六
オトナなシチュエーション、再び
「……ごめんなさい……。……ごめんなさいっ……」
娘は、両手で顔を覆った。
指の隙間から、止め切れなかった雫が滴り落ちる。
「……私は、あなたを、……望んで、あげられないっ……」
それが、彼女が自分のために零した最後の涙だった。
恨んでいい。
恨んでいいの。
だから。
だからどうか——
***
「——もう少し、ですね。我が君」
気だるげな臣下の声に、女は僅かに目を伏せた。
情事の後の倦怠感に支配された肢体を、ひんやりとした手が撫でる。
その愛撫は、埋もれた熱を呼び覚ますものではなく、ただ優しいものだった。
女は目を閉じ、傍らの温もりに身を寄せる。
何度も繰り返した夜と、同じように。
仄暗い灯りに照らされた室内は、上等な設えとはいえ、必要最低限の家具しか置かれておらず、殺風景だった。
「あと少しで」
昏いものを宿した言葉は途切れ、おもむろに吐息が重ねられる。
赤銅色と濃い目の茶色の視線が絡み、女は、乾いた血の下に不気味に蠢く熱を見る。
白いシーツの上に惑う、長い髪。
触れ合う肌が、再燃した欲望を互いに伝える。
貪るような口付けに酔いながら、女は、いずれ来る道の果てを思った。