9-8
May'sの前での会話も一段落し、ようやく隆山駅へと向かって歩き出した俺たち。でも、その俺たちの歩みはすぐさま止まることに。
「――環さん、忘れ物ですよ!」
そんな言葉を叫びながら、怜也が俺たちの前に再び現れたんだ。
怜也が上げた手には、何やら手帳のようなものが。おそらく、それが怜也の言う『環の忘れ物』なんだろう。
環はその手帳のようなものを手渡されると、驚きながら自分のカバンの中身を確認しだした。そして、一通りカバンの中を確認し終えると、焦った様子で怜也に謝りだす。
「す、すいません! おっかしいなぁ……出したつもりはなかったんですけど……」
「ふふ、だいぶお話も盛り上がりましたしね。多分カバンの中から出したことが頭から抜けちゃったんでしょう」
「そうかもしれないですね。でも、よく私のだってわかりましたね?」
「あぁ、その……ごめんなさい。悪いとは思ったんですけど、ちょっと中身を見せてもらっちゃいまして」
怜也がそう言うと、環は急に怒りの表情を見せる。その表情の変化に、流石の怜也も驚きを隠せないでいるようだ。
「えっ!? ……そんな、ヒドいです。女の子の秘密を覗き見るだなんて!!」
「本当にごめんなさい。でも、環さんが座ってた席のところにあったから、忘れ物だったら早く届けないとと思いまして。それでつい環さんの物かどうか確認を……」
心底申し訳なさそうに見える表情で呟く怜也に、環は再び表情を一変させた。今度は、随分と穏やかな微笑が前面に出ている。
「ふふ、冗談ですよっ! ホント、わざわざ届けてくれてありがとうございます」
「……はぁ、環さんも人が悪い。本当に焦っちゃいましたよ。でも、理由はどうであれやっぱり勝手に中身を見るのは悪いことですよね。えっと、そのお詫び……ってだけじゃないですけど、これ良かったら持って帰ってください」
そう言うと、怜也は小さめの紙袋を環に差し出す。中に何が入っているかはわからないけど、少なくともこの袋の小ささから入るものは限られてくるだろう。
環は手を左右に振って『もらえません』の意思表示をするけど、何を思ったのか、怜也の顔をまじまじと見ると、手の動きを止めて紙袋を受け取る。
「これ、何が入ってるんですか?」
「そんな大した物じゃないですけど、一応『見てからのお楽しみ』ってことにしておいてくれませんか?」
そっと微笑む怜也に、環はそれ以上言葉を返すことはなかった。手に取った紙袋を一瞥した後、了解の笑みを返す。
「それじゃあ、皆さん気をつけて帰ってくださいね!」
そう言って、怜也はMay'sへと戻っていく。
――異世界の残滓は、環の腕にしっかりと包まれている。




