14-4
密室の空間には、絶えずテレビから新曲情報やオススメ曲のBGMが流れていた。今、そのBGMを邪魔する騒音はどこからも発生していない。
――諸岡先輩が放った言葉によって、密室の空間は緊迫した空気に包まれていた。
どうして諸岡先輩が『向こうの世界』という言葉を口にすることができるのか……。その疑問が、この緊迫した空気が生み出された理由。
私と高丘先輩が漏らした言葉に、諸岡先輩は訝しげな視線を高丘先輩に向ける。……何か得物を捉えた猛獣の視線みたい。
「やっぱり何か知ってるのね。……いったいどういうことなの?」
「いや、それは……」
追求の声に、明らかに焦っている様子の高丘先輩。そしてそんな状態の中、大河くんが何やら観念したように呟く。
「……ゴメン。姉ちゃんと一緒にこの本の中身見たときに……つい」
どうやら、諸岡先輩の口から『向こうの世界』という言葉が出たのは、大河くんが原因みたい。その様子に、小さくため息を吐いてうな垂れる高丘先輩。
こんなんじゃ、隠し通せそうに……ないよね?
同じように思っていたのか、高丘先輩は顔を上げると観念したように呟く。
「……仕方ないな。環、信じてもらえるかどうかはわからないけど、話せることは話すよ」
「うん、よろしい」
満面の笑みで頷く諸岡先輩に、大河くんは改めて「ゴメン」と呟いていた。
+ + + + +
「――えっと、つまりこの本の中の世界に入り込んじゃって、向こうの世界で寝てこっちの世界に戻ってくると、向こうの世界で起きたことが本に追記されていくってこと?」
「そういうこと。だから、俺の名前も出てくるし、優莉や大河の名前も出てくるんだ。環は向こうの世界に行かずに済んでるから、多分最初に読んだ人だけにその効果は適用されるみたいだな」
「そんな、まさか……」
「何なら、その本を見ないで向こうの世界で起こったことを言い連ねてやろうか? ……まぁ優莉や大河が体験したことは俺にはわからないけどな」
真剣な表情で話す高丘先輩に、諸岡先輩は本をパラパラとめくりながら首を横に振る。
「ううん、それはいいや。信じ難いけど、本当のことなんだよね……きっと」
「……あぁ」
「じゃあ、高丘くんは魔物を相手にしてて、大河は短剣の練習してて、水上さんなんてアイドルになろうとしてるのね」
「まぁ……その通りだな」
「ちょっと待って。ということは、この本を私に渡した怜也さんが……」
「あぁ。目的はサッパリわからないが、間違いなくアイツが元凶さ。俺にしても優莉にしても、アイツにこの文庫本を渡されたから向こうの世界に行くことになったんだからな。……もしかしたら、本当は大河じゃなくて環を向こうの世界に行かせようとしてたのかもしれない」
「そんな、どうして……」
高丘先輩の話を聞いて、諸岡先輩は落ち込んだ様子を見せる。……そうだよね。もし諸岡先輩が先にこの文庫本を読もうとしていたら、大河くんが向こうの世界に行くことはなかったんだもん。
きっと、大河くんに申し訳ないと思ってるから、こんなにも落ち込んだ表情を見せているんだ。
「あの……過ぎてしまったことは仕方ないです。だから、諸岡先輩が責任を感じることはないですよ……」
そう思ったからこそ、そんな言葉を諸岡先輩に掛けた私。――でも、
「――どうして先に読まなかったんだろ! 私が先に読んでれば、高丘くんのカッコイイ姿とか、水上さんの可愛い姿とか見れたのにっ!!」
本当に……本当に心底悔しそうに叫ぶ諸岡先輩。
その姿に、私も高丘先輩も大河くんも、揃って口をポカンとあけて呆けることしか出来なかった。




