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基本的な短剣の構え方を教えてもらってからすぐ、ディックは一振りの長剣を手にとりつつ僕に一つの要求をしていた。
「いいかタイガ、何事も基本が大切だ。ダガーに関しては、『斬る』んじゃなくて『突く』ことを意識しろ。さっきも言ったが、ダガーは突き刺すことを前提に作られた武器だ。長剣のように振り下ろしたところで、大した効果は得られない。――タイガ、とりあえず思うように俺に攻撃してみろ」
「えっ? い、いいのかよ?」
僕の手にあるのは、間違いなく鋭利な刃物。けして木製なんかじゃない。そんなもので『攻撃してみろ』だなんて、下手したらケガどころじゃ済まされないじゃないか。
そう思ったから確認の意味も込めて聞き返したんだけど、ディックは余裕綽々といった表情で僕に長剣の切っ先を向ける。
「見くびるなよ。素人の攻撃なんか、まともに食らったりはしないさ。それこそタイガの攻撃なんか食らうようだったら、俺から望んでこの砦から出てってやるよ」
……何だか、例え事実だったとしても、物凄く腹が立つ言い方。自然と怒りがこみ上げてきた僕は、お望みどおりディックにダガーを向ける。
「このっ、下手に出てりゃ好き勝手言いやがって!!」
僕が叫びながら突っ込んでダガーを突き出すと、ディックはそれを軽々と長剣でさばきながら相変わらずの余裕の表情で僕に解説を続ける。
「――見てわかるとおり、ダガーはリーチも短い。だから、素早い動きで敵の懐に入り込む動きが必要不可欠になる。だが、ただ闇雲に突っ込んだりしたら、それこそ自殺行為だ。……今だって最初の一撃をかわされた時点で、タイガの人生は終わってたぞ」
「こいつっ!」
「いいか、効率よく敵の懐に入り込むんだ! 何のためにマインゴーシュを持ってる? マインゴーシュで敵の攻撃を受けつつ、素早く懐に入り込む。それが出来なきゃダガーで敵を突き刺すことなんて出来やしないぞ!!」
「こんのぉ!!」
ディックが言ってることを、頭では理解している……つもりだ。でも、身体が思うように反応してくれない。
僕はひたすらディックにダガーを向けていたけど、一向にディックの表情を崩すことが出来ない。ただ焦りと疲労だけが、じわじわと僕を蝕んでいく。
「ほらどうした! そんなんじゃ、アレン様を納得させることなんて到底出来ないぞ!!」
言いながら、ディックは長剣を思いきり振り上げて――僕のダガーは納まる場所を失って宙に舞った。
地面に突き刺さるダガーを、僕は方で息をしながら呆然と見やることしか出来ない。
見せ付けられた、実力の差。明らかにされる、自分の無力さ。
――憤りの矛先が、ディックから僕に確実に移った。……自分の無力さに、物凄く腹が立った。
こんなんで、僕はアレン様を納得させることが出来るんだろうか。僕はただ、倫人と優莉に守られることしか出来ないんだろうか。
僕が優莉を守ることは……出来ないんだろうか。
「どうした? さっきまでの威勢の良さはどこいったんだよ?」
「……なぁ」
「ん?」
言葉は自然と……漏れていた。
「――お願いします。僕を……僕を、強くしてください。倫人と優莉に守られるんじゃなくて、僕が守れるように!」




