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外に出ると、勢いよく茜色が俺たちの身体を包み込んだ。空気が一気に入れ替わり、まるで今まで全くの別世界にいたかのような錯覚を覚える。
……いや、錯覚なんかではなく、ある意味この『読書カフェMay's』は異世界だ。怜也によって作り上げられた、現実世界と向こうの世界――アステルとを繋ぐ、第三の世界。
そんな異世界に入り込んでおいて、こうして無事に現実世界に出ることが出来たことにホッとする。……本当に、何事もなく済んでよかった。
「いやぁ、スイーツ美味しかったね! 怜也さんとも仲良くなれたし、もぅ今日は最高の日だわっ!!」
俺の気持ちを知ってか知らずか、環はそんなことを言いながらグッと腕を天に向けて伸びをしている。その言葉の内容は真実なんだろう。環はこれでもかというくらいの満面の笑みを見せている。
そんな環に呼応するように、優莉も自然な笑みを浮かべて話しだす。
「本当に美味しかったですね。……私、あんなに美味しいの食べたの初めてかもしれないです」
「うんうん、しかもおごってもらっちゃったしね。これはもう、絶対にまた行かなきゃ!」
「……あのなぁ、そもそもスイーツ食べるのが目的じゃなかっただろ?」
スイーツと怜也のことしか頭になさそうな環に、ついついそんな言葉を投げかける。いや……まぁ、美味しかったのは認めるけど、それが目的ではなかったはずだ。
俺の言葉を聞くと、環はちょっと舌を出しておどけた様子を見せつつも、すぐに優莉に向かって語りかける。
「わかってますって。……水上さん、お店の中でも言ったけど、本当に困ったことがあったら何でも言ってね。それが直接的な解決になるかはわからないけど、それでも誰かに話すだけでだいぶ気持ちは変わってくると思う」
「はい……すいません、何か心配ばかりさせてしまって」
環の言葉に、優莉はそっとうつむいてそんな言葉を呟いていた。……でも、そんな優莉に対して、環は少し怒ったような表情を見せる。
「……あのね、水上さん。私は水上さんのことを友達だと思ってるの。友達のことを心配するのは当然でしょ? ――だから、そんな『すいません』なんて言うくらいなら、『ありがとう』って言ってくれた方が、私は嬉しいなぁ」
その言葉に、キョトンとして返答することが出来ずにいる優莉。でも、次第に表情に光が差し込んできて……。
「はい! えっと……ありがとうございます、諸岡先輩! それに、高丘先輩も!!」
突然視線を向けられて驚いたし、結局俺は何も出来てなかったと思うけど、それでも優莉がこうして笑みを向けて感謝の気持ちを伝えてくれたことは、本当に嬉しかった。嬉しかったからなのかはわからないけど、何だか身体の中を何かが駆け巡っているような感を覚える。
何かソワソワするような……でも、けして嫌な気分ではない。むしろ、心地よい。
――茜色に染まる優莉の姿が、しっかりと心のフィルムに焼きついた。




