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カラオケボックスだなんて、それこそ数えるほどしか行ったことがなかった。それも、親戚が集まったときに数回行っただけ。友達と行ったことなんて、一度も無い。
そんな私が、今カラオケボックスの中でマイクを持ち、周りに友達がいる状態で歌を歌おうとしている。諸岡先輩から、半ば強制的にマイクを手渡された結果がこれだ。
マイクを手渡されてすぐ、諸岡先輩から「水上さんってどんなの歌うの?」って聞かれたから、私は「普段カラオケにはあまり行かないので……」と答えたんだけど、それを聞いたら今度は曲のリストも表示されるリモコンを差し出してきて「じゃあ普段聞く曲入れてよ!」って言ってきて、結局私は断ることも出来ずに何とか歌えそうな曲を選んでしまうことに。
密室の空間に流れ始める、私が選曲した曲のイントロ。何だかマイクを持つ手が震えているような気がする。
……周りの視線が気になって仕方が無い。どうしようもない恥ずかしさがこみ上げてくる。
諸岡先輩が言っていた『聞きたいこと』の話は、いったいどこに行ってしまったんだろう。――なんて、違うことを考えて何とかこの恥ずかしさを解きほぐそうと試みるけど、どうやら全く効果はないみたい。
無情にも、イントロ部分は終わりを告げようとしていた。こうなったら、凄く恥ずかしいけど歌うしかない……よね。
――覚悟を決めて、私は大きく息を吸い込んだ。
+ + + + +
――静まり返った空間に、私はどうしようもない焦りを覚えていた。
私が何とか歌い終えると、辺りはシーンと静まり返ってしまっていた。高丘先輩も、諸岡先輩も、大河くんも、揃って呆然と私の姿を眺めている。
……どうしよう。私、何かまずいことしちゃったのかな? もしかして、この曲は歌ったらいけない曲だったの?
膨らむ焦りは、次第に不安に変わっていき、それが恐怖へと繋がっていく。……これまで築き上げてきた関係が、一瞬で砕け散ってしまうかもしれない。
そんな恐怖が、自然と私の脳裏に浮かんでくる。
思わずマイクを握ったままうつむいてしまう。――けど、
「――水上さん凄い! 何でそんなに歌上手いのっ!?」
「……えっ?」
諸岡先輩が放った言葉は、私が少しも想像していなかった言葉だった。私が……歌うのが上手い?
「本当……びっくりした。優莉、凄い綺麗な声で歌うんだね」
「こんなに上手いんだったら、塾のときに誘えばよかった。何か歌う優莉ってイメージになかったからなぁ」
掛けられる賞賛の声に、どうしていいのかわからなくなった私は、マイクをテーブルの上に置いて両手で顔を隠す。
――こうしてないと、この恥ずかしさが絶えず生まれ続けてしまうような気がしたから。




