15-2
「えっと……じゃあ、とりあえず簡単にやり方説明するよ」
「は、はい! ……お願いします」
あのカラオケボックスから歩いてだいたい五分くらいの場所にある、ちょっと年季を感じるビリヤード場。そこで私は、高丘先輩からビリヤードのルールについて教えてもらおうとしていた。
ビリヤード場には私たち以外のお客さんはいなくて、完全に貸し切り状態。静まり返った空間に、私たちの声だけが映える。
どうしても緊張しちゃう私と、そんな私に一生懸命説明しようとしてくれている高丘先輩。――今、この場にいるのは私たち"二人"だけなんだ。
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カラオケボックスの前で諸岡先輩の携帯電話に掛ってきたのは、先輩のお母さんからの電話だった。何でも急に先輩のお婆ちゃんが倒れちゃったみたいで、先輩のお母さんはお婆ちゃんのところに行くってことで家のことを頼まれたみたい。
意識はしっかりしてて命にかかわるようなことじゃないって諸岡先輩が言ってたからホッとしたけど、やっぱりどこか不安気な表情を見せながら諸岡先輩は「ゴメン、そういうことだから私も帰るよ」って行って私たちのもとから去って行った。
「……えっと……どうしようか?」
諸岡先輩がいなくなって、何だか微妙な表情を見せながら告げてくる高丘先輩。……そうだよね。私と高丘先輩だけになっちゃったんだもん。
でも、どうしようかって言われても……。やっぱり先輩は、私と一緒じゃ嫌なのかな? さすがに二人きりじゃ――。
――って、二人きり!? そ、そうだよ。二人きりになっちゃったんだ。ど、どうしよう……。
何だか勝手に頭が混乱しちゃってまともに話すことができずに口ごもっていると、高丘先輩は何を思ったのかそっと微笑んで告げてきた。
「――折角だし、ビリヤード場……行く?」
その言葉に、私は混乱した状態ながらも何とか返事しないとと思い、何とか首を縦に振って応じる。
このときの私には、そんな動作をするのが精いっぱいだった――。
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――そんなわけで、今こうしてビリヤード場に高丘先輩と二人きりの状態でいる。
高丘先輩から『ナインボール』っていうゲームのルールを教えてもらって、とりあえず試しにやってみることに。
「じゃあ、とりあえず最初は俺がブレイクショット打つよ」
高丘先輩のしなやかな手が、鋭くキューを操って白い球を打つ。――そして、花火みたいに綺麗にはじけ飛ぶ九つのカラフルな球。
ブレイクショットによって、その九つの球は綺麗にテーブル上で散ったけど、どれもポケットに落ちることはなかった。
「優莉の番だよ。……あの一番の球をポケットに落とすように自球を打つんだ」
運が良いのか高丘先輩がそうなるようにしてくれたのかどうかはわからないけど、一番の球とポケットと白い球はほとんど直線状に並んでいて、まっすぐに打てれば一番の球はポケットに吸い込まれてくれそう。
私は高丘先輩に教えてもらった通りにキューを構えて、狙いを定めて白い球を打――ったつもりだったけど、キューは見事に空振り。
「あ、あれ?」
うぅ……何だか恥ずかしい。
「はは、最初はそんなもんだよ。……ちょっともう一度構えてみて」
恥ずかしさを保ったまま、私は高丘先輩に言われるがままに構えなおす。すると――。
(――――えっ!?)
高丘先輩は私の背後に回って、覆いかぶさるように私の構えを調整しだしたの。……突然のことに、身体が硬直して動かない。
「もっと右手は後ろに下げた方がいいな。それに――」
高丘先輩はいたって真面目。素直に私にビリヤードのことを教えてくれようとしてる。
――でも、こんな心臓バクバクな状態じゃまともに説明聞けないよ。




