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幕間『愚か者の独白』
夢を見た。
何も知らないまま温かさを享受していた、幼い自分の夢を。
その対価を知らぬまま、今日と同じ明日が来ると盲信していた、愚かな子供の。
花畑というには、貧相な草原。
本当はもっと人がいた筈なのに、隣にある、最も馴染んだ人影だけが明瞭だった。
彼が作った拙い花冠を頭にのせ、微笑んでいた娘はもういない。
どこにも。
「ねえちゃん」
溜息のような彼の呼びかけに、応える者は誰もいない。
呼びかけが届いてほしい人とは、決別して久しい。
「あした、か」
瞼の裏に映るのは、消えていく背中。
——一体どうすれば、引き止めることができたのか。
繰り返した『もしも』の数と一緒に、流れ出した時間は増えていく。
止めどなく溢れた時は、彼らを後戻りできない場所まで押し流した。
触れることすら許されないのなら、せめて。
どうか、どうか、願わくは。
今度は、この声が届くように。
今更、戻ってくれなんて言わない。
貴女の犯した罪が消えないことなんて、知っている。
それでも、どうか、どうか。
——僕が知る貴女を、これ以上殺さないでください。