番外編『星無時に頑張る子供』おわり
溢れだしていた何かが急速に鎮まる。
星無時の終わりは、いつだって唐突だ。
取り戻した平穏の中、昨日と同じような蒼い空を、子供は見上げる。
「ありがとうございました」
娘は子供に向かい、優雅に頭を下げた。
教本のような貴婦人の礼に、子供は微妙な顔をする。
「……なぜなのだろうな」
不思議そうに顔を上げ、娘は子供を見た。
子供の老いた瞳は、娘ではなく、己が通り過ぎた過去に向けられていた。
「父は、居場所が欲しかっただけで、国も、王座も必要としなかった。……それなのに、どうして、皆、……縛るのだろう?」
始まりの王の末子は、迷い子のような表情を浮かべて独白する。
「——他の方々のことは分かりかねますが」
血肉の山河を歩むことを決めた娘は、ふと笑みを浮かべた。
「私は、欲しいものがあるのです」
何も知らない童女のような、透明で無垢な微笑。
「幸せになって欲しい人が、幸せになれる国が欲しい」
敵にならないと分かっている存在だけだから、口にすることができた言葉。
陳腐で使い古された願いを、いっそ夢見るように娘は囁いた。
——そして、国が手に入った、それからは?
その時子供の心に湧いた疑問は、最期まで、娘の耳に届くことはなかった。
蛇足であるが、数々の意味不明な妨害により、子供が大霊廟に帰還できたのは、星無時の一週間後であった。




