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どうしよう。少しもドキドキが治まってくれない。……それどころか、意識すればするほどどんどんドキドキは高まっていく。
背中から感じる、高丘先輩の体温。キューを持つ腕に感じる、高丘先輩の手の触感。そして、耳のあたりに感じる、高丘先輩の息遣い。
そのどれもが、私のドキドキに拍車をかけていた。心の中で、高丘先輩という車両がいたるところで交通渋滞を引き起こしていた。
設置されている信号機は全て緑色になっていて、少しもその役割を果たしてはくれない。……このままじゃ、いつ交通事故が起こるかわかったもんじゃない。
「――よし、じゃあもう一回打ってみて。きっと今度は上手くいくよ」
高丘先輩が、何かを告げてくれている。……でも、私はその言葉をまともに認識することができない。
恥ずかしさにばかり意識が集中しちゃって、他のことはまともに伝わってこなかった。
――でも、放たれた言葉と同時に高丘先輩の身体が私から離れていくと、何だか大切なものを失ったような感覚が全身を巡っていく。……私の手にあった暖かな光が、どこか遠くに離れて行ってしまったかのような、喪失感を感じる。
どうしてそんなことを感じたのか。……それは、正直私にもよくわからない。ただ、明らかなのはその事実によって私の意識は少しずつ冷静さを取り戻していったということ。そして、何故かどこからともなく湧き出てきた切なさのようなものが、私の心に残ったということ――。
「――優莉?」
高丘先輩のそんな言葉で、ようやく私は意識を自分の中からビリヤード場に戻すことができた。そして、慌てて言葉を返す。
「す、すいません! えっと……このまま打てばいいんですよね?」
「あぁ。真っすぐ突き出すことを意識して打ってみて」
鼓動の高まりはいまだに衰えをみせないけど、とにかく今は打つことに集中しなきゃ。
「――えいっ!!」
思わず声に出てしまった気合いと共に、白い球は勢いよく一番の球に向かっていく。そして真っすぐにぶつかると、一番の球はその反動で目的地のポケットへと向かっていく。
「いけっ!」
高丘先輩が、転がる一番の球を見ながら叫ぶ。……すると、まるでその叫びに応えるかのように、一番の球はポケットに吸い込まれていった。
「は、入りました!」
何だかとっても嬉しくて、思わず持っていたキューを放して高丘先輩の手を握り、その場でピョンピョン跳ねちゃっていた。どうしてだろう……本当に、嬉しくて仕方がない。
私のとった行動が意外だったのか、高丘先輩はビックリして言葉が出ないといった様子を見せていた。
「……先輩?」
何だか不安になってそう呟くと、高丘先輩は慌てて穏やかな表情に切り替える。
「あ、ゴメンゴメン。上手くいったな! 打ち方バッチリだったよ」
「はいっ!!」
高丘先輩に褒められたのが嬉しくて、思わず笑みがこぼれちゃう。
――でも、そんな私の様子を見て、高丘先輩はまた言葉を失っていた。……いったいどうしたんだろう?




