16-2
「――ま、とりあえず邪魔じゃないなら俺は俺でダーツやるけど、良いんだよな?」
「だから、んなことないって言っただろ?」
「そっか? なら良いんだけどよ」
そう言うと、三浦先輩は「んじゃ!」と手で挨拶をして私たちのもとから離れていく。……とは言っても、視界に入る範囲内にいるからあまり離れて行ったような感覚はないんだけど。
「まったく瞬のやつ、いきなり現れたと思ったら、突然何言い出すんだか」
「何か面白い先輩ですね。……あっ、面白いだなんて言っちゃいけないですよね」
「あぁ、良い良い。もういくらでも好きなように呼んじゃっていいよ!」
高丘先輩は、何だかわざと大きな声を出しているみたいだった。当然その声は三浦先輩の元にも届く。
でも、三浦先輩は声を出すことなく口の動きだけで文句を言いながらも、表情は笑っていた。……何か、きっといつもこういう調子なんだろうな。二人の関係は。
その事実を象徴するかのように、高丘先輩からさっきまでのぎこちなさが無くなっている。私の知る、高丘先輩の姿だ。
そのことに、私はとてもホッとしていた。何でそうだったのか理由はよくわからないけど、やっぱり高丘先輩はぎこちない姿より今みたいに穏やかな笑みを見せてくれなきゃ。
「えっと、何だか話が逸れちゃったような気がするけど……とりあえず続きやろうか」
「はいっ!」
こうして私と高丘先輩は再びビリヤードに興じ、ようやく慣れてきた頃にはすでに五回もナインボールをしていた。やっぱり初心者だからミスばかりしちゃったけど、それでも高丘先輩が丁寧にやり方を教えてくれたから、何とかそれなりに試合ができるようになった。
教えてもらって気付いたけど、ビリヤードって結構頭を使う。狙った球をどうやったらポケットに入れられるかを考えたり、ただ入れるだけじゃなくて、相手の邪魔になるような位置に球を移動させることを考えたりと、色々と奥が深い。
きっと高丘先輩は初心者の私のために手加減してくれているんだろう。私でも、一回高丘先輩から勝利をもぎ取ることもできた。
ビリヤードって、本当に楽しい。……こんなに面白いものなら、もっと前からやってれば良かったな。
「ふぅ、とりあえず結構やったし、一度休憩しようか」
「あ、そうですね」
そんな提案に私が頷くと、高丘先輩は「ちょっと待ってて」と言って、少し離れた位置にある自動販売機の元へと向かっていく。そしてその間、なんとなく私がビリヤード台の上の球をキューで突く練習をしていると、ダーツをしているはずの三浦先輩がひょこっと私の横に現れた。
「なぁ優莉ちゃん、俺とも一回勝負してみない?」
そして、そんなことを笑みを浮かべながら告げてくる。
「あ、良いですよ。……でも私、初心者ですから、手加減してくださいね」
「りょ~かい!」
三浦先輩はそう言うと、すぐさまビリヤード台に散らばっていた球を集めてブレイクショットの体勢をとる。そして、右腕を引いてキューを突きだ――すかと思ったら、その前に私に一つの提案をしてきた。
「――そうだ! 折角だから負けた方は罰ゲームやるようにしようよ!! そうだな……負けた方が勝った方の言うことを一つ何でも聞くってのはどう? もちろんハンデはあげるからさ」
……その提案が本気なのか冗談なのかわからなくて、私はすぐに三浦先輩に言葉を返すことができなかった。




