西の都からの知らせ
〜火炎のダンジョン:最終フロア〜
マオが重い扉を開けるとほぼ同時。
むせかえるほどの凄まじい熱気がマオの全身を覆う。
「…なんだよ…これ」
扉の向こうには、ダンジョンとは確立した異世界が広がっていた。
空があり、大地があり、山がある。
そして、その全てが炎に覆われていた。
とてつもなく広大で異質なこの空間を見て、マオは思わず息を飲んだ。
「すごいでしょう…これが不死鳥の創り上げた空間よ。この空間の何処かに不死鳥がいるわ」
「はは…冗談キツイぜ。空間を創るとかマジで馬鹿げた力だな」
苦笑いするマオ。
「こんなところ喋っていても埒が明かないわ。敵を探しにいきましょうマオくん」
スタスタと一人歩き出すラミカ。
その後を急ぎ足で追いかけるマオ。
「おい待てよラミカ。探すって言ったってこんなに広いんだぞ。何処をどう探すんだよ」
「忘れたの、私は以前このダンジョンに挑戦して不死鳥に負けてるのよ。何処に不死鳥がいるのかくらいわかるわよ」
「ああ…なるほど」
(そういえば、ラミカはこのダンジョンに一度挑戦してるんだっけか)
ラミカはニコッと笑ってマオの手を握る。
「ほらいきましょうマオくん。大丈夫、君ならきっと勝てるわよ」
「お…おう……」
二人は不死鳥の元へと急ぐ。
〜鉱山都市:とある一軒家〜
「ズズッ…ふぅ……堪能しましたぁ」
「ズズッ…ふぅ……なんでだろう、今僕はとても幸せな気分だよぅ」
ティーカップに入った紅茶を飲み、ふぅと一息つく二人。
「如何でしたかな、一日に数千個がさばかれると言われる『チョコレート』なる甘味のお味は。手に入れるのに苦労したのですぞ。なんせ予約は10年先までいっぱいですからな」
「十年先!? そんな貴重な一品を…なんだか勿体無いです」
勿体無い、そう言ったケイトのテーブルにはモンブランの空が十個ほど置かれていた。
「ふむ、それでは本題に入りますかな」
長老はテーブルの上にある一枚の紙を提示した。
「………これは?」
「ある一人の勇者からの報告書ですじゃ。目を通してくだされ」
長老は報告書をケイトの前に差し出す。
ケイトは差し出された報告書を手に取り目を通し始める。
“西の都『オケアノス』被害報告書”
現段階でオケアノスは、西の魔王の手によって壊滅させられたと言っていいだろう。死者の数は十数万人にもなる。王族や貴族のほとんどは拉致、幽閉されている。オケアノス奪還には数万の兵と手練れの勇者が必要になるだろう。いずれにせよ、このまま放っておけるような話ではない。オケアノス奪還へ早急に取り掛からなければならないことは、火を見るよりも明らかである。
-ドルト・アッカート-
報告書を読んだケイトは険しい顔で長老に目をやる。
「西の都が…魔王の手に堕ちた!?」
「………はい、そのようですじゃ」
ガタンと勢いよくケイトは立ち上がる。
「すぐにオケアノスに向かいます。事態は刻一刻を争う」
「まあそう焦られるな。焦っても結果は出ませんぞ。今は戦いに向け準備し、じっくり策を練ることが懸命ですじゃ」
焦るケイトをそうなだめる長老。
「し、しかし…」
「幸いなことに、殺された数十万人以外の人民数万人は無事避難に成功していますじゃ。まあ不幸中の幸いってやつですかな」
長老はこの緊急事態でも至って冷静だった。
それは、長年生きてきた経験があるからに他ならない。
長年生き、たくさんのものを見てきた長老にとって、この程度の事態は慌てるようなものではない。
「“フィオナ騎士団”にも既に知らせを入れていますじゃ。私たちは魔王との戦闘に向け準備に取り掛かりましょう」
無言のまま、ケイトはコクリと頷くのだった。




