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いつも月夜に血の宴  作者: 桂木 一砂
序 章:寂寥の声
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0.告白します。



 ……吸血鬼と聞いて、あなたは何を想像しますか?


 人の生き血を啜り、永遠の命を持ち、とてつもない怪力で、姿が変幻自在である怪物。

 こんな感じでしょうか?




 ……吸血鬼には、たくさんの弱点があるのをご存知ですよね。

 それはもう何故こんなものが弱点になるんだ、って不思議に思うくらい。


 例えば、吸血鬼は陽の光に当たると灰になってしまうとか。

 どれだけ紫外線に弱いのでしょう。ちょっと軟弱過ぎやしませんか。それとも暑がりということでしょうか。燃えて灰になってしまうのですから。


 例えば、吸血鬼は聖印を恐れ、聖水に触れると肌が焼け爛れてしまうとか。

 これも意味不明ですね。だいたいどうやって聖別されていると判断しているのでしょう。自分たちは闇属性だとでも思っているのでしょうか。どこぞの不治の病ですか。


 例えば、吸血鬼は流れ水の上を通れないとか。

 要するに金槌ということでしょうか。運動神経も悪くないし、怪力なのに泳げないというのはどういうことなのでしょう。水より比重が重くて沈んでしまうとか、そういうことでしょうか。恐らく、水は悪しきものを祓うと言われますから、そういうことでしょうね。


 例えば、吸血鬼はニンニクや香草などの、臭いの強いものを嫌うとか。

 これも謎です。食べる食材、調理法を工夫せねばなりません。

 ……あ、吸血鬼は生き血しか飲めませんでしたね、これは失礼。無理をして食べることもできますが、まあ、腹の中で腐らせてしまいますし、毒になりますね。


 例えば、吸血鬼は銀の武器、銀で出来たものにも弱いとか。

 実際、銀で出来た刃は柔らかく、ふつうのそう傷つけられそうにないのですが。まあ、銀は邪を祓うと言いますし、聖なるものが苦手ということと繋がるのでしょう。


 弱点といえば、心臓に杭を打ち込まれると死んでしまうとか。

 これはたいていの生物は当てはまりますよね、ええ。吸血鬼に限っては、完全に滅ぼすためには、心臓を破壊しないといけないそうです。

 怖いですね、そんな死に方をしたくありません。絶対ものすごく痛いですよ、ええ。


 あとはそう、人狼が天敵だったりしますね。

 というかこれは人だってそうではありませんか? あの大きな口で噛まれたら、誰だって大怪我しますよ。人狼は力のある魔物であり、人ですからね。

 ……かつて人狼たちは、人を襲ってその肉を食らっていたと聞きますよ? それなのに今は人の味方をしているって、ちょっとずるいです。いやほんと。




 他にも、弱点とまで言えなくても、意味不明な特徴があります。


 例えば、吸血鬼は鏡に映らないとか。

 これは水面やガラスなど、光を反射するものに映り込まない訳ですけれど、どういうことなのでしょうね。眼球の水晶体にだけは捉えられるという謎な仕組みです。

 とりあえず、自分の姿が見えないと不便です。魔法を使わないといけませんね。


 例えば、吸血鬼は招かれていない家には入れないとか。

 ええと、礼儀正しいとかそういう理由ではないですね、もちろん。その家の住人にようこそとか、是非来てくださいと言われないと、どうしてもその建物に入れないのだそうです。よくわかりませんね。


 例えば、ばら撒かれた細かいものはすべて拾わないと、その場から移動できないとか。

 ええ、米粒でしょうか豆粒でしょうが、はたまた小銭でしょうが、たくさんの細かいものが撒かれていると、すべて拾わないといけないのだそうです。

 どこかの地域では、棺桶の中にそれらの細かなものを撒く風習があるそうですよ。吸血鬼となっても棺桶から出られないようにするための、まじないなのでしょうね。


 ほんとうに、訳の分からない生き物ですね、吸血鬼って。




 ……では、どんな人が吸血鬼になってしまうのか、ご存知ですか?


 吸血鬼に血を吸われて死んでしまった者がそうなる、とは聞き及んでいますか?

 ええ、それはほんとうです。新しく吸血鬼になるのはそういう人ばかりです。

 ですが、他にもたくさんありますよ、吸血鬼になる方法というのは。


 例えば、自ら命を絶った者。重い罪を犯して処刑された者。

 恨みを持って死んだ者ってところでしょうか。そんな苦しみの中で、誰も死にたくはないと思いますが。

 とてつもなく追い詰められてしまって、いざ死んでしまう時に、吸血鬼になって心機一転したい! という方には、きっとお勧めですね。


 ああ他にも、呪い師が死んだら吸血鬼となって蘇るのだとか。

 強力な呪い師が死んで吸血鬼になると、とても強い吸血鬼になるそうです。これはちょっと想像しやすいかもしれませんね。類は友を呼ぶと申しますし、怪しげな術を使う者は、どんなものでも怖いものです。


 そうそう、恋煩い、それも片思い中に死んだ者も、吸血鬼になってしまうことがあるらしいですよ。

 ちょっとこれは俗っぽいですね。何だか親しみを感じます、とても。

 誰だって一度くらい、恋をしたことがあるでしょう? それで死んでしまったら吸血鬼になるだなんて、そんな人がいたら同情してしまいます。




 ……ね? すこし親近感が沸いてきたでしょう?




 あとは、そう……。

 出生時に祝福されなかった子どもが死んで、吸血鬼として蘇った例もあるとか。

 悲惨ですね、お兄さん泣いてしまいそうです。誰だって、子どもが苦しんでいるのを見たくはないでしょう。そんな悲しい子どもがいなくなることを祈ります。


 ご自分の葬儀中に、亡骸を猫に踏まれて吸血鬼になった人もいます。

 愛猫家、涙目ですね。お葬式の時に猫を近づけてはならない、なんて迷信はここから来ているのかもしれません。

 猫も一緒に吸血鬼になれたら、ずっと一緒にいられるのですけどね。




 ……それを踏まえて。

 あなたは、吸血鬼についてどう思いますか?

 吸血鬼になりたいなんて、すこしでも思ったことはありませんか?

 あったりしません? ねえ?




 ……それで、何故、私がそんな話を振ったのかと言えば……。

 ええと、ですね。言いにくいのですが、その……。




 いえ、もう心を決めました。

 今までも散々、打ち明けるか迷っていたのですけどね。


 ずっと、あなたと出会ってから。

 でも、もう、黙っている訳にもいきませんから。




 告白します。


 ……実は私、吸血鬼なのです。



吸血鬼モノ、はじめました。


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