12-3
優莉を部屋に送り届けてから、俺は大河の様子を確認すべく砦の外に足を運んでいた。砦を出てすぐ左に曲がり、外壁に沿って裏側へと周る。
砦の者が稽古をする場所は自ずと限られてくる。その対象が素人の大河であれば、ほぼ確実にその場所は砦の裏側だろう。
すると案の定、そこには長剣を持つディックさんと短剣を持つ大河の姿が。
大河は短剣を無我夢中に操りながら、ディックさんに迫っていた。けどその動きは、素人に毛が生えた程度の俺から見てもとても褒められたものではない。
でも俺は、そんな大河の姿に驚いていた。……あの大河が、こんなにも真剣な表情をしているだなんて。
大河がこんなにも真剣な表情を見せる姿を、多分俺は今まで一度も見たことが無い。まぁ、大河のことを熟知できるほど毎日のように会っていたわけじゃないけど、それにしてもそれなりには会っていたはず。何せ、大河は俺の中学校の後輩なんだから。
大河がこれほどまでに真剣な表情を見せている、その理由はわからない。……けど、それが良い方向に向かう要因になりえるのは確かだろう。
「よし、とりあえずここらで一旦休憩だ」
そんなことを思っているうちに、ディックさんがそう言って大河を休ませていた。大河はまるでマリオネットの糸が切れたかのようにその場にへたり込む。
俺がゆっくりと近づいていくと、俺に気付いたディックさんが手を挙げて駆け寄ってくる。
「よぉリント。ユーリちゃんに手ぇ出してないだろうな?」
「そんなことするわけないじゃないですか。……それより、大河はどうですか?」
俺がそう尋ねると、ディックさんはサッと指差しつつ砦の外壁に寄りかかる。小さく頷き俺も寄りかかると、ディックさんは外壁に長剣を立て掛けつつ答えだした。
「まぁ、素人だから当然っちゃあ当然だが、動きはまだまだだな」
「……そうでしょうね」
「だが、少し手合わせしてみて良くわかった。――アイツは間違いなく短剣を扱う素質を持ってるよ」
「そう……なんですか?」
「あぁ、間違いないな。……リントがいつから見てたかは知らないが、アイツの動きメチャクチャだっただろ」
「えぇ、そうですね。俺から見ても、ただひたすらにちょこまか動いて短剣を振り回しているようにしか……」
「確かにそうだ。……だが、アイツはその『ひたすらにちょこまか動いて短剣を振り回す動作』を三十分は続けてたぞ」
「えっ!?」
「アイツのあの小回りの利く動きと持久力は、間違いなく短剣向きだよ。正直アイツの体格を見たときは不安だったが、中々育てるのが楽しみになってきたぜ」
ディックさんのやけに楽しそうな表情。……それは、その言葉がディックさんの本心であるということを伝えてくれる。
そのことに安堵していると、突然ディックさんが口笛を吹く。ディックさんの視線は、話題の大河に向けられていた。
――ディックさんと軽く会話をしていた短い間に、大河はまだ軽く肩で息はしているものの、立ち上がって短剣を構えていたんだ。
「――なっ、なかなかの逸材っぽいだろ?」
そんな大河の姿と嬉しそうに笑うディックさんに、俺は頬が緩むのを抑えることが出来なかった。




