番外編『星(ほし)無時(なしどき)に頑張る子供』その2
子供が現れるのは、代々の王族が眠る大霊廟。
大霊廟の最奥には、開かずの扉が存在する。
選ばれし者にしか開けられぬとされる彼の扉は、星無時の数日前に開かれる。
そして、扉の奥から、子供は現れるのだ。
初代国王よりその血統に引き継がれてきた、濃い目の茶色の髪と瞳。古風な意匠の衣服が覆う肌は、妙に白い。未だあどけないその面差しの中、老成した眼差しが際立っていた。
「むうっ」
子供が持ち上げきれずに引き摺っているのは、長大な筒状の金属の塊である。
禍々しい気配を漂わせ、優美な線と無骨な輝きを有するそれは、所謂銃器と呼ばれるものであった。
時折迷い込む異界の民の話では主要な武装になっているというその武器は、しかし、この世界では使い勝手の悪い代物として認知されている。
弓矢のように付与魔法による威力向上が見込めず、威力も射程も使い勝手の良さも、結局は魔法や攻撃系の魔法具が勝ってしまうからである。
己の身の丈以上の銃器は、子供の手に余ってしまうのだろう。
銃器を持つ子供の腕は、プルプルと小刻みに震えていた。
「む、むぅ~」
短く整えられた髪を振り乱しながら、子供は銃器を引き摺っていた。
子供の力では、銃器をほんの僅か移動させるにも、いちいち全力を振り絞らなければいけない。
頑張っている。
物凄く、頑張っていた。
それは、見る者に、思わず子供の頭を撫で回したくなる衝動を引き起こすような、そんな光景であった。