おまけ小話『えすえむごっこ』
「……何をしているの?」
「うんとね~、えすえむごっこ?」
目の前の光景に硬直する主君に向かって、少女は無邪気に笑う。
何故か愛用の武器の鋼糸ではなく、鞭を手にする少女の足元には、荒縄でぐるぐる巻きにされた男が転がっている。
今まで少女に、鞭うたれるわ、げしげしと足蹴にされるわと無体を働かれたせいで、常にきちんと整えられている男の服は乱れに乱れていた。
「でもね~、手加減して叩いたり、踏んだりするのはつまんないの」
「今すぐやめなさい!」
「……君ではなく愛しき我が君にしてほしかったよ」
幸か不幸か、男の呟きは女の耳に入らなかった。
実にいい笑顔で主君の自室に縄やら鞭やらその他諸々を持ち込んだ男に、少女は首を傾げた。
主が不在の今、普段より殺風景に見える部屋の中で、用途不明のそれらは激しく浮いている。
「何、それ?」
問いただした少女に男が向けた笑顔は、少女にとって非常に気持ちの悪い代物であった。
「たまには趣向を変えてみようと思ってね」
にまにまと笑う男の顔は、何故か少女に殴りたくなる衝動を引き起こす。
「我が君の柔肌にくい――ぐふっ」
それ以上男が言葉を紡ぐことを、少女は許さなかった。
急所を的確に殴られ悶絶する男を、少女は気にもかけない。
開けなくてもいい扉を主君が開けるのを阻止するため、少女は無言で一番頑丈そうな縄を手に取った。