16-8
優莉には申し訳ないけど、俺は本気で自分の耳が正常かどうかを確認せずにはいられなかった。
軽く震えている手に持つ携帯電話から聞こえてきた、優莉の声。……言葉。
それは確かに俺の耳に届いて、今こうして心の中に沁みわたっている。
当然俺は、優莉の表情や本心を窺い知ることはできない。でも、あんなにも強い口調での言葉――きっと、優莉がその言葉を放つのは必死の想いだったに違いない。
――嬉しい。制御しようのない喜びが込み上げてくる。
優莉の想いに応えないと。……優莉に感謝の気持ちを伝えないと!
「……ありがとう」
でも、意気込みだけで結局そんな言葉しか放つことができないでいる。もっと他に、優莉に伝えるべき言葉はきっとあるはずなのに。
あまりにも喜びが全面に出すぎて、何を話せばよいのかわからなくなってしまっている。
このまま黙っているわけにはいかないのに……。普段話してるときは普通に話せるのに、どうしてこういうときにはまともに話すことも出来なくなっちゃうんだよ!
「あの……ごめんなさい。変なこと……言っちゃいましたよね」
ついには、俺が何も話さないことに誤解したのか、優莉がそんな言葉を掛けてくる始末。
しっかりしろ! 折角優莉が話してくれたのに、このままでいいわけないだろ!!
自らを鼓舞するように平手で胸を叩いて、俺は何とか話しだした。
「そんなことない! 本当に、嬉しいんだ。……その、嬉しすぎて何を言ったらいいかわからなくなっちゃって。とにかく、優莉が謝る理由なんて一つもないよ」
「本当……ですか?」
「あぁ。優莉が電話してくれたことも嬉しいし、俺のことを気にしてくれたことも、凄く嬉しいよ。……本当に、ありがとう」
言ってすぐ、何だかこっぱずかしくて顔が熱くなってくる。……でも、それは間違いなく俺が想っていること。
――間違いなく、俺が伝えたかったことだ。
+ + + + +
優莉にとってみれば、あの電話は瞬に強制されたことなのかもしれない。少なくとも、俺の電話番号を瞬から聞いたのは間違いないみたいだし。
……でも、そのおかげで俺は優莉との新たな繋がりを得ることができた。
優莉が俺の携帯電話に電話してきたということは、当然俺の携帯電話には優莉の電話番号が履歴として残っている。
優莉に直接確認は取らなかったけど、今度は俺が優莉に電話しても……問題ないよな?
……少なくとも、いつでも連絡を取れる状態になったのは確かだ。
「何か癪だけど、瞬に礼を言っといた方がいいかな」
ベッドに横になって、優莉の電話番号が表示された携帯電話の画面を見ながら呟く。
――今日はこの、何とも言い表せない充実感に包まれたまま、想いを抱いて眠りたい。




