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打ち合わせ

「こんにちは。来てくださって嬉しいですわ。」


「王太子妃殿下、お会いできて光栄です。」


かっちりしたスーツ姿の男が頭を下げる。


「もう、せっかくの日本語なんだから、もっと砕けた口調を使ってください。」


「まさか、そんなことはできませんよ。王太子妃殿下。」



今日は、日本大使館の職員の人たちが、宮殿を訪問してくれた。


夫も同席する予定だったのだが、急な公務が入ってしまい、そちらを優先させることになった。(久しぶりに羽を伸ばす、というか思いっきり日本語を使いたかったので、特にショックでも何でもない。)


カリンは国王陛下夫妻、つまりおじいちゃんとおばあちゃんに預かってもらっている。というか連れ出されている。


今日の公務で訪問する予定地に、カリンと同じくらいの子がいる保育園などが含まれているためだ。


由緒正しいヨーロッパの王室と、日本人の血をひくカリンへの関心は世界中で高い。夫が王室関連のSNSでアップする写真は、世界中で話題になっていた。下手に隠すよりも、適度に情報を公開したほうが安全だと判断したのだ。


また、祖父である現国王との仲の良さをアピールすれば、王室のイメージアップにも繋がる。まぁ実際仲がいい通り越して、国王陛下は孫娘を溺愛しているので、アピールしてなくてもアピールしているのだが。(先日、外国の要人相手の晩餐会で、ひたすらカリンの話をしていたらしい。その相手も最近孫が生まれたとのことで、話が弾んだのが幸いだったが、もっと国益にかかわる話をしてもよかったのではと後で首相から叱責されたらしい。)


私との結婚のとき、反対したとか、いじめがあったとか、日本嫌いとか、アジア人を馬鹿にしているとか、私やカリンに対して快く思っていないとか、あれこれ噂を立てられたので、それを払しょくするためにも、このイメージアップは欠かせない。



とかなんとか言っているが、実際には私と夫の目の届かないところで孫娘を最大限甘やかし、将来「おじいちゃん大好き♡」と言ってもらいたいのが見え見えだ。(笑)








とにかく、私は数名の日本人職員を相手にあれこれ打ち合わせをした。


日本としては、寝耳に水の婚姻であったけれど、この機に交流を深めたいと思っているし、ヨーロッパの王室にパイプができたことは、外交的にメリットでもデメリットでもある。


私がヨーロッパで何かやらかせば、とばっちりが日本に来る。逆に故郷である日本が何かやらかしたら、私がヨーロッパで何かできるかもしれない。


ということだ。




といっても、話の大部分は、最近の日本の様子や、政府や皇室の方針に関する説明だ。


「今度、外務大臣がフランスに行きますので。」


「ということは、ここにも?」


「ええ、王太子妃殿下にご挨拶という名目で参ります。」


「本音は?」


「さすがですね…。」


職員たちは顔を見合わせた。


私は、まだ大学生ではあるが、これでも世界の歴史とか政治とか、そういうのが専門だ。おまけにこんな立場になったので、嫌でも世界情勢はお手の物だ。


「実は、今度東欧の国々に、日本の技術を提供するべく、売り込みを始めるのです。ヨーロッパでは他国の影響がまだまだ強くて…。その準備も兼ねています。」


「そうですか……。しかし、私はもう、この国の王太子妃。日本の手先にはなれませんよ。」


「ええ、わかっていますよ。しかしあなたは、手続きの関係上、日本国籍もまだ保持していますよね。なんて、冗談ですよ。それこそ日本へのイメージダウンにつながりますから。日本人ではなく、王太子妃としておふるまいください。」


話は止まらない。一瞬カリンが泣きわめいて国王夫妻を困らせてはいないか、と不安になったが、頼もしい2人の顔を思い出してすぐに頭から振り切った。





いくつもの打ち合わせが済んだ。


「ところで、頼まれていた品、こちらでよろしいですか?」


職員が立ち上がりながら、鞄から数冊のマンガをとりだした。


「ええ!ありがとう!もう、こっちで買おうとすると、すごくお金がかかるの!特典もつかなかったりするし!ところで、あの連載はどうなった?ほら、あれに載ってたやつ!気になってたの!」


思わず叫ぶ私を見て、大人たちが顔を見合わせて笑った。


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