧畜や漁業も盛んで、食文化も幅広いこと、中には魔物牧場もあって、人に扱いやすいよう交配して生まれた新しい生物もいること、食肉や乗り物としてそれが広く使役されていることを話すと、ヒューゴだけでなくフレッドとヴィクターも興味を持ったようでした。

 それでふたりまで会話に積極的に入って来るのですから、馬の旅はだいぶ賑やかなものとなりました。進みは遅かったですが、追っ手に追いつかれたとしても、今回の私は元気ですから、とっとと転移して逃げるだけです。

 ですが、その追っ手の姿も見えませんでした。ディートリンデが何とかしてくれているのかもしれません。


 時折、ヴィクターとフレッドが立ち止まって後を見ます。

 追っ手を気にしているというよりも、そこに置いて来た自分たちの過去と別れを惜しんでいるように見えたので、私もそう急かすことはいたしませんでした。

 ……吸血鬼である私はもう、それを振り返って懐かしむこともできません。

 そう言う意味では、彼らがすこし羨ましく思えました。



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