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 誰もいない城内。

 彼らの足音だけが、無音の中に響く。

 じわじわと湧き上がる不安。

 それが、仲間達とは質が異なるものであろうという事実から、彼は目を逸らしていた。


 ***


 扉が開く音が、豪奢なだけの広間に虚ろに響く。

 待ち人の到来を知り、独り、虚飾に彩られた玉座に腰かけていた女は、静かに面を上げた。

 過分な装飾を施された扉を背に、幾人もの武装した人間達が(たたず)む。

 女への殺意を帯びた集団の中にあって、遠い記憶の中にいた子供は、泣き出しそうな顔をしていた。

「ねえちゃんっ!」

 懐かしさを含む声が、女を呼んだ。

 同じ色の瞳が、つかの間交わる。

 懇願(こんがん)するような眼差しに返ってきたのは、どこか安堵(あんど)したような視線。

「もう——」

 女と似通った面差しの青年の言葉は、女の微笑に阻まれた。

 向けられる殺意も憎悪も全て呑み込み許容する、泰然とした、他者を圧倒する王者の笑み。

 ただそれだけで、対峙する者を沈黙させた女は、手にしていた杯を軽く掲げた。

 複雑な紋様が施された透明なそれは、どす黒い液体を湛えていた。

「アート」

 優しげな声で紡がれる言葉は、あまりにも一方的であった。

「滅ぼすも、富ますも、好きになさい」

 何を。誰が。どうして——。

「——駄目だっ!!!」

 その先を悟った青年が止める間もなかった。

 杯の中身を一息に飲み乾した女の手が、ゆっくりと落ちる。

 砕けた杯は、女と同じ。

 もう、二度と戻らない。


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