10-3
今日の姉ちゃんはやけに嬉しそうだった。何か良いことでもあったんだろうかと、僕は目の前で夕食をつついている姉ちゃんに聞いてみる。
すると、姉ちゃんは顔の筋肉がつるんじゃないかってくらいに口角を持ち上げてニマッとした笑みを見せる。そして、ダイニングテーブルから離れたかと思ったら、僕の前に一つの紙袋を差し出した。
「今日お気に入りのお店の店長さんから、これもらっちゃったんだぁ! 中身はまだ見てないんだけど……」
言いながら、姉ちゃんは紙袋を開ける。するとそこには、ビニールとピンクのリボンで包装されたクッキーとチョコレート……そして、一冊の文庫本が。
その文庫本は、何故だか表紙がまっさらだった。気になって、姉ちゃんの許可を取ってからその文庫本を手に取る。
表紙だけでなく、背表紙もまっさら。……これじゃあ、何の本だかさっぱりわからないじゃないか。
「姉ちゃんこれ……何の本?」
「私にもわからないわよ。袋の中身のこと、何も教えてくれなかったし。……あっ、このクッキー凄く美味しい」
「ねぇ……この本、ちょっと借りても良い?」
「えっ? う~ん……まぁいいけど、ちゃんと読み終わったら返してよね。……あっ、このチョコレートも美味しい」
「わかってるって! ……ご馳走様。それじゃあ、借りてくからね」
話しながらも夕食を食べ終えた僕は、そう言って姉ちゃんがもらってきた文庫本を持って自室へと向かう。……何だか凄く気になったんだ。この、表紙がまっさらな文庫本の中身が。
明らかに、どこにでもあるような普通の本ではない。表紙がまっさらな本なんて、聞いたことないし。
そんな本だからこそ、もしかしたらこの本が、僕を退屈な日々から脱却させてくれるんじゃないかって、そう思ったんだ。
階段を一段一段上っていくたびに、この本に対する期待がどんどん増してくる。もしかしたら、全然どうでもいいような内容なのかもしれないけど……でも、僕は自分の直感を信じたい。
自室に入ると、僕はすぐさまベッドに倒れこむ。視線を、壁に掛けられた時計に向ける。――午後九時五分。
そして同じく壁に掛けられたカレンダーを見て『明日は土曜日か』なんてことを確認。ベッドに横たわったときの、僕のいつもの行動パターンだ。
そのいつもの行動パターンを一通り終えると、僕はいよいよ姉ちゃんから借りた文庫本に目を向ける。やっぱり、どこからどう見てもまっさらな表紙。
「どんな内容なんだろう……」
思わず呟きながら、僕はその文庫本の一頁目をゆっくりと開く。そして、一頁一行目の文字を読み取る――ことなく、僕の瞳は何か物凄い力によって強制的に閉じられる。
――意識が遠のいていく中、壁掛け時計の秒針が動く音だけが僕の耳にこの場所の残滓を必死に届けようとしていた。




