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「な、なんで高校のこと……」
隆総――それは、私が通う『私立隆山総合高等学校』の略称。
このリントという人は、その名を知っているのだ。こんな見たこともない場所の、現実離れした格好をした人が。
しかも、リントは私の制服を見ただけで隆総の名を挙げた。それも一年だということまで含めて。
一体彼は……何者?
「やっと、少しは俺の話を聞く気になってくれたみたいだな」
「……………」
リントは私が動く気配を見せないことを察したのか、掴んでいた手を離してそっと表情を緩める。
そして、崩れ落ちている私と視線を合わせるため、その場に屈んで話しだす。
「いきなり追っかけるようなことして悪かったな。俺はリント。――高丘倫人だ。俺も隆総の生徒なんだ。……二年だけどな」
「隆総の生徒……なんですか?」
「あぁ。……ま、こんな格好じゃ信じてもらえないかもしれないけど、本当だから」
リント――高丘先輩が言っていることが真実なのかどうか……それは、まだどこにも証拠がないからわからない。
でも、少なくとも高丘先輩が『隆総』という言葉を知っていて、私がその隆総の一年だということを言い当てたのは確か。
……だから、私は高丘先輩が言っていることを信じることにした。
そもそも、この場所がどこなのかもサッパリわからず、特に頼れる人がいない今、信じる以外の道はないような気がする。
「わかりました。とりあえず、信じ……ます」
私がそう言うと、高丘先輩はホッとした表情で天を仰ぐ。そして、安堵の笑みを浮かべながら語りかけてくる。
「そっか、良かった~。君……えっと、名前は?」
「あ、はい。――水上優莉です」
「そっか……」
そして高丘先輩は、今度はさっきまでとは違って優しく包むように私の手を触れて囁く。
「それじゃあ改めて。はじめまして――優莉」
その言葉に、私はただ黙って高丘先輩の顔を見ていることしかできなかった。
『はじめまして――優莉』……だって。
高校に入って、初めて昔からの知り合い以外の人に『優莉』って呼ばれた。
名字じゃなくて、名前で……呼んでもらった。
「あ、あれ? ……何かマズいこと言ったかな?」
高丘先輩は私が黙って何も話さないでいるのを見て誤解したのか、慌てた様子でそんな言葉を投げかけてくる。
その不安そうな様子に、私はついつい表情をほころばせてしまっていた……と思う。だって……。
「ふふ、うふふ……」
「な、何だよ急に笑ったりして。突然黙ったり笑ったり……変な奴だな優莉は」
――だって、こんな風に笑い声を出すの、本当に久しぶりだったから。