9-6
――結局のところ、優莉は怜也のことをどう思っているのだろうか?
俺は今の現状を見て、そういう疑問を覚えずにはいられなかった。
俺と同じく、優莉は怜也にはめられて向こうの世界に行くことになってしまった。その事実に間違いはないし、優莉自身だって向こうの世界に行くことになった原因が怜也にあることは認識しているはずだ。
それなのに、優莉は怜也に対して嫌悪感を見せることがない。俺なんて、もうここに来る前から嫌で仕方がなかったというのに。
それどころか、優莉は今、怜也と談笑している。けして、無理やり笑っているようには見えない。
もちろん、いくら考えたところで優莉が思っていることを俺が理解することは出来ない。そこに何か真意があるのか、それを探ることなんて、出来るわけがないんだ。
優莉と怜也、そして環が三人で談笑している中、俺は一人バナナチョコプレートを食べ続ける。何か、それくらいしかすることがない状態。
散々文句を言い続けたにもかかわらず、結局食べることになったバナナチョコプレートがめちゃくちゃ美味しくて、何だかもう……完敗だ。
それからだいたい一時間程度の時を過ごした頃、ようやく三人の話が落ち着くようになった。ふと窓外を眺めると、空が茜色に染まっている。
「……いい加減そろそろお開きにしよう。あまり遅くなるのは良くないだろ?」
ここぞとばかりに、俺は環と優莉に向かってそう切り出した。正直、少しでも早くこの場所から退散したい。
でも、そんな俺の言葉に反応したのは、環でも優莉でもなく怜也だった。
「そうですね。あまり遅くなっては家の方が心配するでしょう。……それこそ、こんな可愛いお嬢さん方なら尚更ね」
……ったくコイツは。よくもまぁそんな言葉を恥ずかしげもなく言えるもんだ。
怜也の言葉の質はともかく、家の人が心配するかもしれないのは確か。俺は怜也の言葉に合わせてスッと立ち上がる。
すると、それに合わせて環と優莉も立ち上がった。……何だか環は随分と名残惜しそうだけど。
出入り口へと進みながら、俺はスラックスのポケットから財布を取り出す。チラッと環の方を一瞥するけど、環はニカッと笑みを返してくるだけ。
……はいはい、おごりますよ。
小さくため息を吐きながらお札を数枚出そうとすると、その動きを止める手が差し伸べられる。……怜也だった。
「今日はお代はいりませんよ」
「……いくらなんでも、そんなわけにはいかねぇよ」
「まぁまぁ、今日は私も楽しませてもらいましたからね。私からのおごりってことで。……たまには良いでしょ?」
そう言って、混じり気のない微笑みを見せる怜也。……そのあまりにも整った微笑が、俺には何だか怖く感じる。
数瞬の思考。……そして俺は、千円札一枚を怜也に手渡して言った。
「じゃあ、環と優莉の分はおごってもらう。……これ、俺の分な」
そのまま、有無を言わさず出入り口へと向かっていく。
――今の俺に出来る、本当に些細な抵抗だった。




