表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/28

「——明日は指示通りに動くよう、徹底しなさい」

「御意」

 一礼した女官長に、部屋の主は腕を振り、退出の合図とする。

 退出していく女官長が、噛み切らんばかりに唇を噛み締めていたのは、少女にしか見えなかったに違いない。

 必要最低限のものしか存在しない、殺風景な部屋の中心で、少女の王たる女は、気だるげな吐息を吐いた。

 少女は主君に音も無く近寄ると、椅子にもたれる女の膝に擦り寄った。

 女が身に纏う深紅の衣装は上等な代物で、肌触りはなかなかに良い。

 少女は猫のように、布地の下の女の膝上の柔らかな感触を堪能する。

 魅惑の谷間の良さを力説するどこぞの変態に対し、少女は主君の膝枕を(いた)く気に入っていた。感触は谷間も良いと少女も思うが、如何(いかん)せん、枕にするときに息苦しくなるのがいただけない。

 少しの間を置き、少女の頭を撫でる手が心地よかった。

「我が君、大好きだよ」

 ふっと、微笑む気配。


「でも、大嫌いだよ」


 その時の顔を見たくはなかったから、少女は温かな膝に顔を埋めた。

「ありがとう」

 酷く優しい、主君の声が紡いだのは、どこまでも残酷な言葉。

 謝罪が聞きたかったわけではない。けれど、感謝の言葉も、聞きたくはなかった。

 少女は少しだけ、女官長の気持ちが分かる気がした。

 慈悲深く凛として強い、彼女の主君は、その一方で酷く冷徹だ。

 今更、どんな言葉をかけようと、その歩みが止まることはないだろう。

 主君の、どのような場面であっても己であり続ける強さが、眩しく、焦がれ、疎ましかった。


 大事な、大事な、彼女の主君。

 ——『必要だから』という言葉で、喪うことへの嘆きを、禁じて欲しくはなかったのに。


 温かな膝の上、少女の顔がくしゃりと歪んだが、涙は一滴も出てきてはくれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ