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何だかもう、今日は気持ちが二転三転して、何が何だかわけわからなくなっていた。優莉に対する気持ちを知った自分。その優莉に心配されて物凄く焦った自分。瞬に茶々を入れられてイラッとした自分。そして……ナインボールで瞬に負けて悔しい気持ちでいっぱいな自分。
……やっぱり瞬は強かった。俺がブレイクショットを打って、その時に球が一つポケットに入ったから、続けて三番までは球を沈めることができた。でも、その後四番の球を沈めそこねてからは、もう瞬の独壇場。その後俺に出番が回ってくることはなく、九番の球までしっかりと沈められてしまった。
九番の球を沈めたときの瞬の表情ときたらもう……。あぁ、思い出すだけで悔しさがこみ上げてくる。
結局その後も三人で交代しながらビリヤードを楽しんで、トータル二時間くらいやってビリヤード場を後にした。
そして、あまり遅くなってもまずいってことで、ビリヤード場を出てすぐ解散。……今に至るというわけだ。
我が家の自室で適当に音楽を流しながら、ボーっと偶然机の上においてあった漫画本に目を通す。……よくありがちな、主人公の男の子が知らない世界に飛ばされて冒険を繰り広げていくような、少年誌のファンタジーコミック。
思えば、俺の境遇もこの主人公に似てるな。漫画とは違うルートだけど、俺もあの怜也に渡された文庫本のせいで向こうの世界に飛ばされることになったわけだし、向こうの世界では魔物と戦ったりもしてる。
……まぁ、この漫画の主人公みたいに超人的な力を持ってるわけじゃないから、すんなりと物語が進展してくれるとは思えないけど。それどころか、無事に物語が完結してくれるかどうか。
「……ま、俺のはフィクションじゃなくて、実際に起こってることだもんな」
思わず呟きながら、漫画本から視線を逸らして天井を仰ぐ。
そう、実際に起こってることなんだ。だからこそ、向こうの世界で出会った優莉に、現実世界でも会うことができた。
そっか。そういう意味では、俺は現実世界でも向こうの世界でも優莉に会うことができるんだ。普通の人よりも、多く優莉のことを知れるチャンスがあるんだ。
って、何考えてんだよ俺。それじゃ、まるで向こうの世界に居たいって言ってるようなものじゃないか。……やっぱり、俺の頭の中は何が何だかわからない状態になっているみたいだ。
「ハァ。……でも、向こうの世界での優莉の姿、綺麗だったな。そりゃ、みんなも騒ぐよ。これで優莉もみんなのアイドルか。……何かフクザツ」
向こうの世界のことをイメージしていたときにふと浮かんできた優莉の姿に、思わずそんな言葉を漏らしていた――その時だった。
――穿いていたジーンズのポケットにしまってある携帯電話から、電話の着信を知らせるメロディが流れてきたんだ。
サッと携帯電話を取り出し、画面を確認する。すると、そこには電話帳に登録してない番号が表示されていた。
知らない人からの電話は、ちょっと出るのに躊躇してしまう。とりあえず数秒待ってみるけど、メロディが途絶えることはない。
誰だろうと思いながらも、鳴り続けるメロディに俺はその着信を受けることにした。
「……もしもし?」
多少の不安を象徴するように小さな声で呟くと――。
「――高丘先輩ですか? あの……水上です」
――全く持って予想していなかった声に、俺の頭は一瞬真っ白になってしまっていた。




