二
残酷描写有。苦手な方はご注意ください。
隣国からの侵略の最中、最前線にあるその砦は、戦とはまた異なった異様な緊張感に包まれていた。
高い位置に作られた小さな明り取りの窓からは、部屋の中を照らすにはいささか弱弱しい光が差し込んでいた。
最低限の家具しか存在にない部屋には、人影が一つ。
戦場にはあまりにも不釣り合いな、華奢な体付きの少女だった。
「らららららららららん。ららららららら、ららららららららららららん」
くるりくるり、くるくるくるりと少女は回る。
「らら、ららら、らららららららららん。ららん。らららららん。らららららららららららららららん」
未だ幼さを残す少女は唄い、回り続ける。
「ららん。らららん。らららららららら、らららららららららん」
両耳の上あたりでそれぞれ括られた赤銅色の髪が、楽しげに踊っていた。
部屋の扉の方向から、柔らかな衣擦れの音がする。
「コーディリア」
少女の名を呼んだのは、高く涼やかで、絶対的な覇気に満ちた声だった。
「はい、我が君」
少女は回るのを止め、花咲くような笑みを浮かべる。
「行こう」
簡潔な言葉で少女を促したのは、深紅の衣装を身に纏った若い女だった。
濃い目の茶色の髪を優雅に結い上げた女の姿は、無骨な石造りの砦にはいかにも不似合だ。
「はいっ」
少女は嬉しくてたまらないというように、手にしていたものを放り投げ、女のもとへと駆け寄る。
少女が投げ捨てたものは、湿った音を立て、冷えた床の上を転がった。
己が身に降りかかった死を理解しないままの、男の首。
それを見ても女は動じることはなく、少女の興味はそれから失せていた。
部屋から背を向ける女の後ろを、少女は付いていく。
血溜りに浸された濁った瞳は、去りゆく二人を映していた。