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「貴女はこの前も来てくれましたよね? 倫人くんと優莉さんのお友達だったんですね」
「はい、高丘くんとは小学生の頃からずっと友達なんです! っていうか、覚えててくれたんですか!?」
「ふふ、もちろんですよ。こんなに可愛い子を忘れるわけないじゃないですか。……あっ、『可愛い』なんて言ってしまっては失礼ですかね? ちゃんと大人の女性の魅力も感じますよ」
「えっ? そ、そんなことないですよぉ。……もぅ、お上手なんですから」
「あれ、お世辞なんかじゃないですよ? ――私は谷川怜也っていいます。……もし良かったら、貴女のお名前を教えていただけませんか?」
「は、はい! 諸岡環ですっ!!」
「環さんですか。これからも倫人くんと優莉さんと仲良くしてやってくださいね。……それと、もし良かったら私とも仲良くしてくれると嬉しいな」
……目の前で、『何なんだよこの変に身体がむずがゆくなってくるような雰囲気は』って感じの話が怜也と環によって展開されていた。怜也は相変わらずの微笑みを浮かべたまま少しも恥ずかしぶることなくそんな言葉を投げかけ、環は今まで見たことのないようなうっとりとした表情でその言葉を受け止めている。
何だかその雰囲気の中に入り込むことなんてとてもじゃないけど出来そうになくて、俺は避けるように視線を優莉に移す。すると、優莉も優莉で何だかどこに目を向ければ良いかわからないといった様子で俺の方に視線を向けていた。
――必然的に、視線が交差する。そして、『何か話さないと』という義務感……というか使命感が生まれてくる。
思えば、ここに来てから俺は優莉にまともな言葉をかけられずに今まで来ている。そもそも、ここに来たのは優莉のためであるはずなのに、事の発端を作ってしまった俺がこんな調子でどうするんだよ。
「……な、何か変な雰囲気だな」
……それなのに、結局俺が優莉に対して掛けられたのはそんな小声での言葉だったわけで。
「ふふ、そうですね。でも、何か諸岡先輩嬉しそうですよ。……諸岡先輩、谷川さんみたいな人がタイプなんですかね?」
「そう……なんだろうな、きっと。……それにしても、怜也みたいなのがタイプだなんて、環も随分と趣味悪――痛っ!!」
いきなり、足に物凄い衝撃が襲い掛かっていた。……斜め前方からの、足のすね目掛けての攻撃。
――俺の話し声をしっかりと察知していたのか、環が思いっきり俺の足のすねを蹴ってきたんだ。
「いきなり何すんだよっ!!」
「高丘くんが変なこと言うのが悪いんでしょ!」
「そうですよ倫人くん。環さんに失礼じゃないですか」
『お前が言うのかそれを!?』とか思いながらも、明らかに劣勢っぽいこの状況から逃れるべく、俺は優莉に視線を向ける。……でも、
「あ、あの……人の悪口を言うのは、良くないと思います」
――そんな優莉の言葉で、俺は完全にノックアウトしたのだった。




