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「あの、高丘……先輩。――ココはいったいどこなんですか? 先輩も、何だか物語の世界に出てくるような格好ですし……」
高丘先輩との初めての会話による胸の鼓動がある程度落ち着いてきた頃、私はそんな言葉を先輩に投げかけていた。
今は、大きな木に隣同士で寄り掛かっている状態。横を少し見上げれば、高丘先輩のちょっと下からの表情を窺うことができる。
高丘先輩は私の質問に、その表情を真剣なものに変えていた。そして、スッとこちらを見据えながら語りかけてくる。
「その前に、ちょっと優莉に聞きたいことがあるんだけど……。優莉さぁ、もしかして『May's』に行った?」
「えっ? あの……『読書カフェ』のことですか? それだったら、行きましたけど……」
言いながら、高丘先輩の口から出てきた『May's』という単語に、やっぱり高丘先輩は私の知ってる世界の人なんだと確信する。
そして私の答えに、その高丘先輩は小さく息を吐きつつ呟く。
「やっぱり……。そこで変な男に会っただろ?」
「あの……変かどうかはわからないですけど、お店の店長さんみたいな人には会いましたよ? コーヒーと文庫本を出してくれて……。良い人そうでしたけど。コーヒーも『試作品だから』ってタダでいただきましたし」
それは素直な気持ちから出た言葉だった。本当にあの男性は見た目も良い人そうだったし、何よりあの男性に対して、私は恐怖を感じることがなかった。
その事実だけで、私にとっては十分『良い人』だと思える。
でも、高丘先輩は私の言葉に、顔を少し歪めて諭すように語る。
「まぁ、確かに見た目は良い人そうかもしれないけど、あいつに渡された文庫本……読んだ記憶ある?」
「いえ……読もうとしたところまでの記憶はあるんですけど、その後の記憶は……」
「だろうな。それで、気がついたらココにいたってことだろ?」
「はい、そうです……」
高丘先輩の話を聞きながら、あの時のことを思い起こしてみる。
あのコーヒーの心地よい香りに、表紙に何も記されていない文庫本。美味しいコーヒーによるまどろみの中、めくった文庫本の一頁。
……やっぱり、どうしてもその先のことは出てこない。
結局無駄に終わりそうな想起に集中している中、高丘先輩は私の意識を再び強く先輩に向ける言葉を放つ。
「――優莉がココに来たのは、その文庫本のせいなんだよ。俺も、その文庫本の被害者ってわけ。原理はわからないけど、あの文庫本のページをめくったから、優莉は今ココにいるんだ」
その言葉に、驚きよりもどこか納得している自分がいた。
――高丘先輩も、私と同じなんだと。