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「あの……先輩、大丈夫ですか?」
そんな言葉と共に、見上げるようにして心配そうな顔を見せてくる優莉。
優莉に対する感情に気付いてしまったせいか、俺はその至近距離にある誘惑に視線を留めておくことなどできなかった。遮るものなど何もない、無防備すぎる甘く清らかな果実に。
今になってようやく気付いたけど、俺はなんて危険な状態に自らを追いやってしまったんだろう。全然意識してなかったけど、周りに他の客はいない状態。そして、ここにいるのは俺と優莉だけ。……必然的に、鼓動は否応なしに高まっていく。
でも、それと同時に俺はあることに関してだけは冷静に考えることができるようになっていた。
――こんな二人きりの状態を、いったい優莉はどう思っているんだろう。
ここに来てから、優莉は色んな表情を俺に見せてくれている。緊張した表情。不安そうな表情。困っているような表情。恥ずかしそうな表情。そして、嬉しそうな表情。
初めてのビリヤードに、緊張したり不安になったり困ったりしたんだろう。キューで球を打とうとしたのは良いものの、上手くいかなくて恥ずかしくなったんだろう。そして、ついさっき上手く一番の球をポケットに沈めることができて、嬉しかったんだろう。
……でも、それだけなんだろうか。俺が思ったことが、優莉の表情の全てなんだろうか。そう思い、違う観点で優莉の表情について解析してみる。
初めてのビリヤードに、緊張したり不安になったり困ったりしたという推測は、多分間違ってないだろう。けど、もしかしたら恥ずかしがっていたのは俺と二人きりだからなのかもしれない。そんな中でも、最後には嬉しそうな笑顔を俺に見せてくれた――。
何かどれも、俺の希望的観測になってる気がするな。でも、もし本当にそうだとしたら……って、それ以前に、そもそも優莉は俺のことをどう思っているんだろうか。
多分、『どこにでもいる普通の学校の先輩』のレベルは超えてるんじゃないかと思う。……そう思いたい。
ただ、結局は『お世話になってるから、失礼な態度をとるわけにはいかない先輩』っていう存在だということも……ありえるよな、優莉みたいな性格の人なら。
もしそうだとしたら、その状態から脱却するのは容易なことではない。出会ってからの短い期間で得た優莉のイメージからすると、おそらく一度『目上の人』という印象を持った相手には、ずっとそのスタンスを崩さずにいそうな気がする。
でも、多分……残念ながら、俺はそういう対象に思われていそうな気がするな。――と、そんなことを思っているときだった。
「――先輩! もぅ、聞こえてますか!!」
頬をプクッと膨らませて叫ぶ優莉。その姿に、俺は優莉のことが良くわからなくなってしまった。
――けど、そんな優莉の姿を見れたことに、怒られているにも関わらずこぼれる笑みを抑えることができなかった。




