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「あの……またですか?」
思わずそんなことを呟いてしまうほど、私はほとんど休むことなく連続して歌う羽目になっていた。私が一曲歌い終えるたびに、諸岡先輩が「この曲歌える?」って言ってきて、頷くとすぐさまその曲をセットしてしまうの。
そんな諸岡先輩のことを高丘先輩も大河くんも止めようとはしてくれない。喜んでくれるのは嬉しいけど、さすがにこうも連続して歌わされると喉も気持ちも疲れてきちゃう。
それでも何とかまた一曲歌い終えると、諸岡先輩もさすがに新たな曲を要求してくることなく、ようやく少し落ち着ける時間が生まれる――かと思ったら、諸岡先輩は何やらバッグの中を漁りながら話し出した。
「……さて、とりあえず場も暖まってきたことだし、そろそろ本題といきましょうか」
諸岡先輩……『暖まってきた』どころか、もう暑くてしかたないですよ……。
そんなことを思いつつも、諸岡先輩が口にした『本題』という言葉に、若干の緊張が生まれる。ふと周囲を見回すと、高丘先輩も同じように緊張の面持ちをしていて、大河くんなんか軽く頭を抱えちゃってる。大河くん……どうしたんだろ?
諸岡先輩は、目当てのものを見つけたのかバッグを漁るのを止めて、テーブルの上に何かを置いた。みんなの視線が、そのテーブルに置かれたものに集中する。
――それは、あの表紙がまっさらな文庫本だった。
若干だった緊張が、一気に高まる。思わず、諸岡先輩の顔を凝視してしまう。
諸岡先輩はテーブルの上に置かれた文庫本をパラパラとめくりながら、みんなの顔を一瞥しつつ呟く。
「これ見てビックリしたんだけど……何なのこれ? どうして、大河の名前が……それに、高丘君と水上さんの名前まで出てくるの?」
「……環、それ見て何ともなかったのか?」
諸岡先輩の言葉に、驚きの表情で返す高丘先輩。多分高丘先輩は、この文庫本を読もうとしたのなら向こうの世界に行くことになってしまったんじゃないかということが気にかかっているんだと思う。
でも諸岡先輩は「……何のこと?」と言って疑問の表情を浮かべている。少なくとも、諸岡先輩が向こうの世界に行ったということはなさそう。
けど、どうして諸岡先輩は向こうの世界に行かずに済んだんだろう。この文庫本は……多分大河くんが読もうとしたものだよね。
もしかして、最初に読もうとした人しか向こうの世界に行くことはないのかな? ということは、私と高丘先輩は、それぞれ別の文庫本を読もうとしたってこと? あの文庫本は――複数あるってこと?
自然と高丘先輩に視線を向けながらそんなことを考えていると、高丘先輩も何やら考えている様子。そんな私達の表情に何やら確信したのか、諸岡先輩は鋭い眼差しで私達を動揺させてくる。
「――それに、『向こうの世界』って……いったい何?」
『えっ!?』
諸岡先輩が放った言葉に、私と高丘先輩は思わず揃ってそんな言葉を漏らしてしまっていた。




