10-1
今日も相変わらず退屈な一日だった。学校で無難に勉強をこなして、テキトーに友達と駄弁って、全くもってどうでもいい遊びの約束をして帰宅。
当たり障りのない一日。何の刺激もない、毎日。
『今年は高校受験の年なんだから、しっかり勉強しないとダメよ!』なんて母さんは言うけど、別に僕は難関学校に進学する気なんて毛頭ないし、そこそこな高校ならわざわざ頑張らなくたって進学できる自信がある。勉強に時間を費やす方がもったいない。
いつから、こんなに毎日がつまらなく感じるようになったんだろう。……そう、思えば二年の頃はそれなりに刺激のある毎日を過ごしていたような気がする。
塾に通うようになって、別の中学の友達も出来て。……そして、アイツと出会って。
『アイツ』は僕よりも一つ年上の女だった。つまり、今はどこかで高校生をしていることになる。
何だかいつも落ち込んでいるような表情をしていて、何かこう、常に近寄り難いオーラを出しているようなヤツだった。
多分、僕が偶然塾の前で『アイツ』の落し物を拾っていなかったら、絶対に『アイツ』と知り合いになることなんてなかったと思う。
……そうだったよな。これが、『アイツ』と知り合ったキッカケだったんだ。刺激を『受ける』んじゃなくて、自ら刺激を『発生』させる要因となった、『アイツ』と出会ったキッカケは。
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あの時、僕は落し物――ペンケースとにらめっこしながら、どうしたものかと悩んでいた。塾の目の前に落ちてたから、まず間違いなく塾に通っている人が落としたものだとは思うけど、わざわざ塾の先生に話してムダに時間を浪費するのは気が進まない。
そう思ったから、僕はその落し物をもとあった場所に戻してそのまま塾に入ろうと思ったんだ。
――でも、そのとき塾の中から女が慌てた様子で出てきて。……それが、『アイツ』だった。
『アイツ』は僕の手にあるペンケースを見ると、何ともバツが悪そうに話しかけてきた。
「あの……それ、私のなんです。拾ってくれたんですか?」
「あぁ、うん。ココに落ちてたから。……ほら」
僕がペンケースを差し出すと、『アイツ』は心底ホッとした様子でそれを受け取った。正直、何だかオドオドしてて変なヤツだなぁと、そのときは思ったっけ。
「あ、ありがとうございます。本当に、助かりました。……あの、塾に通ってる方ですか?」
でも、そんなことを言いながら『アイツ』が見せた微笑に、僕は自分の中で何かが蠢いているのを感じた。それが何なのかを尋ねられたって、僕にはサッパリわからないけど。けど、確かに感じたんだ。
今思えばその事実が原因なんだろうな。――僕の中で、『アイツ』に自分のことを知ってもらいたいという感情が生まれていた。
「そうだよ。――隆山東中二年、諸岡大河。ちょっと前に塾通いをスタートさせたばっか」
「えっ、あ、ご丁寧にどうも」
僕の自己紹介に、『アイツ』はマンガみたいに手をバタバタさせて驚いていた。でも少しして落ち着くと、胸に手を当て小さく息を吐いて話しだす。
「……二年生なんですね。――私は水上優莉。隆山西中の三年生です」
それが、僕が『アイツ』――水上優莉の名前を知った瞬間だった。




