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「……この怪しい子、ユーリちゃんの知り合いなの?」
優莉の叫び声を聞いたショートカットの女の人――ステラって人は、訝しげに僕を見ながら呟いていた。その呟きに、優莉は慌ててステラの方を向いてブンブン首を縦に振る。
「はい! 私の友達です!! だから、けして怪しい人なんかじゃないです」
「そう……でも、いくらユーリちゃんの友達だったとしても、手続き無しに砦に侵入されたのは問題だわ。そう簡単に侵入出来るはずないのに……いったいどうやって入りこんで来たのかしら?」
ベッドに座ってる状態の僕を鋭い視線で見下ろすステラ。……その肌を突き刺すような威圧感に、思わず生唾を飲み込む。
ホント、いったい何なんだよ今のこの状態は!? こんなリアルな感覚、絶対夢なんかじゃないって!!
でも、こんなの現実なわけないし……あぁもぅ! わけわかんねぇ!!
自然と滲み出る冷や汗を拭うことなく、ただただ沈黙を貫くことしか出来ない。そうしているうちにステラは、そんな僕の目の前まで来ていた。そして、素早く僕の手を掴んで話す。
「――とにかく、ユーリちゃんには悪いけど、君にはしかるべき処置を受けてもらうわ」
でも、そんなステラの言葉に、優莉が身を乗り出して僕の身体を背後から包んでいた。……あまりのことに、一瞬何が起きたのかわからなくなる。
「待ってください! 大河くんは、本当に怪しい人なんかじゃないんです! 私にとって、大河くんは本当に大切な……大切な友達なんです!!」
その優莉の悲痛さすら感じる叫びに、ステラは数瞬の間硬直して動けずにいた。そしてそれは、僕も同じなわけで。
「優莉……」
ただそんな言葉だけが、僕が確かに感じている感情と共に溢れて漏れる。
「お願いステラさん……大河くんを連れてかないで……」
優莉の一瞬で空気に侵食されそうな声に、ステラは困ったような表情を見せながら小さくため息を吐く。僕の手を掴む力は変わらないけど、明らかに伝わる威圧感は緩んでいる。
「ユーリちゃん……ユーリちゃんがこの子のことを守りたい気持ちはよくわかったわ。……でもね、やっぱりこればっかりは黙って見過ごすわけにはいかないのよ」
「そんな……」
「ユーリちゃんのことを信用してないわけじゃないわ。……でも、簡単に砦に侵入されたとあっては、このマーブック地方に住む人たちの信頼を裏切る結果になってしまう。辺境と言われているマーブック地方で魔物に怯えている人たちにとって、私達は文字通り最後の砦のようなものなんだから」
ステラの言葉に、優莉は僕を抱いたまま嗚咽を漏らしていた。他の誰でもなく……僕のために。
何がなんだかわからないのは相変わらず。今のこの状態が夢なのか夢じゃないのかもわからない。
……でも、僕のせいで優莉が悲しんでいるのは確か。
僕は確かに家で優莉のことを思い起こしていた。……刺激が欲しいと思ったし、優莉に会いたいと思った。
でも、優莉を悲しませたいなんてこと、微塵も思っていない。優莉を悲しませるために、会いたいって思ったわけじゃない。そんなわけ……ない!
「――わかりました。あなたの言うとおりにします。……でも、これだけはわかってください! 僕はけしてあなた方に危害を加えるつもりなんてありません。それと、優莉は何も悪くない! だから……優莉のことは責めないでください」
「……わかったわ。それに、ユーリちゃんを責める気はないわ」
ステラの言葉を確かに聞き取ると、僕は身体を包む優莉の手を解いて立ち上がる。そして、ステラに手を引かれてゆっくりと歩き出す。
「大河くんっ!!」
「優莉……何がなんだかサッパリわからないけど、久しぶりに優莉に会えて嬉しかった。……ありがと」
――振り返ることなく告げた言葉に、ステラと僕がこの部屋から出るまで嗚咽の返事が止むことはなかった。




