表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/28

残酷描写有。苦手な方はご注意ください。

 隣国からの侵略の最中、最前線にあるその(とりで)は、戦とはまた異なった異様な緊張感に包まれていた。


 高い位置に作られた小さな明り取りの窓からは、部屋の中を照らすにはいささか弱弱しい光が差し込んでいた。

 最低限の家具しか存在にない部屋には、人影が一つ。

 戦場にはあまりにも不釣り合いな、華奢(きゃしゃ)な体付きの少女だった。

「らららららららららん。ららららららら、ららららららららららららん」

 くるりくるり、くるくるくるりと少女は回る。

「らら、ららら、らららららららららん。ららん。らららららん。らららららららららららららららん」

 未だ幼さを残す少女は(うた)い、回り続ける。

「ららん。らららん。らららららららら、らららららららららん」

 両耳の上あたりでそれぞれ(くく)られた赤銅色の髪が、楽しげに踊っていた。

 部屋の扉の方向から、柔らかな衣擦れの音がする。

「コーディリア」

 少女の名を呼んだのは、高く涼やかで、絶対的な覇気に満ちた声だった。

「はい、我が君」

 少女は回るのを止め、花咲くような笑みを浮かべる。

「行こう」

 簡潔な言葉で少女を促したのは、深紅の衣装を身に(まと)った若い女だった。

 濃い目の茶色の髪を優雅に結い上げた女の姿は、無骨な石造りの砦にはいかにも不似合だ。

「はいっ」

 少女は嬉しくてたまらないというように、手にしていたものを放り投げ、女のもとへと駆け寄る。

 少女が投げ捨てたものは、湿った音を立て、冷えた床の上を転がった。

 己が身に降りかかった死を理解しないままの、男の首。

 それを見ても女は動じることはなく、少女の興味はそれから失せていた。

 部屋から背を向ける女の後ろを、少女は付いていく。

 血溜りに浸された濁った瞳は、去りゆく二人を映していた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ