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「お待たせしました。ラズベリー・ミルクレープとアプリコット・シフォンです。それと……これは、私からのサービスってことで」
「うわぁ、可愛い~♪」
怜也が持ってきたスイーツに、環は両手を組んで何とも嬉しそうな表情を見せていた。赤紫が鮮やかなラズベリー・ミルクレープに、見ただけでもふわふわに仕上がっていることのわかるアプリコット・シフォン。そして、怜也の言う『私からのサービス』。
環の視線を見るに、『可愛い』という言葉はその『私からのサービス』に向けてのもののようだった。純白のプレートの上にカットされたバナナと生クリーム。そして、その上からチョコレートのデコレーションがなされた、チョコバナナプレート……とでも言えば良いのだろうか。
「……いらないって言ったじゃねぇかよ」
「ふふ、だから『チョコバナナパフェ』は止めたじゃないですか。……パフェには見えないでしょ?」
「んなことはわかってるよ!」
「まぁまぁ、お代をとったりはしませんから、素直に喜んでくれると嬉しいんだけどなぁ」
俺のチョコバナナプレートに視線を向けたままの呟きに、怜也は微笑みを絶やすことなくそんな言葉を返してきていた。そして、ドリンクを持ってきたときとは違って、今度はすぐに去ることなくアクションを起こしてくる。
俺たちの座る四人掛けのテーブル席――その、空いている俺の横の席に怜也が座ってきたんだ。
「おい、何勝手に座って――」
慌てて抗議しようとすると、環がすぐにそれを制してくる。
「あっ、座ってください! もぅ高丘くん、何でそんなこと言うの!? せっかくサービスまでしてくれてるんだから!!」
「だからサービスなんて頼んでないし。……だいたい、ここに居座ったりして他のお客さん放っておいていいのかよ?」
「もちろん、お客さんを放っておいて良いわけないですよ。――他のお客さんがいればですけどね」
言われて、周りを見渡してみる。すると、確かに入ってきたときにはいたお客さんたちの姿がどこにも見当たらなかった。空席のテーブルには、すでにお客さんたちが残したであろう食器類の姿も残されていない。
「――ねっ」
軽く拍子抜け状態になってしまった俺に向けて、怜也は茶目っ気たっぷりにウィンクしてくる。……何か見下されているみたいで良い気分がしない。
怜也は俺への相手もそこそこに、テーブルに片肘をついて頭を支えながら優莉と環に視線を向ける。
――横から見る怜也の表情が、どうしても何かたくらんでいるように見えて仕方がなかった。




