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野良怪談百物語

レイコイ

作者: 木下秋

 これは私の初恋の話。小学校、二年生くらいだったかな。



 塾の帰りにね、八時くらい。外を歩いてる時、見つけたの。私の住んでる家の真後ろの家だったんだけど、二階のベランダにすっ――ごいかっこいい人がいてね。


 ホリが深くって、ハーフなのかな? って感じの顔。唇は薄くて、鼻筋がスゥッ、としてて。髪は黒かったけど、パーマがかかってるみたいにくるくるしてた。そんな大人っぽくて、どこか子どもっぽいかわいさも含んだような顔が、その家のベランダから見えたの。


 部屋は明かりが点いてなかったみたいでよく見えないんだけど、月の明かりに照らされて、ぼんやりと見えた。煙草を右手に持ってて、時折それを吸い込むと、フゥーって気だるげに吐いて。


 月の光の中を漂う、煙まで見えた。――それで、一目惚れだった。



 朝とか、日の昇ってる時間帯にはその家には誰もいなかったみたいなの。家からは何の物置もしなくってね。でも、私が塾から帰ってくると――それは毎週水曜日と金曜日だったんだけど――絶対いるのよ。私はそれを横目に帰ったわ。塾にいく日が楽しみになった。もちろん、帰りに見るその人が楽しみでね。


 塾に通いはじめたのは二年生の四月からだったけれど、気付いたのは五月くらいかな。それで六月が来て――梅雨が来た。



 その日は雨がすっごく強い日で、私は雨合羽を着ていたの。塾からの帰り、今日はいないだろうなぁーなんて思いながら顔を上げて、雨に目を細めながら、そのベランダを見た。


 ――その人はいた。その日もベランダに。それで、タバコを吸ってた。赤い光の粒が、降り続ける雨粒の中に、はっきりと見えた。さすがにおかしいと思ったわ。――だってそのベランダ、屋根が無いんですもの。


 その人は濡れている様子もなかった。くるくるしたパーマヘアはその日もモコモコと盛り上がっていて、とても雨の中にいるとは思えなかったわ。それで家に帰って、お母さんに言ったの。その人のことをね。――それがこの男の人について、他人に話した最初で最後。


 お母さんは、そんなはずはないわ、って言った。「だって、あの家には人が住んでいないのよ」、とも。


 私はそれからも塾に通ったけど、そちらを見ることができなかった。なんだか怖くて――“人がいないはずの場所”にいる人が見えてしまうだなんて、子どもながらにおそろしかったわ。


 小学校三年生に上がる頃、その家は壊された。新しい家を建てるためにね。今は、そこには綺麗な白い家が建っている。



 あれからもう十年以上が経ったけど、今でもその男の人の顔は思い出すわ。……だって初恋の相手ですもの。


 でもこの話、さっきも書いたけど、今回こうして話すまで、一度だって他の人にしたことはなかったわ。


 ……なんでかって? そんなの、簡単な理由よ。


 だって、“初恋の相手が幽霊だった”だなんて、オカシな話でしょ?

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